賃貸物件の退去費用はなぜ高い?安くする方法と退去前の準備を不動産会社の店長が徹底解説!

退去精算の封筒を開けた瞬間、びっくりするような金額が目に飛び込んできた経験はありませんか?

多くの入居者が経験するこの「絶望」には、実は明確な理由があります。それは、不動産業界の構造的な課題と、貸主・借主双方の「義務の放棄」が複雑に絡み合っているからです。

しかし、退去費用は国土交通省がガイドラインを定めており、以下のものしか請求されることはありません。

  • 契約締結時に合意して、契約書に定められた費用(清掃費用や畳の表替費用など)
  • 故意(わざと)もしくは過失(うっかり)により、汚したり、なくしたり、壊した費用

それなのに、各会社や担当者、さらには家主により退去費用が異なっているのが、不動産業界の現実です。

そこで、この記事では、なぜ賃貸物件の退去費用が高額になることがあるのか、また、高額な退去費用の請求を回避する方法を不動産会社の店長が解説します。

今から賃貸物件に入居する人も、すでに退去を目前に控えている人にも役立つ内容になっています。

なお、「そんなことより、来週退去立会なんだけど、クロスや床の汚れや傷が気になってるんだよ!」という人のために、私が現場で実際に使っている補修グッズをこちらにまとめています。お急ぎの人はこちらへどうぞ。

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ぜひ最後までお読みください。

目次

退去費用が高額になる理由

ここからは、退去費用が高額になる理由を解説します。建築費の高騰や人件費の高騰などにより、そもそもの工事費用が高額になっていることも理由ではありますが、ここでは、不動産業界の構造的な部分を中心に解説を進めます。

1. 管理会社は工事をしたいと思っている

大前提として、ほとんどの賃貸物件では、家主さんとではなく管理会社とやりとりを行います。この「管理会社」は、たくさん高額な工事をしたいと考えています。なぜなら、工事による収益は管理会社の大きな売り上げの一つだからです。

管理会社もボランティアではなく営利企業です。そのため、見積金額に自社の利益を乗せるのは当然の話です。そのため、管理会社には「できるだけ多くの箇所を、高く直したい」というバイアスが働きます。管理会社はあなたを苦しめたいわけではありません。「会社や担当者としての売上ノルマ」を達成するために、見積書を膨らませる必要があるのです。

2. 借主と貸主は工事をしたくないと思っている

当事者である借主と貸主の目線で見ると、工事をしたいと思っている人は誰一人いません。なぜなら、工事費用を負担しなければならないからです。

貸主からすれば、クロスを綺麗に張り替えないと次の入居者が決まらない。その費用は退去した人に払ってもらえばいい。このような無謀なことを考える貸主が存在していることは、残念ながら事実です。

借主からすれば、今まで安くない家賃を払ってきたんだから、多少の傷や汚れくらい見逃してくださいよ。このように考えて管理会社の担当者にお願いしたり、逆ギレしたりする人も、たくさん見てきました。

この双方に共通して存在している「義務を果たしたくない」という気持ちが、高額な退去費用の見積書の作成に大きく影響を及ぼしているのです。

国土交通省のガイドラインと「1円の魔法」

管理会社から提示された見積書を見て、「高い!」と主張しても、根拠がなければ何の反論にもならず、青年の主張で終わってしまいます。そこで、ここでは、退去するときに知っておきたい「国土交通省のガイドライン」について解説します。

1. 国土交通省のガイドラインとは?

国土交通省のガイドラインとは、賃貸物件の退去に伴う原状回復費用の請求トラブルを防ぐことを目的として作成された、いわば借主と貸主が守るべきルールブックのようなものです。

直接的に法的な拘束力や罰則があるわけではありませんが、原状回復や退去費用で裁判になったとき、裁判官はこのガイドラインをもとに判断します。そのため、法律もしくはそれに準ずるルールブックと考えてよいでしょう。

国土交通省 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

あるときは武器に、そしてあるときは盾にもなるこのルールブックを知っておくことは、賃貸物件に入居する人にとっても、賃貸物件を運営している人にとっても、賃貸物件を管理する人にとっても、最低限のマナーと言えるでしょう。

2. 知らなきゃ損する「減価償却」

わざと、うっかり、汚したり壊したりしたときは、自分が払う。これについて違和感を覚える人はいないでしょう。ただ、これをさらに減額する方法があります。それが「減価償却」です。

モノは時間が経過するとその価値は下がっていきます。それは賃貸物件を構成するクロスや床材も同じです。では、退去費用を請求されるとき「すべて新品にしてください」と言われると、少し納得がいかなくなる気持ちになりませんか?

