
「オール電化ってプロパンより安いですよね?」
部屋探し中のお客様から、こういう質問をよく受けますが、答えはそんなに単純なものではありません。物件に入っている設備の種類と、あなたの生活スタイル次第で、答えは大きく変わります。
この記事では、他の記事が書かない「オール電化の隠れたコスト」を中心に、電気温水器とエコキュートの本質的な違い、IHの退去費用の実態、そして引越し当日にお湯が出ないという現場あるあるまで、20年以上この業界にいる現役店長が本音でお伝えします。
「オール電化=得」という思い込みを一度リセットして、ぜひ最後まで読んでみてください。
結論:「得かどうか」より「自分のライフスタイルに合うか」で選んでください
オール電化かガス併用か、どちらが住みやすいかという点において、現場で感じる差はほとんどありません。快適さという意味では、正直大差ないというのが率直な感想です。
重要なのは生活スタイルとの相性です。火を使いたくない方——たとえばご高齢の方や小さなお子さんがいる家庭——にとっては、IHの安全性はシンプルに魅力です。一方、「やっぱり料理は直火でなければ」という方にとって、IHは永遠に不満の種になります。
「どちらが得ですか?」と聞かれる前に、こういったライフスタイルのヒアリングをするのが私の習慣です。数字の比較より先に、その方の暮らし方を聞いてしまえば、答えはだいたい決まるからです。
店長の独り言
「これを言ってしまうと身も蓋もないのですが、ガス給湯器で沸かしたお湯でも、エコキュートで沸かしたお湯でも、違いなんてたぶんないです。その意味では、生活面ではそんなに差は出ないでしょう。
ただし、料理などは好みやライフスタイルが大きく影響しますので、そこに重きを置いて判断する、というのが良いと考えます。」
そもそもオール電化とは何か——設備の違いを正確に理解する
オール電化とは、調理・給湯・冷暖房などの住まいのエネルギーをすべて電気でまかなう仕様の住宅です。ガスを一切使わないため、ガスコンロの代わりにIHクッキングヒーター、ガス給湯器の代わりに電気系の給湯設備が設置されています。
ここで多くの方が見落としているのが、「電気給湯器にも種類がある」という点です。賃貸のオール電化物件には、大きく分けて2種類の給湯設備があります。
電気温水器とエコキュート——この差が電気代を決める
電気温水器は、タンク内の電熱ヒーターで直接お湯を沸かす仕組みです。イメージとしては、大きな電気ポットでお湯を沸かし続けているようなものです。消費電力が大きく、エコキュートと比べておよそ3倍の電力を使うとされています。古い物件や単身向けの小さな物件に多く見られます。
エコキュートは、空気中の熱を利用するヒートポンプ方式でお湯を沸かす設備です。エアコンと同じ原理で動いており、消費電力が電気温水器より大幅に少ないのが特徴です。比較的新しい物件や、ファミリー向けの物件に多く採用されています。
この差が、電気代に直結します。「オール電化だから電気代が安い」と思って入居したら電気温水器だった、というケースは実際にあります。内見時に確認しておくことをおすすめします。
内見での見分け方は簡単です。電気温水器はパイプシャフト(PS)や室内の設備スペースに設置されていることが多く、比較的すぐに目に入ります。エコキュートはベランダや建物の外側に設置されており、エアコンの室外機のような「ヒートポンプユニット」が必ずセットで置かれています。
冷蔵庫と室外機が2つ並んでいるように見えたら、エコキュートだと思って間違いありません。
オール電化のメリット
火を使わない安全性
IHクッキングヒーターは火を使わないため、ガス漏れや一酸化炭素中毒のリスクがありません。消し忘れによる火災リスクも大幅に下がります。高齢の方や子どものいる家庭にとって、これは純粋な安心材料です。
IHは掃除がしやすい
ガスコンロの五徳(ごとく)がないため、フラットな表面をさっと拭くだけで掃除が終わります。吹きこぼれが溝に入り込む、という悩みがなくなるのはストレスが減ります。
ガスの基本料金がなくなる
ガスを契約しない分、ガスの基本料金(月800〜1,000円程度)がかかりません。光熱費が電気料金に一本化されるため、管理がシンプルになります。
「IHは火力が弱い」は誤解
「IHだと料理が美味しくない」という声をよく聞きますが、火力の強さでいえばIHはガスコンロより高効率です。ガスコンロの熱効率はおよそ40〜50%ですが、IHは約90%とされています。問題になるのは「火が見えない」という感覚的な部分と、「鍋を振れない」という動作の制約です。実利を取るか、料理の情緒を取るかの話であって、「美味しくない」は正確ではありません。
