
フローリングに傷をつけてしまった。退去のとき、いくら請求されるのか??そう不安になる気持ちはよくわかります。
ただ、インターネットで調べると「10年経てば負担ゼロ」「小さな傷は見逃してもらえる」という情報が目につきます。これらは半分正しく、半分は誤解です。
私は不動産会社の店長として20年以上、1,000件を超える退去立会いを経験してきました。現場の視点から、費用負担の線引きと正しい対処法をお伝えします。
この記事でわかること
- フローリングの傷が入居者負担になるケース・ならないケース
- 「10年経てば負担ゼロ」という誤解の正体
- 「小さな傷なら大丈夫」が半分嘘である理由
- 補修キットで自分で直してはいけない理由
- 引越し業者がつけた傷の正しい対処法
- 傷をつけてしまったときの費用の目安
フローリングの傷、入居者負担になるケース・ならないケース
まず原則を整理します。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、フローリングの傷の費用負担は原因によって明確に分けられています。
入居者負担になるケースは、故意または過失によって生じた傷です。
物を落としてできたへこみは、うっかりであっても入居者の過失です。「わざとではない」という事実は関係なく、注意していれば防げた損傷として扱われます。家具を引きずったときの擦り傷、ペットの爪による引っかき傷、水分の放置によるシミや変色なども同様です。
キャスター付きチェアの傷は、チェアマットなしで使っていた場合は入居者負担です。ただしこれはそもそもマットを敷いていれば傷がつかないという話であり、使い方の問題です。
オーナー負担になるケースは、通常の生活で自然に生じた損耗です。家具の設置跡やへこみ、窓際の日焼けによる変色、経年による表面の劣化などが該当します。入居者がどれだけ丁寧に生活しても避けられない変化であり、修繕費をオーナーが負担するのが原則です。
なお、傷の原因が「不測かつ突発的な事故」に該当する場合、借家人賠償責任の特約がある火災保険でカバーできるケースがあります。加入している保険の内容を確認してみてください。
「10年経てば負担ゼロ」は誤解——耐用年数の正しい読み方
「10年経過したら入居者の負担はゼロになる」という情報が広まっています。これは誤解です。現場でもこの思い込みからトラブルになるケースが少なくありません。
耐用年数の適用は、修繕の方法によって変わります。
部分リペア・部分補修の場合、耐用年数はカウントされません。傷のある箇所だけを補修する場合は、築年数に関わらず補修費用の全額が入居者負担になります。
全面貼替の場合のみ、耐用年数が適用されます。フローリングを全面的に張り替える場合は、建物の耐用年数に応じた残存価値の割合で負担が計算されます。
そしてここが最も重要です。10年を超えた物件であっても、工賃(施工費用)は発生します。これはガイドラインに明記されています。「10年経ったから何も払わなくていい」は誤りで、材料費がゼロになったとしても職人が動いた分の費用は入居者が負担します。10年経過で過失がなくなるわけではありません。
耐用年数の計算の詳細はこちらで解説しています。 → 賃貸退去の耐用年数一覧と減価償却の計算方法
「小さな傷なら大丈夫」は半分嘘——現場の判断基準
「小さな傷は見逃してもらえる」という情報も半分は正しく、半分は誤解です。
小さな傷を「見逃す」という表現は正確ではありません。現場では「生活の範囲内として処理する」という判断をすることがあります。見逃しているのではなく、通常損耗の範囲として評価した結果として請求しない、という判断です。
ただし、小さな傷でも数が多くなれば話は変わります。現場の感覚として、大きな傷が一か所ある部屋よりも、小さな傷が全体に散らばっている部屋の方が印象が悪いというのが実態です。
判断は傷の大きさだけでなく、数・密度・場所・部屋全体の状態を総合して行われます。退去立会いで部屋に入ったとき、「この人は大切に使っていた」という印象を持てるかどうかが、細かい判断に影響することがあります。「小さいから問題ない」という割り切り方は危険です。
補修キットで自分で直すのは絶対にNG
ホームセンターで販売されているフローリング補修キットで自分で直そうと考える方がいます。結論から言うと、絶対にやめてください。
理由は二つあります。
一つ目は、退去立会いのプロには一目でわかるからです。補修跡があることは、経験を積んだ担当者であれば必ず気づきます。
二つ目は、素人の補修が状況を悪化させるケースがあるからです。補修キットの扱いを誤ると、周囲との色の違いや段差が生まれ、かえって修繕範囲が広がることがあります。最初から業者に依頼すれば済んだものが、より大きな費用につながる可能性があります。
「管理会社に相談すれば可」という情報も一部にありますが、これも原則として誤りです。傷の修繕方法と範囲を決めるのは貸主・管理会社であり、入居者が独断で手を加えることは賃貸借契約上のルールに反します。
店長の独り言
「補修跡があるかどうかは、退去立会いで部屋に入った瞬間にわかります。色の違和感、ワックスの光沢の差、触ったときの微妙な段差など、素人の補修には必ず痕跡が残ります。
『バレないかもしれない』という期待は持たないでください。正直に申告して管理会社に対処してもらう方が、長い目で見て確実に損をしません。
