
転勤の辞令が出た翌日から、あなたの「お部屋探し」は始まります。
会社に言われるがまま法人契約で進めようとするものの、 不動産屋に何を伝えればいいのか、どんな書類が必要なのか、 そもそも審査は通るのか。気づけば、誰に聞けばいいかもわからないまま時間だけが過ぎていく。そんな経験をしている方は、少なくありません。
あるいは、会社の総務担当者として社宅制度の整備を任されたものの、契約の手順も、コストの正解も、税務上のルールも、どこを調べても「綺麗な建前」しか書いていないくて実務に役立ちそうにない。そう感じている方もいるかもしれません。
この記事は、そのどちらの方に向けても書かれています。
筆者は元・社宅代行会社のスタッフとして数百件の法人契約案件に関わり、現在は不動産会社の店長として日々の現場に立っています。審査が通らない本当の理由、内見前に弾くべきNG物件の見分け方、社宅代行会社が表に出さない内部のルール、教科書やポータルサイトには載っていない情報を、この一記事に詰め込みました。
ぜひ最後までお読みください。
※ 転勤・単身赴任でお部屋を探している方は、セクション3からお読みいただくとスムーズにお探しの情報が手に入ります。社宅制度の導入・見直しを検討している総務担当者の方は、セクション2とセクション7が特に参考になります。
法人契約とは?個人契約との違いを解説
賃貸物件の「法人契約」とは、物件を借りる契約者の名義が個人ではなく、会社(法人)になる契約形態のことです。
たとえば転勤に伴って会社がお部屋を用意する場合、実際に住むのは社員であっても、契約書上の借主は「会社」になります。毎月の家賃を支払うのも、入居中の責任を負うのも、法律上はすべて契約上の借主である「会社」になります。
一見シンプルに聞こえますが、この「借主が誰か」という違いだけで、審査の基準も、必要書類も、契約上の特約も、すべてが変わります。個人契約のつもりで動いていると、思わぬところでトラブルになることもあるため、注意しましょう。
個人契約と法人契約の違いを以下のようにまとめました。
| 項目 | 個人契約 | 法人契約 | 大手法人契約・社宅代行 |
| 契約者 | 入居する個人 | 会社(法人) | 社宅代行会社 |
| 審査の基準 | 個人の年収や信用情報 | 会社の資本金や決算内容・設立年数など | |
| 必要書類 | 住民票や所得に関する証明書など | 登記簿謄本・決算書・会社概要など | 会社概要 |
| 家賃の支払い | 個人の口座から | 法人の口座から | 法人もしくは社宅代行会社の口座から |
| 保証人・保証会社 | 保証会社加入もしくは連帯保証人(親族)が必要 | 代表者もしくは入居社員が連帯保証人に就任・加えて保証会社が必要なこともある | 保証人の就任および保証会社の加入はない |
| 特約の内容 | 家主や管理会社が指定する標準的な内容 | 法人や社宅代行会社が指定する特約 | |
なお、似た制度として「住宅手当」と「社有社宅」があります。混同されやすいため、ここで整理しておきます。
1. 住宅手当:会社が家賃の一部を給与に上乗せして支給する制度。契約者はあくまで個人であり、手当は「給与」として課税されます。社員の自由度は高いですが、節税効果は法人契約に劣ります。
2. 社有社宅:会社が物件を購入・所有し、社員に提供する制度で、いわゆる社員寮のようなイメージです。維持管理コストや修繕責任がすべて会社に発生するため、近年は新規取得する企業が減り、借り上げ社宅への移行が進んでいます。
3. 借り上げ社宅:会社が賃貸物件を法人契約し、社員に転貸する制度。本記事で解説するのは、主にこの「借り上げ社宅」の形態です。
法人契約のメリット・デメリット【会社側・社員側に分けて解説】
法人契約は、会社にとっても社員にとっても「得をする仕組み」として設計されています。ただし、メリットだけを強調した記事を鵜呑みにすると、導入後に「思っていたのと違う」という事態になりかねません。
ここでは会社側・社員側それぞれの視点から、メリットとデメリットを包み隠さずお伝えします。
法人契約を導入する法人側のメリット
法人契約を導入すると、導入法人には以下のようなメリットが発生します。
1. 法人税の節税効果(損金算入)
法人契約で支払う家賃は、原則として会社の経費(損金)として計上できます。たとえば月額10万円の社宅を12ヶ月契約すれば、年間120万円が経費となり、法人税率23.2%(中小企業の標準的な税率)で試算すると、約27万円の税負担が軽減される計算になります。
ただし、礼金や1年超の保証料は「繰延資産」として契約期間にわたって分割計上するルールがあります。一括で経費にはなりませんので注意してください。
