
「退去のとき、畳の費用って払わないといけないの?」
最近はめっきり減った和室ですが、賃貸の現場では意外と和室ファンが多く、このような疑問や質問は実際に多く寄せられるところです。
結論から申し上げますと、故意・過失がなければ畳の原状回復費用は原則として貸主負担です。ただし古いアパートや個人家主の物件では「退去時の畳表替えは借主負担」という特約が今も多く残っており、この場合は話が変わります。また修繕方法は「表替え→裏返し→新調」の順で、畳の土台部分(畳床)まで損傷が達しない限り、新調になることはほぼありません。
ネット上には「畳の原状回復は基本的に貸主負担」という記事が多くあります。それ自体は間違いではありませんが、その説明だけでは現場の実態の半分しか伝わっていません。特約の問題、修繕の順序、琉球畳の費用感——退去立会いを1,000件超経験してきた現役店長として、現場でしか見えない情報をこの記事で補います。
なお、この記事では一部アフィリエイトを利用して商品を紹介しています。紹介する商品は実際に店舗で利用しているものですので、ぜひ参考にされてください。
退去時の畳費用、払うのは貸主?借主?——原則と例外を整理する
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の住まい方をしていて発生した損耗は経年劣化・通常損耗として貸主負担とする考え方が示されています。畳も例外ではありません。故意・過失がなければ、退去時の畳の原状回復費用は原則として貸主が負担します。
ただ現場の話をすると、退去立会いで最もよく目にする畳の損耗は「カスレ」です。歩き続けることで畳表が擦れ、表面が傷んでいく状態のことです。これは人が生活している以上避けられない損耗であり、借主の過失ではありません。
面白いのは、家具を置いていた部分が一番きれいに残っているケースが多いことです。直射日光が当たらず、踏まれることもない。結果として家具の跡だけがきれいに残り、その周囲の畳が傷んでいるという光景は退去立会いで珍しくありません。
店長の独り言
「畳のカスレは退去立会いで最もよく見る損耗です。歩けばすれる、それだけのことです。これを借主の過失と言う家主や管理会社はかなり危険な会社と言うことができるでしょう。むしろ家具を置いていた部分が一番きれいに残っていたりする。畳とはそういうものです。
カスレを理由に請求されそうになったときは、ガイドラインの『通常損耗』という言葉で正しく反論してください。」
退去時の畳、請求される傷・されない傷|判断基準を一覧で公開
| 損傷・不具合の種類 | 請求 | 根拠 |
|---|---|---|
| 歩行によるカスレ・色あせ | されない | 通常損耗・経年劣化 |
| 日焼けによる変色 | されない | 経年劣化 |
| 家具の設置跡(凹み) | されない | 通常損耗 |
| タバコの焦げ跡 | される | 過失 |
| 飲み物・食べ物のシミ | される | 過失 |
| 灯油のシミ | される | 過失 |
| ペットの引っかき傷・尿・臭い | される | 過失(不可物件は用法違反) |
| 物を引きずった傷・へこみ | される | 過失 |
| 濡れ放置によるカビ・変色 | される | 善管注意義務違反 |
| 畳床までのカビ損傷 | される(高額) | 善管注意義務違反 |
故意・過失による損傷の中で現場で最も多いのはタバコの焦げ跡です。次いでペットの引っかき傷・尿汚れが続きます。ペット不可物件でのペット飼育は契約違反であり、原状回復費用の請求に加えて損害賠償請求の対象になり得るため、注意が必要です。
なお、ごくたまに見られるのが、万年床(布団を引きっぱなし)であったため、カビが発生しているケースです。度合いにもよりますが、このケースでは衛生面を考え、多くの場合表替えではなく新調になることがあるため、くれぐれも和室は清潔に利用するように心がけましょう。
畳床まで損傷が達すると費用が一気に跳ね上がる
畳の土台である畳床まで損傷が及ぶのは、何かを落としたケースではなく、ほぼ例外なく濡れによるものです。カビで真っ黒に変色しているため退去立会いでひと目でわかります。
