
今回は制限行為能力者シリーズの続きとして、成年後見制度を解説します。
成年後見制度は「認知症や精神障害などによって判断能力が不十分になった成年者を法律的に保護する仕組み」です。宅建試験では後見・保佐・補助の3類型とそれぞれの保護者の権限が問われます。そして不動産実務では、この制度が毎月のように登場する非常に実務でもよく使う論点でもあります。
この記事では、制度の全体像と3類型の概要を整理したうえで、現場でのリアルな実態をお伝えします。後見・保佐・補助それぞれの詳細は個別記事で解説します。
成年後見制度とは何か——定義と試験で問われる論点
成年後見制度を理解するうえで最初に押さえておくべきことは「なぜこの制度が必要なのか」という「理由」の部分です。未成年者には親権者という保護者が当然に存在しますが、成年者が判断能力を失った場合、法律上の保護者が自動的につくわけではありません。この空白を埋めるために設けられたのが成年後見制度です。
成年後見制度とは何か|判断能力が不十分な人を守る民法の仕組み
成年後見制度とは、認知症・精神障害・知的障害などによって判断能力が不十分になった成年者について、家庭裁判所が保護者(後見人・保佐人・補助人)を選任し、本人の財産管理や法律行為を支援・保護する制度です。
この制度の核心は「本人の自己決定の尊重」と「本人の保護」のバランスです。判断能力が低下しているからといってすべての行為を禁止するのではなく、能力の程度に応じて必要な範囲だけ保護する設計になっています。これが後見・保佐・補助という3段階の類型が設けられている理由です。
法定後見と任意後見|2つの大分類
成年後見制度は大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。
法定後見は、すでに判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所への申立てによって保護者が選任される制度です。本人・配偶者・4親等内の親族・検察官などが申立人になれます。後見・保佐・補助の3類型はすべてこの法定後見に含まれます。
任意後見は、本人が判断能力のあるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて自分で後見人を選んで契約しておく制度です。「誰に自分の財産を管理してほしいか」を本人が元気なうちに決められるという点で、法定後見より本人の意思が尊重されます。
宅建試験では法定後見の3類型が主に問われますが、任意後見の存在も把握しておいてください。
法定後見の3類型|判断能力の程度による区分
法定後見は判断能力の程度によって以下の3つに分かれます。
後見は判断能力が「まったくない」状態です。重度の認知症などが該当し、3類型の中で最も手厚い保護が与えられます。保護者は成年後見人と呼ばれます。
保佐は判断能力が「著しく不十分」な状態です。日常的な買い物はできるものの、不動産売買や金銭の借入れなど重要な判断は難しい状態が該当します。保護者は保佐人と呼ばれます。
補助は判断能力が「不十分」な状態のことを指します。3類型の中で最も軽度であり、特定の行為についてのみ保護が必要な状態です。保護者は補助人と呼ばれます。
各類型の保護者と権限|代理権・同意権・取消権
各類型の保護者に与えられる権限は「代理権」「同意権」「取消権」の3つです。
代理権は本人に代わって法律行為をする権限です。同意権は本人が行おうとする行為に同意する権限であり、同意なしに行われた行為は取り消せます。取消権は本人が行った行為を後から取り消す権限です。
3類型の権限の違いは各論記事で詳しく解説しますが、試験対策として押さえておくべき核心は「後見人には同意権がない」という点です。後見の対象者は判断能力がまったくないため、同意を求めても意味がなく、後見人が代理権・取消権を持って全面的に保護します。保佐・補助では本人の自己決定を尊重するため、同意権が中心となります。
試験で問われる例題
例題1:「成年後見人は、成年被後見人が行った法律行為について、日用品の購入その他日常生活に関する行為も取り消すことができる」
→ ×。日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消せません(民法9条ただし書)。日常生活の行為まで取り消せるとすると、本人の生活が成り立たなくなるからです。
例題2:「保佐人には、被保佐人の行為に対して常に代理権が与えられる」
