賃貸のフローリングがきしむのは入居者のせい?20年・1,000件の退去立会いで見えた負担の線引き

新居に引っ越してしばらく経つと、歩くたびにギシギシと鳴り始めるフローリング。自分のせいで壊してしまったのか、退去時に修繕費を請求されるのではないかと不安になる方は少なくありません。

結論から言うと、ほとんどのきしみは自然劣化であり、入居者の費用負担にはなりません。ただし、きしみの原因と、発見後の対応の仕方によっては例外があるのも事実です。

私は不動産会社の店長として20年以上、1,000件を超える退去立会いを経験してきました。「このきしみは誰の責任か」という判断を何度も繰り返してきた現場の視点から、費用負担の線引きをできるだけ具体的にお伝えします。

ぜひ最後までお読みいただき、フローリングのきしみの悩みから解放されてください。


目次

賃貸のフローリングがきしむ主な原因

フローリングのきしみは、大きく「床材と下地の間の問題」と「木材そのものの変化」の2種類に分けられます。いずれも経年変化が主な要因であり、入居者が日常生活を送るなかで意図せず引き起こすものではありません。実際の修繕の現場では「特に何もしていないのに音が出始めた」というケースが圧倒的多数です。

接着剤の経年劣化

現場で最も多いのが、床材と下地を固定している接着剤の劣化です。フローリング材は施工時に根太(ねだ)や合板の下地に専用の接着剤で貼り付けられています。この接着剤は年月とともに弾力を失い、少しずつ剥がれ始めます。踏み込んだとき床材がわずかに動き、下地とこすれる音がきしみとして聞こえる仕組みです。

現場の感覚では、築10年を過ぎたあたりから「歩くと鳴る」という相談が増えてきます。特定の1か所だけが鳴るのであれば接着剤の部分的な剥離、複数箇所で広範囲に鳴るのであれば全体的な経年劣化と判断することが多いです。

木材の吸湿・乾燥による膨張と収縮

フローリングに使われる木材は、気温や湿度の変化に応じて膨張と収縮を繰り返します。夏場に湿気を吸って膨らみ、冬場の乾燥で収縮するというサイクルを何年も続けると、部材の継ぎ目がわずかにずれてきます。踏むたびに継ぎ目が動いて音が出るのが、いわゆる「季節性の床鳴り」です。梅雨明けや暖房を使い始める時期に急に音が出やすくなるのはこのためです。

根太・床下地の経年変形

床を支える根太や合板の下地は、建物の荷重を長年受け続けることで少しずつたわみます。下地が変形すると上に貼ったフローリング材との密着が不均一になり、踏んだときの微細な動きがきしみとして現れます。特に木造の古い物件では根太そのものが乾燥して収縮しているケースも多く、床鳴りが起きやすい構造になっていることがあります。

これらはいずれも「通常の生活を続けた結果として自然に生じる劣化」であり、入居者の過失とはみなされません。

フローリングのきしみは見た目には変化がないため、「どこかが壊れた」という感覚が湧きにくい症状です。しかし床鳴りが始まった背景には、こうした構造的・材料的な経年変化が積み重なっています。入居者が何か問題のある使い方をした証拠にはなりません。


店長の独り言

「誤解がないように申し上げておきますと、すべてのフローリングのきしみが施工不良などの理由で発生するものではありません。なんなら、新築物件であってもきしみが発生することはありえます。

フローリング自体は人工的なものですが、それを支える下地はすべて木材であるため、自然相手のもの。どうしても季節や劣化によって音が発生することは避けることができない問題なのです。」

入居者の負担になるケースとならないケース

退去立会いの現場で最もよく問題になるのが、「このきしみは自然劣化か、過失か」という判断です。

原則を先に示すと、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、通常の生活で生じた損耗はオーナー負担とされています。フローリングのきしみが経年劣化から生じているのであれば、修繕費を入居者に請求する根拠はありません。

一方で、以下のケースは過失として費用負担を求められる可能性があります。ただし「過失かどうか」の判断は貸主側だけで一方的に決めるものではなく、双方の合意や最終的には専門機関の判断が必要になります。まずは落ち着いて状況を整理することが大切です。

重量物の長期集中設置

ピアノや大型の水槽、業務用の冷蔵庫など、極端に重いものを一箇所に長期間置き続けると、その部分のフローリングが局所的に沈み込みます。通常の生活では生じない荷重をかけ続けた結果の損傷は、通常損耗と区別されるケースがあります。