店長の独り言
「余談ですが、IHキッチンはファミリータイプだとだいたい3口用意されていますよね。その真ん中の上の口は、実はIHではなく、ラジエントヒーターです。
つまり、IH対応していないお鍋などはそこで料理ができますし、なんならスルメを焼くこともできます。
意外と知らない人が多いので、豆知識程度に。」
オール電化のデメリット——現場の本音で話します
昼間の電気代が高い料金プランの構造
オール電化向けの電気料金プランは、深夜の電力単価を安く設定し、昼間の単価を高く設定するのが一般的です。エコキュートが深夜の安い電力でお湯を沸かし、日中に使うという設計思想に基づいています。
ただし、昔と今では事情が変わっています。以前のオール電化は深夜電力が安く、この恩恵が大きかったのですが、近年の電気料金改定によって昼間の単価が上昇し、深夜との差が縮小している地域があります。「深夜に沸かしたお湯を日中使う」というアドバンテージが以前ほど大きくないケースも出てきており、「オール電化は得」という話の前提が揺らいでいる部分があることは知っておいてください。
在宅ワーカーが不向きと言われるのも、この昼間の電気代が高い構造が理由です。ただ、現場感覚としては、昼間にいるからといって劇的に損をするかといえば、そこまで大げさな話でもありません。
お湯の量に上限がある
エコキュートはタンクにお湯を貯める仕組みです。タンク容量が決まっているため、使いすぎるとお湯が切れます。最近の機種は使用パターンを学習して翌日の沸き上げ量を自動調整する機能が付いていますが、完璧ではありません。
友人が泊まりに来て、3人連続でシャワーを浴びるような状況は、ほぼ確実にアウトです。そのときの「沸き増し」は日中の高い電力単価で行われるため、電気代もかさみます。沸き増しには数時間かかるケースもあります。
「プロパンガスよりは絶対に安い」と思っている方へ補足しておくと、節約を意識しない使い方をしている電気温水器の物件は、下手なプロパン物件より電気代が高くつくこともあります。「オール電化=プロパンより安い」は半分正解、半分は思い込みです。物件に入っている設備の種類と使い方次第で結果は変わります。
エコキュートの水圧が弱い
エコキュートはタンクに貯めたお湯を使う仕組みのため、水道直圧のガス給湯器と比べてシャワーの水圧が弱く感じる場合があります。水圧にこだわる方は内見時にシャワーを実際に出して確認することをおすすめします。
エコキュートの低周波音
あまり知られていませんが、エコキュートが夜間に稼働する際の作動音が問題になるケースが稀にあります。深夜に沸き上げを行う仕様の機種では、設置場所によってはその振動や低周波音が隣の寝室に響く、という事例も実務上ゼロではありません。内見では昼間しか確認できないため、エコキュートの設置位置が隣戸の寝室側に近くないかは、図面で確認しておいて損はありません。
停電時は共用部も含めてすべて止まる
停電になれば、調理も給湯もすべて使えなくなります。これはよく語られるデメリットです。ただ現実的には、ガス給湯器も停電時には動かない機種がほとんどです。停電時にガスコンロが使えるのは、乾電池点火タイプのものに限られます。「ガスなら停電でも安心」は半分誤解で、オール電化との差は「停電中にガスで調理できるかどうか」程度です。停電自体がそうそう長引くものでもないため、過大評価するほどのデメリットではないと私は考えています。
誰も教えてくれないエコキュートの本当のコスト
これはあまり表に出てこない話ですが、エコキュートは本体価格が高額です。機種によっては50万円を超えることも珍しくありません。設置工事費を含めると、さらにかさみます。
「エコキュートだから省エネで長持ち」というイメージがある方もいると思いますが、実際の耐用年数はガス給湯器と大きくは変わりません。一般的にどちらも10〜15年程度とされており、エコキュートだから格段に長く使えるわけではないのです。
故障した際の修理費も高くなりがちです。ガス給湯器なら部分修理で済む場面でも、エコキュートは部品代や技術料が高くなる傾向があります。オーナー側から見れば、設備投資として見合うかどうかの判断は正直難しいところです。
では、なぜオーナーはオール電化を選ぶのか。
現場の実感では、2つの理由に集約されます。
ひとつは「オール電化のほうが入居者に選ばれやすい」という印象論と、リーシング(客付け)上の戦略的な判断です。もうひとつは、建築段階で電力会社や建築会社から「ガスより設置コストを抑えられる」という提案を受けた結果です。
