賃貸退去のドア・建具トラブルは件数ナンバーワン|請求される傷・されない傷を退去立会い1,000件超の店長が完全解説


賃貸の退去トラブルで、件数が最も多い箇所はどこか。答えはドア・建具です。なぜなら、費用が高額化する箇所であるほか、故意過失による損傷が明確であるからです。

ドアや建具の傷・穴は、原因が何であれほぼ例外なく退去者の負担になります。ただし3つだけ例外があります。「網戸の張替え(破損がない場合)」「地震によるガラス破損」「網入りガラスの自然亀裂」は、ガイドライン上、賃借人の負担になりません。

もうひとつ押さえておきたいのが、和室の襖・障子紙の扱いです。フローリングやクロスは入居年数が長いほど残存価値が下がって請求額が減りますが、襖・障子紙は消耗品扱いのため経過年数が考慮されません。10年住んでいても、破れた障子紙の張替費用はほぼ全額請求されます。

退去立会いを1,000件超経験してきた現役店長として、実務における現実的な判断基準や気を付けたいポイントを解説します。「どの傷が請求されるか」「どう交渉するか」「どのように生活すればトラブルを防ぐことができるか」——この記事を読んでから立会いに臨んでください。


目次

ドア・建具の傷はほぼ100%退去者請求——その理由

フローリングには「日焼けは経年劣化」、クロスには「通常の生活による変色は借主負担にならない」という判断基準があります。しかし建具・ドアの傷にはそれがほぼありません。なぜなら、建具は経年により傷がついたり、色が変わるというものでもないからです。

「知らないうちについていた傷だから自分のせいではない」という主張をする入居者は毎回いますが、これは通用しません。賃借人は善管注意義務、つまり、自分のものではなく他人のものを扱うように丁寧に維持管理する義務、を負っています。理由がわからない傷であっても、入居者が管理する空間に発生した損傷である以上、免責の根拠にはなりません。

だからこそ建具・ドアは、担当者が最も請求しやすい箇所です。現場での件数がナンバーワンである理由は、まさにここにあります。


退去立会で多い損傷パターン——原因ランキング

退去立会いで発覚する建具・ドアの損傷には、はっきりとした傾向があります。

1位:ペットによる引っかき傷・穴(圧倒的多数)

猫による柱・ドアへの引っかき傷が断トツの1位です。ペット可物件であれば原状回復費用の請求対象になります。問題はペット不可物件でのペット飼育です。この場合は原状回復費用の請求に加え、消臭作業の追加請求、さらには契約違反による損害賠償請求の対象になり得ます。

2位:ドア上部・カーテンレールへのハンガーかけによる小傷

ドアの上部にハンガーをかける習慣がある方は要注意です。毎日の積み重ねで気づかないうちに小傷が蓄積します。さらに見落とされがちなのがカーテンレールへのハンガーかけです。重みでレールがたわみ、建具に継続的な負荷がかかります。本人がまったく気づいていない典型的なパターンです。

3位:子どもによる損傷

落書き・ぶつけ傷・蹴り穴など。子どもによるものであっても過失として請求対象になります。

4位:台風・強風によるドアの急激な開閉

「自然災害だから自分のせいではない」という主張をする入居者がいますが、これは通用しません。発生した時点で管理会社へ報告する義務があり、退去立会いで初めて申告しても免責にはなりません。この点は追って詳しく説明します。


退去立会で請求される・されない 判断基準を公開(ガイドライン準拠)

損傷・不具合の種類請求根拠
ペットの引っかき傷・穴される過失(不可物件は用法違反)
ハンガー・カーテンレールによる傷される過失
子どもによる落書き・傷・穴される過失
台風・強風による破損(未報告)される善管注意義務・時機遅れ
落書き等の故意による毀損される故意
経年によるシート・塗装の剥がれされない経年劣化
建具の建て付け不良されない管理会社責任
蝶番の自然な劣化されない経年劣化
網戸の張替え(破損なし)されない次入居者確保の維持管理費
地震によるガラス破損されない(要報告)自然災害
網入りガラスの自然亀裂されない構造上の問題

【補足:台風・地震どちらも「即報告」が原則——免責は自動的に発生しない】

地震によるガラス破損はガイドライン上、賃借人の負担になりません。ただし「地震が原因だった」と後から立証することは現実には非常に困難です。退去立会いで初めて「あの地震のときに割れました」と申告しても、それを証明する手段はほぼありません。

台風・強風による破損はそもそも善管注意義務違反として請求対象になります。

結論として、原因が何であれ損傷が発生した時点で管理会社へ即連絡することが、免責を主張できる唯一の手段です。「時期に遅れた攻撃防御は認められない」——この考え方は地震であっても台風であっても変わりません。気づいた瞬間に連絡する、それだけが自分の身を守る手段だと心得ておきましょう。

