
重要事項説明書を手にしたとき、冒頭に「取引態様:媒介」や「取引態様:代理」という表記があることに気づいた方は多いと思います。読み飛ばしてしまいがちですが、取引態様は不動産取引において業者がどの立場で関与しているかを示す、法律上の重要な情報です。
不動産業界で20年近く現場を歩いてきた立場から正直に言うと、この「取引態様」という言葉をきちんと理解している一般の方は、ほとんどいません。そしてそれを良いことに、業界内でも表記が統一されていないケースがあります。
そこで、この記事では、取引態様の基本的な定義から、「代理には2種類ある」という業界の実態、賃貸での「決め管」問題、「仲介手数料ゼロ」の真実まで、現場の本音とともに解説します。
取引態様とは何か──重説の冒頭に必ず出てくる言葉
取引態様とは、不動産取引において宅地建物取引業者がどのような立場で関与しているかを示すものです。
宅地建物取引業法第34条および第35条により、業者は広告時と契約締結時に取引態様を必ず明示しなければなりません。つまり物件情報を見たときに必ず記載されているはずの項目であり、重要事項説明書の冒頭にも登場します。
読み流してしまいがちですが、この表記によって仲介手数料の有無・業者の責任範囲・重要事項説明の義務が変わります。自分が今どういう立場の業者と取引しているかを確認する最初のポイントになります。
賃貸と売買で表記が異なる点も押さえておいてください。
| 賃貸 | 売買 | |
|---|---|---|
| 直接取引 | 貸主 | 売主 |
| 委任を受けた業者 | 代理 | 代理 |
| 間に入る業者 | 仲介(媒介) | 仲介(媒介) |

図で確認すると整理しやすいです。貸主(売主)は直接取引のため仲介手数料は発生しません。代理は貸主・売主と同等の立場として業務を行います。仲介(媒介)は貸主・売主と借主・買主の双方の間に入り、それぞれから手数料が発生しうる立場です。
「代理」には2種類ある──業界内でも混乱している実態
取引態様の中で最も誤解が多いのが「代理」です。一言で「代理」と言っても、現場では全く異なる2種類の代理が存在しています。そしてこの2種類の区別が業界内でも曖昧なことが、混乱の原因になっています。
部分代理とサブリース代理の決定的な違い
一つ目は「部分代理」です。物件の所有者である貸主・売主が「捺印や契約締結の作業はめんどうだから管理会社にやっておいてほしい」という形で、手続きの一部だけを委任しているケースです。
所有者としての権限は貸主・売主のままで、業者は契約締結作業だけを代行しています。物件の判断・交渉・条件変更などの権限は依然として所有者にあります。
二つ目は「完全代理」であり、その代表がサブリースです。
業者が物件をオーナーから丸ごと借り上げて、自ら貸主として入居者に転貸する形です。この場合、入居者が契約する相手は管理会社(業者)であり、オーナーは実質的に裏に隠れた存在になります。
問題は、業界内でこの2種類の区別が曖昧なまま「代理」という表記が使われているケースが多いことです。
本来は自社管理物件の賃貸仲介であれば「仲介(媒介)」と表記すべき案件が「代理」と表記されていたり、その逆もあります。重要事項説明書の取引態様欄を見ても、それだけで業者の実際の立場を正確に判断することが難しい現状があります。
「代理なら仲介手数料がかからない」は誤解
「取引態様が代理なら仲介手数料はかからない」という情報をSNSや比較サイトで見かけることがあります。これは誤解です。代理として業務を行う業者も、宅地建物取引業法の規定に基づいて仲介手数料を請求することができます。
代理だから手数料がゼロになるという根拠はありません。
そもそも現場の実感として、入居者・買主は取引態様をほぼ見ていません。仲介手数料の有無が行動に影響しているかというと、それも実際にはほとんどないと感じています。
詳しくは仲介手数料の交渉方法も参考にしてください。
取引態様が実務に与える影響──賃貸と売買それぞれの現場
媒介の種類を踏まえたうえで、重要なことをお伝えします。取引態様の選択は、入居後・購入後の実生活に直接影響します。特に賃貸においては、取引態様の選択が建物全体の管理品質を左右することがあります。