オーナー自身がエコキュートの詳細を熟知した上で選んでいるケースは、必ずしも多くありません。
【見落とし注意】引越し当日、お湯が出ない問題
これを知っておくだけで、賃貸物件への入居当日のトラブルを防げます。
エコキュート・電気温水器のいずれも、電源を入れてからお湯が使えるようになるまでに時間がかかります。深夜電力でお湯を沸かす設定の場合、前日の夜からブレーカーを上げておかないと、引越し当日の昼間にお湯が出ない、という状況が起きます。
オール電化の物件では、引越し前日に管理会社や大家から「前日夜にブレーカーを上げておいてください」と案内があるのが理想ですが、これが徹底されていないケースは少なくありません。当日の朝にシャワーを浴びようとしてお湯が出ない、という状況は実際によく起きます。
もしお湯が出ない場合は、給湯器のリモコンで「沸き増し(手動沸き上げ)」操作を行うことでお湯を作ることができます。ただし数時間かかるため、当日の作業がある引越しの日には痛手です。
オール電化物件に引越す方へのお願い:入居前日の夕方には管理会社または大家に連絡し、ブレーカーを上げる許可を取って前日夜から電源を入れておくことを強くおすすめします。管理する側としても、この点は事前にお伝えするようにしています。
退去費用とオール電化の関係
IHガラストップの汚れは請求対象になりやすい
IHクッキングヒーターのガラストップ面は、焦げ付きや傷が残りやすく、退去時に清掃・交換費用を請求するケースがあります。私自身、IHガラストップの汚れは退去精算で請求することが多い項目のひとつです。
フラットで掃除しやすいというのはメリットですが、逆にいえば汚れや傷が目立ちやすいということでもあります。日常的に使用後はすぐに拭く習慣をつけておくと、退去時の費用を抑えることにつながります。退去費用全般の考え方は賃貸の退去費用|何を請求されて何を払わなくていいか、現役店長が全部解説もあわせてご覧ください。
エコキュートは室外設備なので請求しにくい
エコキュートはベランダや建物外部に設置されているため、日常の風雨や汚れは経年劣化の範囲として扱われます。入居者が意図的に損傷させた場合は別ですが、通常の使用の範囲で傷や汚れがついても、退去費用として請求することはほとんどありません。
向いている人・向いていない人
オール電化が向いている人
火を使うことへの不安がある方、高齢の方、小さなお子さんがいる家庭。プロパンガスの物件を候補から外したい方。夜型の生活スタイルで深夜電力を活用しやすい方。IHの掃除しやすさを評価できる方。
オール電化が向いていない人
直火での調理にこだわりがある方(中華料理・炒め物など鍋を振りたい方)。大人数での同時シャワーが日常的にある家庭。エコキュートの水圧の弱さが気になる方。
なお、プロパンガス物件との比較については賃貸のプロパンガスは本当に損なのか?現役店長が料金差・節約術・見分け方を数字で解説もあわせて参考にしてください。都市ガス・プロパン・オール電化それぞれの特性が整理できます。
まとめ:オール電化はライフスタイルが合えばおススメの設備!
オール電化の賃貸物件を選ぶ前に、押さえておいてほしいポイントをまとめます。
まず、物件に入っているのが「電気温水器」か「エコキュート」かを必ず確認してください。室外にヒートポンプユニットがあればエコキュート、室内やPSにあれば電気温水器です。この違いが電気代の水準を大きく左右します。
次に、昼間の電気代が高い料金プランの構造を理解した上で、自分の生活スタイルと合っているかを考えてください。在宅時間が長くても致命的ではありませんが、深夜にお湯や電力を活用できる生活スタイルのほうが、オール電化の恩恵を受けやすいのは事実です。
そして、エコキュートは修理費が高く、耐用年数もガス給湯器と大差ないことも頭に入れておいてください。設備の良さがそのまま長期間のコスト優位につながるわけではありません。
最後に、引越し当日のお湯問題は事前に必ず確認してください。前日夜からのブレーカーONが、実はオール電化物件入居の最初のルーティンです。
内見時のチェックポイント全般については賃貸の内見チェックリスト|現役店長が教える管理品質の見抜き方と退去費用を防ぐ確認箇所も参考にしてください。設備確認の漏れを防ぐのに役立ちます。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
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