【補足:ペット不可物件でのペット飼育は二重のリスク】

原状回復費用の請求に加え、契約違反による損害賠償請求の対象になり得ます。ペット不可物件でペットを飼育することは、どう転んでも入居者に不利な結果にしかなりません。これくらいなら、と軽い気持ちでペットを飼育する人がいますが、現実は甘くありません。世の中にはペットアレルギーの人もいらっしゃいますし、飼育したくても我慢している人もたくさんいらっしゃいます。

このような状況において、こっそりペットを飼育してバレない、と考える方が不自然です。退去立会をする管理会社の担当者は、みなプロです。ペットの飼育くらいならほぼ100%判別することができます。もしもペットの抜け毛やペットと思しきひっかき傷が発見されれば、抗弁するのはほぼ不可能です。

絶対にペット不可物件でのペット飼育はやめておきましょう。


ドアの構造を知っておくと交渉できる——リアテックシートの話

建具に傷や破損がみられたときの補修方法には、実はいくつかのパターンが存在します。言い換えれば、「新しい建具に交換します」と言われたとき、落ち着いて対応できるかどうかは知識の差です。

室内ドアの表面は、リアテックシートと呼ばれる木材柄のシールが貼られているにすぎません。内部は圧縮した紙と木材の合板であるため、見た目よりも衝撃に弱い構造です。このため、損傷が表面のシートだけにとどまっているのか、内部の合板まで達しているのかによって、修繕方法と費用が段階的に変わります。

損傷の程度修繕方法費用感
軽微な表面傷タッチアップ・部分補修数千円〜1万円程度(1箇所あたり)
中程度の表面傷リアテックシート一面貼替3〜4万円程度
内部まで達する損傷内部補修+表面処理4〜7万円程度
再生不可能な損傷建具ごと交換10万円超も

「全交換します」と言われたとき、まず確認すべきは「損傷は表面だけか、内部まで達しているか」です。表面のシート貼替で対応できる損傷であれば、交換を求める根拠は薄くなります。

また、傷や穴がある場合は火災保険の「不測かつ突発的な事故」として適用できるケースがあります。退去前に保険証券を確認しておくことをお勧めします。


建具の種類別・注意点と現場の実態

室内ドア(出入り口・クローゼット含む)

室内のドアはトラブルが最も多い箇所です。最多原因はペットによる損傷で、次いでハンガーかけ・カーテンレールへの負荷による小傷が続きます。

クローゼット扉は開閉頻度が高いため、蝶番の緩みや扉の歪みが起きやすい箇所でもあります。経年劣化による建て付け不良は賃借人の負担になりませんが、過失による損傷は請求対象です。退去前に全扉を開閉して状態を確認しておいてください。

また、気を付けたいのは、ドアの「枠」部分です。特にペットを飼育していたお部屋では、ドアや引き違い戸ではなく「ドア枠」に傷がついていることが大半です。ペットを飼育している人は、ドアのみならず「ドア枠」へもペットが傷をつけないような対応策を考えておくと良いでしょう。

玄関ドア

損傷費用が最も高額になりやすい部位です。

現場で特に多いのが、ワンルームのお風呂からの結露が廊下に流れ出し、玄関ドアの下部が錆びるケースです。気づいたときには内部まで腐食が進んでいることがあり、修繕費用が高額になりやすい損傷です。お風呂使用後の換気と、廊下・玄関付近の水気の管理は在住中から意識してください。

もうひとつ見落とされやすいのがドアポスト(郵便口)の破損です。無理な力をかけたり、大きな郵便物を何度も詰め込んだりすることで破損します。小さなパーツですが請求対象になります。退去前に開閉状態を確認しておいてください。

引き違い戸(室内の引き戸)

室内に引き戸が設置されているときも、注意が必要です。なぜなら、引き違い戸はその構造からドアよりも不安定であり、ちょっとしたはずみで外れたりすることがあり、破損になりやすいからです。

そのほか、引き違い戸は明り取りのガラスが設えていることも多く、なおのこと取り扱いには注意が求められます。

店長の独り言

「余談ですが、引き違い戸の動きが悪い原因はほぼ戸車です。そしてその戸車にペットの毛が大量に絡みついていることがあります。退去立会いで引き違い戸を動かした瞬間にペット飼育がばれる——これが現場では実際によくあるパターンです。再三ですが、ペット不可物件でのペット飼育は用法違反ですので、くれぐれもおやめください。

加えて、戸車が未清掃と判明した場合は別途清掃費用を請求される可能性があります。引き違い戸の溝は、日々の清掃がモノをいうポイントです。」

網戸

破損がなければ張替費用は賃借人の負担になりません。ただし破れ・穴あきは過失として請求対象です。網戸は意外と破れやすい素材のため、退去前に全面を確認してください。

なお現場判断として、よほど人為的と認められない限りは、網戸は原則として退去する人の請求対象とならないことがほとんどです。

店長の独り言

「網戸の張替えを退去時に請求することはほとんどないのに、なぜか入居中の網戸の張替えは入居者負担、という契約になっていることがほとんどです。いったい、網戸は長期的に使えるものとして見ているのか、もしくは消耗品としてみているのか、不動産に長く携わっている私でも、よくわからないポイントです。」