→ ×。保佐人には原則として代理権がありません。家庭裁判所の審判により特定の行為について代理権が与えられることがありますが、自動的には与えられません。
【サルバナナ劇場】成年後見制度をわかりやすく解説
「成年後見制度」というお堅い法律を、1匹の老いたサルと、その相棒であるウサギの物語で解説します。 時間が進み、サルの認知症が徐々に進行していくにつれて、先祖代々の山(不動産)を売るための手続きと、ウサギの役割(サポート内容)がどのように変わっていくのか、リアルな現実をご覧ください。
ステージ1:ちょっと物忘れが増えたサルの日常
ジャングルの古い家に住むサルは、普段のバナナの買い物や生活の計算は自分でしっかりこなせます。 ただ、最近ちょっとだけ物忘れが増えてきて、「不動産売買の難しい書類」を1人で読み合わせて内容を正しく理解するのは、ほんの少しだけ心細い(業者に足元を見られないか不安な)状態です。
- サル本人の「山を売りたい」という意思ははっきりしているので、売買契約を結ぶことはまだ十分に可能です。
- 1人で戦うのが不安なサルを助けるため、相棒のウサギが後ろから優しく寄り添います。あらかじめ指定した「この山の売却手続きだけ」を、ウサギが一緒にチェックしてサイン(同意権)をしてあげることで、安全・確実に売却を進めることができます。一番サルの自由が尊重されるステージです。
- この「まだ自分主体で動けるけれど、特定の難しい契約だけサポートが必要な状態」を『補助(ほじょ)』と呼び、このときのウサギの役割を『補助人(ほじょにん)』と言います。
ステージ2:重要事項の判断が難しくなってきたサル
さらに時間が経ち、サルの物忘れが進行してしまいました。 バナナを食べたり電車の切符を買ったりする日常のことは問題なくできますが、悪質なゴリラがやってきて「この山を売って、うちの複雑なバナナ投資信託に出資しませんか?」と言われると、その内容を正しく理解して判断することが難しくなっている状態です。
- 日常の買い物はサルの自由にさせますが、「山の売却」のような人生を左右する重大な決断(9つの行為)をするときだけ、必ずガードマンであるウサギの「いいよ」というサイン(同意権)が必要になります。
- もしサルが一人で判断することが難しい状況で、ウサギに相談せずに山を売ってしまった場合は、ウサギが後からその契約を白紙に戻す(取消権)ことができます。サルのプライドを守りつつ、不利益な契約から身を守るセーフティネットです。
- この「日常のことはできるけれど、不動産売却のような重大な判断は1人では難しい状態」を『保佐(ほさ)』と呼び、このときのウサギの役割を『保佐人(ほさにん)』と言います。
ステージ3:自分が誰かも分からなくなったサル
事前の対策を行わないまま放置した結果、サルの認知症が重度まで進行してしまいました。 自分がどこの山のオーナーなのかも分かっておらず、契約書に自分の名前を書くことも、意思を伝えることもできない状態です。
- このステージを迎えた場合、サル本人と売買契約を結ぶことは、法律上の意思能力の観点から進めることができなくなります。
- 山を売却するには、裁判所に申し立てをして、ウサギにサルの財産を管理する全権を正式に引き受けてもらう必要があります。ウサギはサルの代わりに契約書にサイン(代理権)ができるようになりますが、ウサギの最優先の仕事は「サルの財産を減らさないように守ること」です。そのため、『サルの生活費や介護費用を捻出するため』という明確な理由(必要性)がない限り、裁判所は山を売る許可を簡単に下してくれません。つまり、実質的に売却が非常に困難な『塩漬けの土地』になってしまうリスクが高まります。
- この「自分の意思を伝えることも、自分で判断することも完全にできなくなった最終ステージ」を『後見(こうけん)』と呼び、このときのウサギの役割を『成年後見人(せいねんこうけんにん)』と言います。
店長の独り言
「サルバナナ劇場で解説しましたが、成年後見制度は不動産実務では本当に身近な制度です。アパートのオーナーで成年後見人(弁護士)がついているケースなんて山ほどあります。
そして正直なところ、成年後見人がついているオーナーの方が管理はやりやすいんです。後見人には被後見人の財産を守る義務がありますから、適切な修繕の提案をすれば否定されないという点があるからです。
もちろん適正な工事を適切な価格で提案することが前提であり、後見人だから何を言っても大丈夫!みたいな悪質なことは決して許されることではありません。」
実務ではこうなる|現役宅建士が使いどころを解説