賃貸編──「決め管」問題と管理品質の崩壊
賃貸物件のオーナーが一般媒介を選択した場合に生じる問題として、「決め管」という現象があります。これは賃貸仲介の現場で使われる業界用語で、客付けを行った業者によってその部屋の管理会社が決まってしまう、という問題です。
具体的に説明します。一般媒介では複数の仲介業者が同じ物件を紹介できます。A社が客付けした場合はA社が管理会社になり、B社が客付けした場合はB社が管理会社になる、という状況が生まれます。結果として同じマンションの中で、101号室の管理会社はA社・102号室の管理会社はB社・103号室の管理会社はC社、という状態になります。
こうなると共用部の管理が崩壊します。廊下や駐輪場の清掃は誰が責任を持つのか、エレベーターの修繕連絡はどこにすればいいのか、クレーム対応の窓口はどこなのか。これらが物件ごとにバラバラになり、結果的に管理品質が著しく低下します。
賃貸では管理委託契約とセットで専任媒介にするのが原則です。一つの管理会社が物件全体を一元管理することで、共用部の維持・修繕対応・クレーム処理が統一されます。賃貸の一般媒介は、オーナー自身が自主管理を行う場合を除いて、基本的にお勧めできません。
売買編──一般媒介で生じる「同じ物件・価格がバラバラ」問題
売買で一般媒介を選択した場合にも、実務上の問題が生じることがあります。複数の業者に同時依頼するため情報管理が難しくなります。A社には値下げの話をしたがB社には伝えていない、という状況が生まれると、同じ物件なのに業者によって異なる価格が告知される状態になります。これは購入を検討している買主に不信感を与えます。
複数社とのコミュニケーションを徹底的に管理できる売主であれば一般媒介でも問題はありません。ただし現場の実感として、売主・買主の最終的な判断は担当者の「人」によることが多いです。どれほど取引態様を分析しても、最後は信頼できる担当者かどうかで決まります。
「手数料ゼロ」と「会員限定パスワード物件」の正体
賃貸編──「仲介手数料不要」は入居者の行動を変えない
「弊社が貸主なので仲介手数料不要」という広告を見かけることがあります。SUUMOなどのポータルでサブリース物件がこのような表記で掲載されているケースです。
ところが実際には、こうした物件に他の仲介業者経由で入居者がガンガン決まっています。「仲介手数料不要」という表記が入居者の行動を大きく変えているかというと、現場の実感としてほとんど影響していません。
先ほど述べた通り、入居者は取引態様の表記をほぼ確認していません。物件の立地・家賃・間取り・担当者との相性で動いているのが実態です。「手数料ゼロ=必ずお得」という単純な話にはなっていのが現状です。
初期費用の正しい確認方法も参考にしてください。
売買編──「会員限定パスワード物件」の正体
「会員登録してパスワードを入力すると極秘物件が見られます」という案内を不動産会社のサイトで見かけることがあります。これは何かというと、専任媒介物件(ポータルサイトへの掲載が制限されている物件)を、掲載許可を得たうえで自社サイトのみに掲載しているケースがほとんどです。
不動産業界の慣習として、専任媒介物件はポータルサイトへの掲載が制限されており、自社サイトへの掲載は許可が取れればOKという文化があります。
「極秘」「未公開」という言葉はマーケティング上の演出であり、情報の非対称性を意図的に作り出している側面があります。「ここにしかない物件がある」という印象を作ることで集客につなげる手法です。
店長の独り言
「これはものすごい個人的な意見として聞いてください。
不動産の購入を検討している人は、気になる物件があればぜひ不動産会社に問い合わせをしておいてください。連絡が鬼のようになるかもしれませんが、それはどのような商品に問い合わせをした時も一緒のこと、ある程度営業電話が鳴ることは覚悟すべきです。
問い合わせをするメリットは、実はその後にあります。
最近の顧客管理システムは目を見張るものがあり、自動追客システムなどが搭載されています。そのため、いくつの会社に「こういう条件で探している」ということが認知された時点で、自動的に新しい物件情報が届いたりするのです。