襖・障子(和室のある物件)

最近はすっかり数が少なくなりましたが、和室があるお部屋では襖や障子がつきもの。襖や障子に割れや破損がみられるときは、これもほぼ問答無用で退去者負担となります。なお、施工が悪く剥がれてきたものと、人的な要因で剥がれたの野の見分けくらいは退去立会担当者は判別しますので、くれぐれも嘘はつかないようにしましょう。

修繕単位は1枚単位。色・模様合わせが必要な場合は居室全体の枚数になります。

店長の独り言

「フローリングやクロスは入居年数が長いほど残存価値が下がって請求額が減ります。ところが襖・障子紙はそうなりません。消耗品として扱われるためガイドラインが経過年数を考慮しないと定めているためです。10年住んでいても、破れた障子紙の張替費用はほぼ全額請求されます。和室のある物件に住んでいる方は、在住中から丁寧に扱うことが唯一の予防策です。」

キッチン下収納

建具として見落とされやすい請求箇所です。キッチン下はシンクからの水がしたたりやすい構造のため、収納扉表面のシートが浮いてくることがあります。小さな浮きでも原状回復の請求対象になり、専門業者が持ち帰ってシートを張り直す必要があるため費用が高くなりやすい箇所です。

退去前には、扉に表面の浮きや変色がないか確認してください。また、入居中はくれぐれも水撥ねに注意するとともに、滴った水滴を適宜拭き取るようにしてください。


退去前日にやるべき最低限チェックリスト

  • [ ] 全室内ドアの表面を目視・手触りで確認する
  • [ ] ドア上部・カーテンレール周辺を重点確認する
  • [ ] クローゼット扉・収納扉を全て開閉して状態を確認する
  • [ ] 玄関ドアの内側・外側・ドアポストを確認する
  • [ ] 玄関ドア下部の錆び・腐食を確認する(特にワンルーム)
  • [ ] 引き違い戸の溝・戸車の清掃状態を確認する
  • [ ] 網戸の破れ・穴がないか確認する
  • [ ] 和室がある場合は襖・障子を1枚ずつ確認する
  • [ ] キッチン下収納の扉表面の浮き・変色を確認する
  • [ ] 傷・穴がある場合は火災保険の対象になるか確認する
  • [ ] 発見した損傷は退去前に管理会社へ報告する

【補足:建て付け不良・クローゼット開閉不良は「駆けつけサービス」で解決できる場合がある】

建具の建て付けが悪い、クローゼット扉の開閉がスムーズでない——経年劣化によるものであれば賃借人の負担にはなりません。ただし退去前に気づいた場合、管理会社の駆けつけサービスで建具調整をしてもらえる可能性があります。対応してもらえれば、退去立会いでの心証も良くなります。

ただし駆けつけサービスが建具調整まで対応しているかどうかは、事前に確認が必要です。対応範囲はサービスによって大きく異なり、建具調整まで対応しているケースは決して多くありません。

店長の独り言

「駆けつけサービスで建具調整まで対応している管理会社は、正直なところ多くありません。逆に言えば、駆けつけサービスの対応範囲を明示していたり、物件の特性に合わせて駆けつけサービスを選んでいる管理会社は、それだけ入居者のことを考えているということ。

退去のときだけでなく、入居中のトラブル対応力は管理会社を見極める目安のひとつだと思っています。」


まとめ|ドア・建具の退去で損しないための3原則

① 建具の傷・穴はほぼ例外なく請求対象——ただし「即報告」が免責の唯一の手段

網戸(破損なし)・地震・網入りガラスの自然亀裂は免責になりますが、いずれも発生時に報告していることが前提です。「後から言っても通じない」——これが現場の実態です。何か起きたら即連絡、これだけは徹底してください。

② リアテックシートの構造を知っていれば「全交換」と言われても落ち着いて対応できる

損傷が表面のシートだけにとどまっているなら、全交換を求める根拠は薄い。この知識があるだけで、退去立会いの場での対応が変わります。火災保険の適用可否も忘れず確認してください。

③ 襖・障子紙と引き違い戸の戸車は「日々の扱い」が退去費用を左右する

経過年数が考慮されない襖・障子は、在住中から丁寧に扱うことが唯一の予防策です。引き違い戸の溝は定期的な清掃を。そしてペット不可物件でのペット飼育は、建具トラブルの中で最も高額かつ複雑なトラブルに直結します。


建具・ドアのトラブルは、知識があれば防げるものと、交渉できるものが確実にあります。この記事が退去立会いに臨む前の一助になれば幸いです。


この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

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