出典:国税庁「No.5460 建物を賃借するための権利金等」
2. 社会保険料の圧縮
住宅手当として給与に上乗せする場合、その金額は「給与」として扱われるため、社会保険料の算定基礎に含まれます。一方、法人契約による社宅提供は現物給与の扱いとなり、適切に賃貸料相当額を徴収することで、社会保険料の増加を抑えられます。
社員数が多い会社ほど、この差は年間で大きな金額になります。
出典:国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」
3. 採用力・定着率の強化
「社宅完備」は、採用競争が激しい業界において有効な差別化要素です。なぜなら、特に地方への転勤を伴うポジションや、初任給水準で他社と差をつけにくい業界では、住居コストの大幅な軽減が応募者の意思決定に直結するからです。
入社後の定着率向上にも寄与するため、採用コストの観点からも費用対効果を計算する価値があります。
4. 経理・資金管理の効率化
個人契約+住宅手当の場合、毎月の経費精算や個別振込の手間が発生します。法人契約で支払いを一元化すれば、経理担当者の工数を削減でき、月次の固定費として予算管理もしやすくなるため、目に見えないコストの減少に繋がるでしょう。
法人側のデメリット
法人契約をするうえで、法人に発生するデメリットは以下のようなものです。
1. 空室リスク
社員が退職・異動した際、次の入居者が決まるまでの間も家賃は発生し続けます。社宅を複数運用している場合、
このリスクは資金繰りに影響することがあります。また、社員の入替が不可能であるときは、都度解約することとなり、契約・解約コストが発生してしまいます。
解約予告期間(多くの場合1〜2ヶ月前)を考慮した運用ルールを社宅規程に明記しておくことが重要です。
2. 管理業務の発生
契約・更新・解約・入居者変更・原状回復の確認など、社宅特有の管理業務が発生します。物件数が増えるほど、担当者への負担が大きくなりますし、専門的な知識も必要となってきます。
社宅代行会社の活用については、セクション7で詳しく解説します。
3. 社宅規程の整備が必須
税務上・労務管理上のトラブルを防ぐため、「誰が・どんな物件に・いくらの自己負担で住めるか」を明文化した社宅規程の整備が不可欠です。
規程なしで運用すると、社員間の不公平感や税務調査時のリスクにつながります。
社員側のメリット
法人契約を導入したときの社員のメリットは、以下のようなところです。
1. 可処分所得(手取り)の増加
法人契約による社宅提供が、住宅手当の支給と比べて社員の手取りにどれほど差をつけるか、以下のモデルケースで確認してください。
【モデルケース:月収35万円・家賃10万円の物件に住む場合】
| 項目 | 住宅手当として3万円支給 | 法人契約 自己負担3万円 |
| 収入(額面) | 38万円 | 35万円 |
| 社会保険料(概算) | 約5.7万円 | 約5.3万円 |
| 所得税・住民税 | 約3.5万円 | 約3.2万円 |
| 家賃自己負担 | 7万円 | 3万円 |
| 手取り換算 | 約21.8万円 | 約23.5万円 |
このように、月額約1.7万円、年間で約20万円の差が出ることになります。
2. 初期費用・更新料の負担軽減
敷金・礼金・仲介手数料・引越し費用など、転居に伴う初期コストを会社が負担するケースが大半です。
転勤を命じたのは会社である以上、これらの費用は原則として会社負担とする企業がほとんどです。
3. 個人の信用情報に左右されない
過去のクレジットカード延滞や携帯料金の未払いがあっても、法人契約であれば個人の信用情報は審査の対象外です。
若い世代の社員や、信用情報に不安がある方にとって、これは見えないメリットと言えるでしょう。
社員側のデメリット
法人契約においては、社員側にも少なからずデメリットも存在しています。
1. 物件選択の自由度に制限がある
家賃上限・間取り・構造・立地など、社宅規程によって選べる物件の範囲が絞られます。
「住みたい物件が規程に合わない」という状況は珍しくありません。
この壁を正攻法で突破する方法は、セクション6で解説します。
2. 退去時の原状回復ルールに注意
個人契約と法人契約であっても、原状回復に適用されるルールに変わりはありません。伴い、故意・過失に伴う原状回復費用は社員が負担するように定められていることが一般的です。
そのため「いくら汚れていても会社が負担してくれる」という思い込みは禁物です。入居時に室内を点検し、不備があったらすぐに管理会社に申し伝え、入居中も綺麗に利用することを心がける必要があります。