なお、もしも管理会社に自分で補修したことがバレてしまったら、補修材を剥離することから費用が発生しますので、余計に高くつきます。」
引越し業者がつけた傷の扱い——重要な注意点あり
引越し作業中に業者がフローリングを傷つけた場合、費用負担は引越し業者になります。家具・家電の搬入時についた傷も同様です。
ただし、ここで必ず知っておいてほしいことがあります。管理会社は「引越し業者がつけたと思うので交渉してほしい」という依頼には応じません。
管理会社が動けるのは、引越し業者が「自社がつけた傷である」と明確に認めている場合に限ります。業者が認めていない状態では、管理会社には介入する手段がなく、入居者と業者の間で直接解決してもらうしかないのが実情です。
つまり、引越し当日に傷の事実確認と業者からの認否を取ることが絶対条件になります。作業終了後、業者が帰る前に室内をひと回りして傷がないか確認し、傷があれば必ずその場で業者に確認・記録してください。
写真を撮る際は、傷の大きさがわかるように10円玉など硬貨を横に置いて撮影するのが有効です。傷の位置がわかる引き画と、大きさがわかる寄り画の2枚を撮っておくと後のやりとりがスムーズになります。業者が帰った後では「うちではない」と言われるリスクが一気に高まります。
なお、入居時にも同じ方法で室内全体を記録しておくことをおすすめします。「入居前からあった傷」と「入居後についた傷」を区別できる記録が、退去時のトラブルを防ぐ最大の武器になります。
傷をつけてしまったら、まず管理会社に連絡する
傷を発見したとき、最もやってはいけないのが放置です。表面の傷から水分が入り込み、下地まで傷んでしまうと修繕範囲が広がり費用も大きくなります。
早めに管理会社へ連絡することで、修繕方法と費用負担の判断を早い段階で確認できます。連絡の記録が残ることで退去時の判断にもプラスに働きます。「気づいていたのに言わなかった」と受け取られるリスクを避けられます。
連絡の際はいつ頃気づいたか、どの部屋のどの場所か、どんな傷の状態か(大きさ・深さの目安)の3点を伝えてください。電話ではなくメールや管理アプリなど文字で残る手段を使うことをおすすめします。
設備・内装の不具合全般に共通する連絡の流れはこちらで解説しています。 → 賃貸で設備が故障したらどこに連絡する?
修繕費用の目安
修繕方法を決めるのは管理会社・オーナーであり、入居者が方法を指定することはできません。ただし費用感を把握しておくことで、退去精算書を受け取ったときに妥当かどうかの判断材料になります。
カラーワックスの塗布は、比較的浅い傷や細かい傷をまとめてカバーする方法です。費用は1万円前後が目安です。小さな傷が複数ある場合はこの方法になることが多く、補修キットによる点補修とは異なり業者施工のため仕上がりが安定します。
部分リペアは、特定の傷箇所をピンポイントで補修する方法です。1か所あたり2万円前後からが目安です。専門の職人が色合わせをしながら行う作業であり、思ったより高いと感じる方が多いのですが、それだけの技術費が含まれています。
全面貼替は、損傷が広範囲に及ぶ場合や部分補修では対応できない深い傷がある場合に行われます。1平方メートルあたり1万円前後からが目安です。6畳(約10平方メートル)であれば10万円以上になることもあります。前述の通り、全面貼替の場合のみ耐用年数による残存価値の計算が適用されます。
傷をつけないための予防策
キャスター付きチェアを使う場合は、必ずチェアマットを敷いてください。これ一つで大半のキャスター傷は防げます。家具の脚にはフェルト素材の保護シールを貼ることで、移動時の傷を防げます。
引越しや大型家具の搬入時は、フローリングに養生シートやダンボールを敷いてから作業するよう業者に依頼してください。搬入時の傷防止に最も効果的な方法です。
フローリングの養生には、クリアなマットがおススメです。傷はもちろんつきませんし、水にも強いため、お掃除も簡単です。とくに、子どもやペットのいる家庭では事前の防止が最大の抑止力となるでしょう。
まとめ:傷をつけてしまっても、正しく行動すれば損しない
フローリングの傷は、原因と対応の仕方によって結果が大きく変わります。
「10年経てばゼロ」「小さければ大丈夫」という思い込みは誤解です。部分リペアには耐用年数が適用されず、小さな傷の蓄積は大きな傷より評価が厳しくなることもあります。補修キットで自己解決しようとすると状況を悪化させます。引越し業者がつけた傷は、その場で業者に認めてもらうことが解決の絶対条件です。
傷に気づいたら写真を撮って管理会社に早めに連絡する。それだけで退去時のトラブルリスクは大きく下がります。
退去費用全体の考え方と交渉の進め方はこちらをあわせてご覧ください。 → 賃貸の退去費用とは?相場と内訳を現役店長が解説
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この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
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- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中