その納得いかない気持ちを解消するのが「減価償却」です。つまり、モノの価値は下落するのだから、居住した年数によって請求する金額も減らしていくべきだ、というロジックがここで成立します。

例えば、クロスの耐用年数は「6年」と定められています。これは、新築から6年経てば、その壁紙の価値は「1円」になるという意味です。なので、クロスの価値は1円、汚してしまったクロスの費用は1円しか請求されません。

次に、この事例を家主の目線で見てみましょう。6年以上賃貸物件に住んだからと言って、クロスを汚しまくった人がいて、退去するときに1円しか請求できない。それはそれで「そんな馬鹿な?」って思いますよね。

原状回復のガイドラインでもそこはきちんとカバーされており、実際に1円になるのは「クロスそのもの」だけであり、クロスを剥がして新しく貼るための「人件費」は汚した人の負担となります。

それでも、クロス代が安くなることには変わりはありません。これはクロスに限らず、床材や建具などにも耐用年数が設定されていますので、気になる人は調べてみてください。

3. どこまで補修すればいいの?

費用と単価が安くなることがわかったところで、最後は「どこまで補修するべきか」という点です。つまり、クロスをちょこっとしか汚していないのに、お部屋全体のクロスを張り替えないといけないのか?という問題を解決する必要があります。

これは非常にシンプルで、国土交通省のガイドラインに細かく規定されています。例えば、クロスであれば、基本的には1㎡単位ですが、場合によっては壁一面までを負担とすることもやむをえない、とされています。

なお、主要な部材の最小施工単位は以下のとおりです。

箇所最小施工単位
クロス㎡単位
※ただし、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない
フローリング㎡単位
※毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体
1枚単位
※毀損等が複数枚にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による)
カーペット・クッションフロア1部屋単位
1枚単位
1本単位

退去費用が請求されたときに過大な請求になっていないか、これらの内容をチェックしてみてください。

もっと知りたい!退去費用を安くする方法

原状回復のガイドラインになぞらうことで、退去費用は安くなる傾向にあります。しかし、がっつり壁に穴をあけてしまったりと、もはや言い訳も何もできない状態のときもあるでしょう。また、いつのまにか悪くなってしまっているドアや窓の建付け不良や、水道の蛇口からの水漏れなど、人によって気になるポイントはさまざまです。

そこで、ここでは、すでに破損や汚損がある状態を前提として、退去費用を安くするための方法を解説します。

1. 火災保険を使ってみる

大きく穴を開けてしまった、ドアが外れてしまっている、洗面台が割れた、などの破損が存在するときは、賃貸物件に入居するときに加入した火災保険が役に立つことがあります。

火災保険と言われると、火災や水害にしか使えないと考えてしまうものですが、実際は「不測突発的な事故」にも適用することが可能です。

例えば、以下のような事例で保険適用できる可能性があります。

  • 洗面所で髪を乾かしているとき誤ってドライヤーを落とし、洗面台を破損させてしまった。
  • 風でドアが急に開いてしまい、壁に穴を開けてしまった
  • 子どもがものを投げてガラスを割ってしまった

大きな破損が発生したときは、火災保険が適用できないかどうかをまずは確認してみてください。

なお、この火災保険の適用には、不動産業界の構造上、大きなメリットがあります。それは、管理会社が喜んで工事を進めてくれることです。なぜなら「管理会社は工事をたくさんしたいから」です。加えて、管理会社は得てして、借主と貸主の板挟みにあってしまうもの。保険適用工事なら、その心配もありませんので、喜んで保険適用の可能性を模索してくれるでしょう。

ただし、火災保険を悪用するなどはご法度です。これらの行為は、結果的に保険料の値上がりにつながる可能性があるほか、そもそも保険の悪用は違法行為です。発覚したときは、ペナルティが課されることもあるため、保険の悪用は絶対におやめください。

2. 駆けつけサービスを利用してみる

お忘れの人も多いと思いますが、毎月1,000円くらいの金額で駆けつけサービスに加入していませんか?この「駆けつけサービス」も実は結構役に立つのです。

ほとんどの駆けつけサービスは1時間以内の軽作業や手持ち部品での修理対応が無償となっています。そのため、ちょっとした建付け不良や、電球交換、水道蛇口のパッキン交換などは、ほとんど対応してくれます。

このサービスをうまく利用することで、退去時に管理会社に突っ込まれそうなポイントを事前につぶしておくのです。

今まで利用したことない、という人ほど、ぜひ使っていただきたいサービスです。

また、駆けつけサービスに加入していない人も、実は火災保険の附帯サービスとして駆けつけが付与されていることもあります。ぜひ一度、火災保険の証券やパンフレットを確認してみてください。

3. めちゃくちゃ部屋を綺麗に掃除する

最後の手段は、退去立会の当日に、可能な限り部屋を綺麗に掃除する、というシンプルなものです。「そんな付け焼刃なことで」と思われるかもしれませんが、実務ではこれが信じられないくらいの効力を発揮します。

退去立会を実施するとき、多くの人は部屋を掃除して退去されません。荷物がなくなった状態で、埃まみれの部屋で退去立会をすることがほとんどです。そのため、部屋を綺麗に掃除しておくだけで、退去立会をする担当者の心象はかなり良いものになります。

退去立会や故意過失の認定も結局は「人」が行うため、いくらガイドラインというルールブックがあったとしても振れ幅があることは否定できません。その振れ幅を自分に有利に働かせることで、最終的には退去費用の減額につなげよう、というロジックです。