3. 入居者変更手続きのコストは会社負担でも手間は社員側にもある
社員が変わるたびに発生する書類準備や手続きは、総務担当者だけでなく、退去する社員・入居する社員の双方に一定の手間が生じます。
【ステップ別】法人契約の流れと必要書類チェックリスト
法人契約の手続きは、個人契約と比べて関わる人間が多く、動いている組織も複数にまたがります。
「誰が・何を・いつまでに」を把握していないと、あっという間に時間を失い、結果的に良い物件を逃してしまうことにもなりかねません。
ここでは申込から入居までの流れを5ステップで整理した上で、会社の規模や契約形態によって異なる必要書類を、3つのパターンに分けてご紹介します。
STEP 1 社内ルールの確認・社宅規程の整備 【目安:数日〜2週間】
まず動くべきは、物件探しではなく社内の確認です。以下の項目を総務・人事担当者に確認してから不動産会社に連絡・相談してください。ここを飛ばすと、後工程で必ず手戻りが発生し、時間のロスに繋がります。
【確認すべき項目】
- 家賃の上限額(共益費・駐車場は含むか)
- 自己負担額の計算ルール
- 物件の構造、広さ、立地に関する賃貸物件の制限
- 契約に関する賃貸物件の制限
- 保証会社の加入や連帯保証人の就任可否
- 敷金、礼金、仲介手数料の会社負担範囲
- 火災保険は会社指定か否か
- 社宅代行会社を経由する必要があるか
社宅規程がまだ整備されていない会社は、このタイミングで作成してください。
規程なしで契約を進めると、税務上・労務上のリスクが生じます。
STEP 2 物件探し・不動産会社への条件提示 【目安:1〜2週間】
不動産会社への最初の連絡時に、必ず以下を伝えてください。
- 法人契約であること
- 社宅規程の主な条件(家賃上限・間取り・エリア・契約形態など)
- 社宅代行会社を経由するか否か
この情報を最初に伝えるかどうかで、紹介される物件の質と担当者の動き方が大きく変わります。
黙って個人のように動いていると、後から「実は法人契約で…」「会社の規定が…」となったときに、契約がご破算になることがあります。
また、内見前に「法人NG物件」を排除することが時間ロスを防ぐ最大のポイントです。
チェック方法はセクション5で詳しく解説します。
STEP 3 申込・必要書類の準備 【目安:3〜5営業日】
物件が決まったら、申込書の提出と同時に必要書類の準備を進めます。
書類が揃わないと審査がスタートしないため、このステップが実質的なボトルネックになることが多いです。
必要書類はこの後のチェックリストで確認してください。
STEP 4 入居審査 【目安:3日〜1週間】
審査自体は早ければ1~2日で終わります。
時間がかかるのは「審査」ではなく、その前後に発生する法人契約特有の「特約条件の交渉」です。
この点については、セクション4で詳しく解説します。
STEP 5 契約手続き・入居 【目安:1週間前後】
審査通過後、重要事項説明・契約書への記名捺印・初期費用の入金が完了すれば鍵の引き渡しとなります。
法人契約では代表者印(法人実印)が必要になることが多く、押印のために本社確認が必要な場合はこのステップでも数日のロスが生じます。
入居希望日から逆算して、余裕を持ったスケジュール設定が重要です。
店長の独り言
「法人契約の実務では、契約開始日(鍵をもらえる日)に契約書類が整っていることは稀です。そのため、契約書類と必要書類は契約開始日以降となっても、決済金を入金していれば鍵をもらえることが大半です。とはいえ、これはイレギュラーな対応であり、すべての賃貸物件で目を瞑ってくれるものではありません。くれぐれも余裕をもったスケジュールで契約手続きを進めるように心がけましょう。」
必要書類のチェックリスト
ここでは、会社の規模や法人契約の種類別に、申込時および賃貸借契約に必要な書類のチェックリストをまとめました。賃貸物件や家主さん、管理会社の意向により、これらとは別途の書類が必要となることがあります。詳しくは、仲介会社から手渡される決済金明細などをご確認ください。
【パターンA】中小法人・一般的な法人契約
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ※発行から3ヶ月以内
- 会社概要・パンフレット(またはWebサイトのコピー)
- 決算書(損益計算書・貸借対照表) ※直近2期分
- 法人税の納税証明書
- 代表者の身分証明書(運転免許証など)
- 入居者(社員)の身分証明書・在籍証明書
- 法人実印・印鑑証明書
- 代表者の連帯保証に関する書類(求められる場合)