自分の検索手間を省くことができますし、自分で選ぶ喜びもそのまま残すことができます。
営業されるのが嫌だという人もいらっしゃいますが、現場目線で言えば、営業担当者が決め手となって家や部屋を決めていただけるお客様もかなりいらっしゃいます。
あまり気構えずに、気軽に問い合わせをしてもらって全然大丈夫です。
もちろん、営業担当者も最近はそこまでゴリゴリとして営業をすることも少ないです、たぶん。」
各立場別の確認ポイント
借主・買主の方へ
取引態様の表記より、担当者の質で選ぶ方が結果的に良い物件に出会いやすいです。仲介手数料の有無より、物件の総額・担当者との相性・対応の誠実さで判断することをお勧めします。
重要事項説明書の確認については重要事項説明書の確認ポイントも参考にしてください。
家主・売主の方へ
賃貸では管理委託契約とセットで専任媒介にすることが、物件管理品質を守るうえでの基本です。売買で一般媒介を選択する場合は、複数社への情報共有を徹底できることが前提になります。どちらの場合も、最終的には信頼できる担当者を選ぶことが最も重要です。
仲介業者・宅建実務者の方へ
取引態様の明示義務(宅建業法第34条・第35条)の遵守は基本です。代理と媒介の法的な違いとして、代理は依頼者本人の名義で法律行為を行うことができますが、媒介は当事者を取り次ぐだけで法律行為の主体にはなりません。自社管理物件の取引態様表記については、実態に合った表記を心がけることが信頼につながります。
宅建受験者向け──試験で問われる媒介契約の数字と現場との乖離
宅建試験において、媒介契約は頻出テーマの一つです。特に「専任媒介と専属専任媒介の数字の違い」は毎年のように出題されています。先ほどの表を改めて確認しておきましょう。
試験で問われるのは、とにかく「締め付けの厳しさ(義務の違い)」の数字の組み合わせです。 いちいち別々に覚えると脳がパンクするので、「専属専任(鬼の長男) > 専任(普通の次男) > 一般(自由な三男)」というだんご三兄弟的なヒエラルキーで脳内に叩き込んでください。
| 契約の種類 | 自己発見取引 (売主の自由) | レインズ登録義務 | 業務報告の義務 | 契約の有効期間 |
| 専属専任(鬼) | 完全NG(自己発見も不可) | 契約翌日から5日以内 | 1週間に1回以上 | 最長3ヶ月 |
| 専任(普通) | 一部OK(自己発見は可) | 契約翌日から7日以内 | 2週間に1回以上 | 最長3ヶ月 |
| 一般(自由) | 完全OK(他社と重複可) | 登録義務なし | 報告義務なし | 制限なし(行政指導は3ヶ月) |
レインズの登録義務ですが、休業日(定休日)はカウントしません。しょぼい引っ掛け問題にひっかからないように注意しましょう。
また、媒介契約の有効期間は、3ヶ月より長い期間を定めても、自動的に3ヶ月に短縮されます。
媒介契約は宅建業法で絶対に得点しておきたいジャンルの一つです、さくっと覚えて確実に得点源にしておきましょう。
宅建試験の重要事項説明の内容については重要事項説明の解説記事も合わせて参考にしてください。
店長の独り言
「宅建に合格したのはもう20年くらい前の話です、なので、やっぱり忘れていることも正直に言えばたくさんあります。
ただ、この媒介契約については、おそらく売買実務に従事している人は、ほぼパーフェクトに覚えています。それくらい、実務でも頻出の内容だ、ということですね。」
取引態様は不動産取引の出発点に位置する情報です。「代理だから安心」「仲介だから手数料が高い」という単純な見方ではなく、業者がどの立場でどのような責任を負っているかを正確に理解することが、トラブルのない取引への第一歩になります。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中
「ネットの情報だけでは不安…」「自分の初期費用や退去費用の見積もりが妥当か見てほしい」という個人のお客様から、大手メディア様・不動産業者様からの記事監修や執筆、お仕事のご依頼まで、幅広くお受けしております。
相談のジャンル(個人・法人)に合わせて、下記よりお気軽にご相談ください。