判断の分かれ目は、入居前に申告・承諾を得ていたかどうかです。管理会社や貸主へ書面などで伝え、了承を得ていれば過失と認定されにくくなります。無断で設置していた場合は認定されやすいと理解しておいてください。なお一般的な家庭用の家具(本棚、食器棚、タンスなど)は通常の生活用品の範囲内とみなされるため、これらによる床の沈み込みは過失にはなりません。問題になるのは、一般家庭では通常想定されない重さの物を設置した場合です。

ペットの爪による床材の損傷

ペットの引っかき傷がフローリングの表面深くまで達し、そこから水分が染み込んで下地まで傷んだ場合、きしみの遠因として問題になることがあります。ただしこれは「きしみの責任」というよりも、傷そのものに対する修繕費の話です。入居時にペット飼育の承諾を得ていても、過度な損傷については費用負担が発生することがあります。

水漏れ・結露の長期放置

最も深刻なのがこのケースです。床に水が染み込んでいると気づいていながら放置し、木材が腐食してきしみや沈み込みが生じた場合は、拡大損害として入居者に費用を求められる可能性があります。

重要なのは「知っていながら放置したかどうか」という点です。気づいた時点で管理会社に連絡していれば、その後の損傷はオーナー側の対応遅延として扱われます。しかし連絡の記録がなければ、入居者が長期間放置したと判断されかねません。

なお、窓まわりの結露による床材の傷みは判断が難しいケースが多いです。結露は建物の断熱性能や換気設計に起因することも多く、入居者の換気不足だけが原因とは言い切れません。気になる場合は早めに管理会社へ相談し、対処方法を聞いておくのが安全です。

フローリングのきしみを応急処理する方法

賃貸物件でフローリングのきしみが発生したとき、修理するのは困難を極めます。なぜなら、症状が軽微であれば小さい穴から接着剤を投入したりして修理することができますが、それでも改善が見られないときは、フローリングを剥がす必要が生じるからです。

そこで、ここでは、フローリングのきしみが生じたとき、自分で対応する方法について解説します。

もちろん、賃貸物件は自分の持ち物ではありませんので、自分で好きなようにフローリングを剥がしたり貼ったりすることはできませんし、するべきでもありません。

フローリングのきしみは「歩いたら鳴る」ことがほとんどです。これを逆手に取る方法が良い方法です。

具体的には、きしみが出る箇所に家具などを置いてしまう方法です。これにより、常に床は押された状態になるため、きしみが鳴らなくなります。模様替えついでに試してみる価値はあるでしょう。

しかし、きしみの発生箇所が廊下であるときは家具を置くわけにもいきません。そのときは、ご紹介した床鳴りを解消する補修材を自ら注入する方法を試してみてください。


それでもまだ音が気になるときは、床にタイルカーペットを貼る方法があります。実はタイルカーペットは1枚当たり約1.5㎏ほどあるため、それなりの重しになります。かつ、タイルカーペットに静音機能のあるタイプを使うことで、きしみを感じにくくなる、というわけです。



きしみを発見したらすぐ管理会社に連絡すべき理由

「たいしたことではないかもしれない」「クレームだと思われるのが嫌だ」という気持ちから、きしみを放置してしまう入居者の方は少なくありません。しかし退去立会いの現場から言えば、放置こそが最もリスクの高い選択です。

理由は明確です。きしみが「いつ始まったか」という時系列が、退去時の費用負担の判断に直結するからです。管理会社へ連絡した記録があれば、「入居者は早い段階で異変に気づき、適切に報告した」という証拠になります。一方で連絡なしに退去を迎えると、「いつから問題があったか不明」となり、経年劣化と過失の区別がつきにくくなります。

また、きしみが接着剤の劣化や根太のたわみから生じている場合、放置によって床材が浮いたり割れたりと損傷が進行することがあります。こうした二次的な損傷の修繕費が問題になったとき、報告の記録がないと入居者に不利に働く可能性があります。

連絡の際に伝えておくべき内容

連絡は電話だけでなく、メールや管理会社のアプリなど文字として残る手段を使うことをおすすめします。内容は以下の3点を簡潔にまとめれば十分です。きしみに気づいた時期のおおまかな目安、音がする場所(何番の部屋のどのあたりか)、どんな状況のときに音がするか(歩いたときだけか、特定の場所を踏んだときだけかなど)です。