なお、退去立会を何百件と経験してきた私からすれば、玄関を見ただけでおおよそ、そのお部屋の「きれいさ」がわかるようになります。

最後のあがきだと思って、立つ鳥跡を濁さず、ぜひお部屋を綺麗にして退去立会の当日を迎えてみてください。

退去費用を多く請求されるかも?管理会社の見極め方

退去立会に丸腰で挑むのは危険です。相手が「誠実に義務を果たそうとする会社」なのか、「入居者から搾り取ることしか考えていない会社」なのか。それをあらかじめ知るための最強のツールが、Googleマップの口コミです。

ここでは、管理会社がどのようなスタンスで仕事をしているのかを見極める方法を解説します。

1. 口コミの内容をチェックする

管理会社の口コミをチェックしてみてください。そのとき、レビューの平均点だけを見るのではなく、「誰が何点をつけているか」という内訳が、重要な判断材料になります。

入居者★1・オーナー★5の会社
一見すると「オーナーには好評」に見えますが、これは入居者に対して厳しい対応をする一方、オーナーには高い収益を還元していることの表れです。退去立会で、国土交通省のガイドラインを無視した高額な原状回復費用を請求してくる可能性があります。

また、「とりあえず高めの工事費をぶつけてみよう、断られたら下げればいいし」というふざけた考え方を持つ担当者が多いのも、こういった会社の特徴です。

また、この手の管理会社ほど、「カスタマーハラスメント」や「開示請求」という言葉をちらつかせている傾向が高いです。口コミに対するオーナーからの返信にこのワードがあるときは、注意すべきと考えてください。

入居者からも一定の評価(★3〜4)がある会社
「設備の不具合があったが、連絡したらすぐ対応してくれた」といった声が見られる会社は、貸主と借主双方の権利・義務をバランスよく理解している証拠です。トラブルが起きても話し合いで解決できる可能性が高いでしょう。

つまり、管理会社の本質は「平均点」ではなく「評価の内訳」に現れます。ただし、管理会社は良くも悪しくも高評価がつきにくい職種ではあります。とはいえ、入居者からも一定の評価を得ている会社を選ぶことで、後々のトラブル回避につながるでしょう。

2. 「入居者★1/家主★5」管理会社への退去立会攻略法

もし相手が「入居者に厳しい姿勢をとる管理会社」だと分かったら、当日の立会いで交渉に勝とうとしないでください。彼らは日々こうした場面に慣れているプロです。その場であなたを説得しようと、さまざまな論理を持ち出してきます。

・立会当日の鉄則は「その場でサインをしないこと」
請求内容を提示されても、即座に承諾する必要はありません。
「内容を一度精査して、国土交通省のガイドラインと照らし合わせたいので、持ち帰らせてください」
このように伝えましょう。

もし担当者が強引にサインを求めてきたら、
「私は正当な義務は果たすつもりです。ただ、納得できない内容には署名できません」
と、冷静に、しかし毅然とした態度で応じてください。


・すべてのやり取りを「文字」に残すこと
立会い後のやり取りは、電話ではなくメールや書面で進めることが重要です。「言った・言わない」の水掛け論を防ぐことが、不当な請求を退ける最大の防御になります。記録が残っていれば、相手も安易に主張を変えられません。
冷静に、証拠を残しながら対応する。これが、退去時トラブルを最小限に抑える基本戦略です。

「納得がいかなければ保証会社から請求する、信用情報に傷がつく」という脅し文句を言われることがありますが、これは単なる脅しです。なぜなら、保証会社は、確定していないお金を請求することはありえないからです。

万が一にも、承諾していない内容について保証会社から請求されたときは「この請求内容は管理会社との間で合意したものではありません。」ときっぱりお断りください。

加えて、退去立会当日に署名してしまうと、合意と見なされてしまうことがあります。項目については合意したが金額については合意していない、というあやふやな状況が発生してしまうため、中途半端な状況での署名は絶対に避けておきましょう。

退去費用は正しい算出方法に基づいた額で支払い、借主としての義務を果たそう

退去精算は、単にお金を払って部屋を返すだけの手続きではなく、貸主と借主がお互いの契約と義務をきちんと完結させるプロセスです。


ガイドラインを知ることは、わがままを通すためではなく、正当な義務を果たすためです。火災保険を活用することは、ズルをするためではなく、管理会社と双方にとって納得できる形で責任を全うするためです。
正しい知識を持ち、正しい仕組みを使い、正しい金額を負担する。このシンプルで誠実な姿勢こそが、結果的にあなたの資産を守り、管理会社との信頼関係を築く最良の方法です。

退去費用で節約できた数万円は、あなたが知恵と誠実さで勝ち取った新生活の軍資金です。新居のカーテンを良いものに変えてもいいし、欲しかった家具を買うのもいいでしょう。

何より、「自分は正しく義務を果たした」という晴れやかな気持ちで新生活をスタートできること。それが、この記事があなたに届けたかったことです。

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