成年後見制度は宅建試験の論点であると同時に、不動産実務では毎月のように登場します。法律の知識と現場の実態を紐づけることで、試験の理解が一段深まりますので、ぜひチェックしてみてください。
法律上はこうなる
成年被後見人が単独で行った法律行為は、日常生活に関する行為を除き、後見人が取り消せます(民法9条)。不動産売買・賃貸借契約・金銭消費貸借など、財産に関する重要な行為はすべて後見人の管理下に置かれます。
保佐の場合は、民法13条に列挙された重要な行為(不動産売買・借入れ・保証・相続の承認放棄など)に保佐人の同意が必要です。補助は家庭裁判所の審判で定められた特定の行為のみが対象です。
成年後見人がついている方が管理しやすい理由
実務上、アパート・マンションのオーナーに成年後見人(多くは弁護士や司法書士)がついているケースは珍しくありません。そしてこれは管理会社の立場から言えば、むしろ管理しやすい状況です。
理由は明確です。成年後見人には被後見人の財産を守る法的義務があります。建物の修繕は資産価値を守るための正当な行為であり、後見人はこれを否定する理由がありません。適正な工事を適切な価格で提案すれば、話が通じやすいのです。
後見人がついていないオーナーの場合、判断能力の低下により修繕の同意が得られないまま建物が劣化し続けるというケースの方が、実務上は困ることが多い、という皮肉な現状が実はあるのです。
月1〜2件は起きる「認知症で売れなくなる」問題の現実
不動産実務で成年後見制度が最も深刻な問題として現れるのが「親が認知症になって不動産が売れなくなった」というケースです。現場ではこのような相談が月に1〜2件はあります。
典型的なパターンはこうです。高齢の親が認知症で施設に入ることになった。施設の入所費用に充てるために親名義の自宅を売却したい。しかし親本人の判断能力がなければ売買契約に必要な意思表示ができず売却できない、という状況です。
この場合、法定後見の申立てをして成年後見人を選任すれば売却できる場合もありますが、手続きに時間とコストがかかること、また後見人が就任してもすべての売却が認められるわけではないという現実があります。
成年後見より家族信託の方が実務では有効な理由
成年後見制度の限界として現場で感じるのは、法定後見では本人がすでに判断能力を失った後の手続きになるため、使い勝手が悪い場面が多いという点です。
実務上、より有効な対策として注目されているのが「家族信託」です。本人が判断能力のあるうちに信頼できる家族に財産管理を任せる契約を結んでおくことで、認知症になった後も家族が柔軟に財産を管理・処分できます。「元気なうちに仕組みを作っておく」という点で、事前の準備が重要です。
不動産を持つ高齢の親がいる方は、まだ判断能力があるうちに専門家(司法書士・弁護士)に相談することをすすめます。権利能力・意思能力の解説もあわせてお読みください。
店長の独り言
「『親が認知症になって施設に入った。自宅を売って費用に充てたいが名義が親のまま』という相談は月に1〜2件はあります。こういうケースで後見制度の申立てを提案しても、手続きが大変だからと尻込みされるご家族も多い。だから元気なうちに家族信託を検討しておくことが大切なんです。
ただ、これを積極的に提案できる不動産会社はまだ少ないのが現状です。私自身は、早め早めにご相談いただくことをいつもお勧めしています。」
成年後見制度を知っておくことが、不動産を守る最初の一歩
成年後見制度は判断能力が不十分な成年者を保護するための制度であり、法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見の2種類があります。法定後見の3類型は判断能力の程度によって区分され、保護者に与えられる代理権・同意権・取消権の範囲がそれぞれ異なります。
試験で特に押さえるべきポイントは「後見人には同意権がない」「日常生活に関する行為は取り消せない」「保佐人には原則として代理権がない」の3点です。
不動産実務では成年後見制度は毎月のように登場します。認知症になった後では手遅れになるケースが多いため、元気なうちに家族信託などの準備を検討することが重要です。次回は法定後見の3類型のうち「後見(成年被後見人)」について詳しく解説します。
未成年者の行為能力の解説もあわせてお読みください。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中
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