- 保証会社の申込書(利用する場合)
※大家や管理会社によって求められる書類は異なります。 書類の準備には時間がかかることが予想されますので、事前に仲介担当者を通じて確認しておくと確実です。
【パターンB】大手法人・自社総務が対応するケース
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ※発行から3ヶ月以内
- 会社概要・パンフレット(またはWebサイトのコピー)
- 入居者(社員)の身分証明書・在籍証明書
大手法人による法人契約のときは、おおむね必要書類が大幅に割愛されます。審査もスムーズに進むことが予想されますが、自社で対応するケースのときは、社内稟議などのほうが時間がかかることもあります。
【パターンC】社宅代行会社を経由するケース
- 会社概要・パンフレット(またはWebサイトのコピー)
- 入居者(社員)の身分証明書・在籍証明書
- 代行会社専用の申込フォームや規定書式
- 代行会社が指定する契約書類
申込や契約段階において、代行会社ごとに「専用フォーマット」や「専用書式」が存在することがほとんどです。
仲介会社は、代行会社に対してポータルや専用の書式での申し込みや契約処理を経る必要があります。
慣れていない担当者が対応するとそれだけでタイムロスが生じるため、法人契約の実績が豊富な不動産会社を選ぶことが、スムーズな契約手続きの成否を左右します。
店長の独り言
「法人契約は賃貸仲介会社にとって『喉から手が出るほどほしい、おいしい案件』です。とはいえ、上述のとおり、社宅代行会社を介する契約となれば、手続きが煩雑になるため、不慣れな担当者にあたってしまうと、ことのほか時間がかかってしまうことがあります。転勤まで時間があるケースであれば問題ありませんが、可能な限り余裕をもったスケジュール管理を意識し、スケジュールを賃貸仲介の担当者と共有しておくようにしておいてください。」
法人契約の審査の仕組みと「通りやすい・通りにくい」条件
「審査に落ちました」「審査が全然進みません」
法人契約でこうした事態が起きるとき、その原因のほとんどは「審査そのもの」ではありません。
審査の判断自体は、早ければ数時間、遅くとも2〜3営業日で結論が出ます。
問題はその前後に発生している、「特約条件の交渉」と「書類のやりとり」です。
ここでは、賃貸仲介、管理会社、社宅代行会社の間で何が行われているのか、審査と契約の実態を解説します。
法人契約で、オーナーや管理会社はここを見ている
法人契約の審査で見られているのは、 個人の信用情報ではなく「会社の信用力」です。
具体的には、以下の3点が主な判断軸になります。
- 設立年数:2年未満の法人は実績が乏しいとして慎重に審査されます。決算書が1期分しかない場合は代表者の連帯保証を求められることが一般的です。
- 財務状況:黒字かどうかよりも、「継続して家賃を払い続けられるか」が判断基準です。赤字決算でも、理由を説明できれば通過するケースがあります。逆に黒字でも、売上の依存先が1社に集中していたり、借入が過大な場合は慎重に見られることがあります。
- 業種:水商売・風俗関連以外にも、オーナーが難色を示しやすい業種が存在します。建設業・芸能関連・ユーチューバーなどがその代表例です。
店長の独り言
「建設業などは、事務所や倉庫として利用されることが懸念されますし、芸能関連やユーチューバーなどは、収入が不安定に思われるほか、騒音問題への発展が嫌気される理由です。そのため、建設業では絶対に事務所や倉庫として利用しないことを誓約できる旨を話してみるのも、審査を通過しやすくなる良い方法です。そのほか、芸能関連やユーチューバーなどは、敷金を積み増すなどの方法で与信を得ることで審査を通過できることもあります。」
保証会社の与信判断は「代表者の個人信用情報」にも及ぶ
「法人審査だから代表者個人の信用情報は関係ない」そう思っている方に、現場の実例をお伝えします。
長年、保証会社を利用して問題なく法人契約を繰り返してきた常連企業が、ある日突然、保証会社から否決を受けました。会社の業績に問題はなく、担当者も首をひねるばかり。
理由を調査すると、原因は代表者が短期間にクレジットカードを3枚新規作成したことでした。
信用情報機関では、短期間に複数のクレジットカードやローンを申し込む行為が「資金繰りへの不安」としてネガティブに評価されることがあります。
法人としての実績がいくら積み上がっていても、保証会社が代表者の個人信用情報を参照している以上、このリスクは常に存在します。
法人契約の申込前には、代表者自身も直近の信用情報に心当たりがないかを確認しておくと良いでしょう。