この状態になると畳表の交換(表替え)では対応できず、畳床ごとの交換(新調)が必要になります。費用は1枚15,000〜30,000円程度となり、通常の表替えとは比べものにならない金額になります。水まわり近くの和室・窓際の畳は在住中から水気の管理を意識してください。
畳の表替え・裏返し・新調——修繕方法と費用の違いを正しく理解する
畳の3層構造を知っておくと交渉できる
畳は3つの層で構成されています。イメージしやすくするために「枕と枕カバー」で考えてみてください。枕カバーが汚れた場合はカバーだけ洗えば済みますが、枕本体まで汚れが染み込んでいたら枕ごと交換が必要になります。畳もまったく同じ構造です。
畳床(たたみどこ)は畳の土台で、藁・ボード・ウレタンフォームなどが使用されています。ここまで損傷が達すると修繕費用が大きく跳ね上がります。畳表(たたみおもて)は表面のゴザ部分で、退去時の損傷のほとんどはここで発生します。畳縁(たたみべり)は畳の側面を覆う布部分です。
「新調が必要です」と言われたとき、損傷が畳表だけにとどまっているのか、畳床まで達しているのかを確認することが重要です。畳表の損傷であれば表替えで対応できる場合がほとんどです。
修繕の3段階と費用感
| 段階 | 修繕方法 | 内容 | 費用感 |
|---|---|---|---|
| 1段階 | 表替え | 畳表を新しいものに張り替える | 5,000〜10,000円/枚 |
| 2段階 | 裏返し | 畳表の裏面を使う | 3,000〜5,000円/枚 |
| 3段階 | 新調 | 畳床ごと交換 | 15,000〜30,000円/枚 |
店長の独り言
「畳の修繕は表替え→裏返し→新調の順番です。実務では畳の原状回復はほぼ表替えです。新調は畳に著しい不陸が生じるほど傷んでいない限りそうそう出てきません。
何より、この畳の構造自体を知らない担当者が多いように感じます。『新調します』と言われたとき、本当に新調が必要な状態かどうか、一度確認する価値はあると思います。」
琉球畳は枚数も単価も増える——費用が一気に跳ね上がる
近年の築浅物件やリノベーション物件に多く採用されている琉球畳(半畳サイズ)は、6畳の部屋で12枚敷きになります。一般的な畳とは枚数も単価も異なります。
| 種類 | 枚数(6畳) | 表替え単価 | 合計目安 |
|---|---|---|---|
| 一般的な畳 | 6枚 | 5,000〜10,000円 | 3〜6万円 |
| 琉球畳 | 12枚 | 10,000円 | 12万円前後 |
「おしゃれな和室」として人気がありますが、退去時の費用感は一般的な畳とは別物です。損傷パターン自体は一般的な畳と同じですが、枚数と単価の掛け算で費用が膨らみやすい点を在住中から意識しておく必要があります。
店長の独り言
「琉球畳の部屋に住んでいる方は特に意識してほしいのですが、枚数が倍・単価も高い、この2つが重なると6畳一間の表替えだけで12万円前後になります。タバコの焦げひとつ、飲み物のシミひとつが一般的な畳の部屋より高くつくのです。おしゃれな部屋には相応のコストがある、ということを入居中から頭に入れておいてください。」
「退去時の畳表替えは借主負担」特約——古いアパートは契約書を必ず確認する
畳の原状回復費用は原則として貸主負担ですが、契約書に特約が記載されている場合は話が変わります。「退去時の畳表替えは借主負担」という特約は、古いアパートや個人家主の物件では今もよく見かけます。一方で築浅物件やファミリータイプのマンションではほぼ見かけません。
特約が有効になるには3つの条件を満たす必要があります。①客観的に見て特約を設ける必要性があること、②貸主の過剰な利益目的でないこと、③借主が内容を理解して合意していること、です。
ただし現実問題として、契約書にサインした以上は基本的に有効とみなされます。入居前に契約書の特約欄を確認することが唯一の予防策です。
なお、賃貸物件では畳を含む設備は原則として量産品を使用します。どんな畳を使うのか、どんな材料を使うのか、など気になるところはあるかもしれませんが、素材の種類よりも特約の有無を確認することの方が、実務上はずっと重要です。