この3点を記録として残しておくだけで、退去時の交渉において大きな違いが出ます。自然劣化によるきしみであれば修繕費はオーナーや管理会社が負担するのが原則であり、入居者の費用は発生しません。

管理会社への連絡をためらう方の多くは、「小さなことで連絡していいのか」という気持ちを持っています。しかし不動産管理の現場から言えば、早い段階での相談は歓迎です。放置されて症状が進行してからの対応のほうが、オーナーにとっても管理会社にとっても対処が難しくなります。連絡することはクレームではなく、入居者として当然の権利の行使です。

店長の独り言

「入居している人がなにか不具合を見つけたとしましょう。そのときはいわば『レベル1』の破損だったとします。

それから、数年が経過すれば、もちろん破損箇所はどんどん悪くなり、いずれは『レベル5』に至るでしょう。

そうなると、『何もしていないのにこうなった』という入居者の言い分も正しい反面、『なぜこうなるまで放っておいたんですか』という管理会社や家主側の意見も当然正しくなります。これが退去トラブルなどの原因の一つです。

こうならないためにも、何かあったらすぐに連絡するようにしてください。」


退去時にフローリング修繕費を請求されたらどうする?

きしみを理由にフローリングの修繕費を請求されたとき、根拠を確認しないまま支払ってしまう方が多いのが現実です。しかし冷静に対応すれば、不当な請求を退けられるケースは少なくありません。

請求の根拠を確認する

まず確認すべきは、「なぜ入居者の負担なのか」という根拠です。「きしみがあった」という事実だけでは、入居者に費用を請求する根拠にはなりません。過失が問われるためには、通常の生活の範囲を超えた使用があったことを貸主側が示す必要があります。「誰が、いつ、どのような使用をしたことで損傷が生じたか」を具体的に説明できない請求には、応じる必要はありません。退去精算書を受け取ったら、「きしみ」に関する項目がある場合は根拠を書面で求めることをおすすめします。口頭でのやり取りだけで進めてしまうと、後になって「言った・言わない」という状況になりやすいです。

国土交通省ガイドラインを参照する

国土交通省の原状回復ガイドラインでは、経年劣化や通常損耗による原状回復費用はオーナーが負担する原則が示されています。フローリングのきしみが接着剤の劣化や木材の変化から生じているのであれば、入居者への請求は原則として認められません。ガイドラインはインターネットで公開されており、誰でも参照できます。

耐用年数による減価を主張する

仮に修繕費の一部を負担することになった場合でも、耐用年数による減価の考え方が適用されます。フローリングは建物の耐用年数に準じて評価されるのが一般的で、築年数が経過しているほど残存価値は低くなります。

たとえば築15年の物件でフローリングを張り替える場合、新品同様の工事費を全額入居者が負担するよう求められても根拠がありません。経過年数に応じた減価を適用した金額が、入居者の負担上限の目安となります。具体的な計算の考え方については、下記の耐用年数記事で解説しています。

フローリングを含む内装材の耐用年数の考え方については、こちらの記事で詳しく解説しています。


まとめ:きしみで損しないための3つの行動

賃貸のフローリングのきしみは、多くの場合において自然劣化であり入居者の費用負担にはなりません。しかし発見後に何もしないことが、退去時のリスクを高めてしまいます。

現場の経験をもとに言えば、「きしみを理由に入居者負担と判断した案件」のほぼすべては、重量物の無申告設置か水漏れ放置が原因でした。単純な経年劣化のきしみを根拠に請求が認められたケースは、1,000件を超える退去立会いの経験のなかでもほとんど記憶にありません。正しく行動すれば、不要な出費を防ぐことは十分に可能です。

以下に3つのポイントをまとめます。

①きしみの状況を自分で記録しておく。いつ頃から、どの場所で、どんな状況のときに鳴るかをメモしておきましょう。退去時に証拠として使えます。

②気づいたらすぐ管理会社にメールで連絡する。「いつ・どこで・どんな音か」を文字で残すだけで十分です。これが退去時の最大の防御になります。

③退去時に請求された場合は根拠を確認する。国土交通省のガイドラインと耐用年数を確認したうえで、納得できない請求には丁寧に異議を伝えましょう。根拠のない請求に応じる義務はありません。

きしみという些細に見える問題も、正しい知識があれば冷静に対処できます。この記事が、賃貸トラブルで損しないための判断材料として役立てば幸いです。

この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

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