店長の独り言
「琉球畳やオーダーメイドの建具など、原状回復時に高額になる可能性がある箇所がある物件では、私は事前に契約書に文言を添えるようにしています。『この箇所は原状回復でこの作業が必要になるため、通常より費用が高くなる可能性があります』という内容です。
退去時に『聞いていない』というトラブルになる方がお互いにとって不幸です。こういった事前説明があるかどうかは、良心的な管理会社・担当者を見極めるひとつの目安になると思っています。」
畳の修繕単位と費用負担の範囲——「全部交換」を求められたら確認すること
ガイドラインでは、畳の修繕単位は原則として1枚単位とされています。損傷が複数枚に及ぶ場合はその枚数分ですが、1枚の汚れを理由に部屋全体の表替えを請求されるケースは過剰請求の可能性があります。
また畳表は消耗品として扱われるため、経過年数は考慮されません。フローリングやクロスは入居年数が長いほど残存価値が下がって請求額が減りますが、畳表はそうなりません。10年住んでいても、過失で傷つけた畳表の張替費用はほぼ全額が請求対象になります。同様に畳縁・障子紙・襖紙も消耗品扱いです。和室に減価償却は似合わない、と言ったところでしょうか。
入居時に和室のシートを確認する——退去費用を増やさないための現場の豆知識
退去記事の中に入居時の話を入れるのは珍しいかもしれませんが、これを知っているかどうかで退去時のトラブルリスクが変わるため、あえて書きます。
原状回復工事が完了した畳には、日焼け防止のために黒いシートをかぶせることがあります。畳はい草などの植物素材のため日焼けしやすく、次の入居者が来るまでの間、このシートで畳を保護しています。
ただしシートをかぶせた状態が続くと、畳と床の間に湿気がこもりカビが発生することがあります。内見時に和室に黒いシートが敷いてあった場合は、入居後にシートを外してアルコールスプレーで畳表を軽く拭いておくことをお勧めします。
入居直後の畳の状態を写真で記録しておくことも、退去時のトラブル防止に有効です。「入居時からあったカビ」を退去時に過失として請求されないための備えになります。
参考程度ですが、我々が現場でも利用している、抗菌作用のある畳の洗剤をご紹介します。こういったものを一本持っておくだけで、安心感が変わりますね。畳の掃除など気になる人は、ぜひ一度チェックしてみてください。
退去前日にやるべき畳のチェックリスト
- [ ] 入居時に撮影した写真と現状を比較する
- [ ] 全畳の表面を目視・手触りで確認する
- [ ] タバコの焦げ跡・飲食物のシミがないか確認する
- [ ] 窓際・水まわり近くの畳の変色・カビがないか確認する
- [ ] 畳表の端を持ち上げて下面に湿気・カビがないか確認する
- [ ] 琉球畳の場合は12枚全枚を確認する
- [ ] 特約の内容を契約書で確認する
- [ ] 損傷がある場合は退去前に管理会社へ報告する
まとめ|賃貸の畳退去で損しないための3原則
① 故意・過失がなければ原則貸主負担——ただし特約は例外
カスレ・日焼け・家具の設置跡は経年劣化として請求されないのが原則です。ただし古いアパートの特約には要注意。「そんな特約があったとは知らなかった」では通用しません。確認は必ず入居時に。
② 畳床まで損傷が達すると費用が一気に跳ね上がる
濡れ放置によるカビ損傷が最も深刻です。水まわり近くの和室と窓際は在住中から水気の管理を意識してください。「新調します」と言われたとき、畳床まで本当に損傷が達しているかを確認する価値があります。
③ 琉球畳は枚数も単価も高い——おしゃれな和室には相応のコストがある
6畳で12万円前後になり得ます。築浅・リノベ物件の琉球畳部屋に住んでいる方は、一般的な畳の部屋と同じ感覚で扱うと退去時に大きな差が出ます。在住中から丁寧な扱いを。
畳のトラブルは、知識があれば防げるものと、交渉できるものが確実にあります。この記事が退去立会いに臨む前の一助になれば幸いです。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中