審査が「遅い」と感じたときの本当の理由
審査の判断自体は早ければ数日で出ます。
時間がかかっているのは多くの場合、契約書に盛り込む特約条件をめぐる「家主」・「管理会社」・「仲介会社」間の調整です。
特に社宅代行会社を利用しているケースでは、社宅代行会社が指定する書式での賃貸借契約の締結が求められることがあります。しかし、賃貸借契約書のひな形を変更できない、という管理会社も少なくありません。そのため、必要な箇所を抽出した覚書での対応を求めることもあります。
これら、新たな賃貸借契約書や覚書の締結にあたっては、管理会社はリーガルチェックを行い、かつ家主へもその旨報告をし、承諾を取り付けたうえで、審査の承認を出すことになります。
そのため、法人契約、とりわけ社宅代行会社による申し込みには時間がかかるのです。
設立間もない・赤字決算の場合の対処法
設立間もない、あるいは決算内容が芳しくない法人でも、 以下の方法を組み合わせることで審査を通過できるケースがあります。 仲介担当者と相談しながら、状況に応じた手段を選んでください。
① 代表者が連帯保証人として就任する
最も一般的な突破口です。
法人の実績が乏しい場合、代表者個人の信用力で不足する与信を補完する方法です。
代表者の年収・資産・個人の信用情報が審査対象となるため、前述の「クレジットカードの複数作成」などには、申込前から注意しておく必要があります。
② 敷金の積み増しを提案する
通常、敷金は家賃の1〜2ヶ月分が一般的ですが、「敷金を多めに積む」と申し出ることで、家主や管理会社の不安を和らげる効果があります。
敷金は家賃滞納が発生した際の担保として機能するため、財務状況が不安定な法人に対して家主や管理会社が「それなら貸してもいい」と判断するケースは、現場でも珍しくありません。目安としては家賃の3〜6ヶ月分を提示すると、交渉のテーブルに乗りやすくなります。
ただし、この提案は仲介担当者を通じて行うのが原則です。申込者が直接家主や管理会社に持ちかけるとかえって印象を損ねることがあるため、くれぐれも注意しましょう。
③ 家賃の数ヶ月分を前払いする
敷金の積み増しと近い発想ですが「前払い家賃」として数ヶ月分をまとめて入金する方法です。
オーナーにとっては当面の収入が確定するため、審査上のリスクを実質的に下げる効果があります。こちらも仲介担当者経由での提案が基本です。 また、前払い分の取り扱い(返金条件・解約時の精算方法)を契約書に明記しておくことを忘れないようにしてください。
④ 法人向けの保証会社を活用する
保証会社にも「審査基準が柔軟な会社・厳格な会社」があります。そのため、設立間もない法人や赤字決算の法人でも対応可能な保証会社が存在しますので、「こういう状況でも通りやすい保証会社はあるか」と仲介担当者に率直に聞いてみてください。
一般的に、どこの保証会社を利用するか、は管理会社が決めることが一般的です。そのため、どこの管理会社がどこの保証会社を利用しているか、という管理会社の「クセ」を把握している賃貸仲介担当者であれば、話がスムーズに進むことがあります。
店長の独り言
「賃貸仲介において、担当者の力量の差は、いくつかのポイントで見極めることができます。その最たるポイントは、いかに家主さんや管理会社と連携が取れるか、というところです。他の人ならだめでも、この人ならOK、ということは、賃貸仲介の実務ではよくあることです。
もしも『この担当者、ちょっと頼りないな』と思ったときは、ストレートに『担当を変えてくれ』と言うのではなく、周りにいる担当者を巻き込むように話をしてみてください。なお、一般的な賃貸仲介会社であれば、担当者がどのような営業トークをしているかは、必ず責任者などは聞いています。
お客様から声がけされるということは、お客様が不安に思っているサインだということくらいはわかりますので、店舗全体を巻き込んで、理想の物件にたどり着けるように振る舞いましょう。」
【内見前に確認】法人NG物件の4大チェックポイント
物件探しで最も時間を無駄にするパターンが、「内見まで進んでから法人NGとわかる」ケースです。
内見の予約・移動・確認にかかる時間を考えると、1件の無駄が半日以上のロスになることもあります。
なお、家賃上限や間取りなど社内規程との照合はSTEP1(セクション3)で済んでいることが前提です。
ここでは「社内規程はクリアしているのに、物件側の事情でNGになる」ケースに絞って解説します。
以下の4点は、物件を候補に挙げる前の段階で仲介担当者に確認しておきたい項目です。
チェック① 定期借家契約になっていないか
定期借家契約とは、契約期間が満了した時点で原則として契約が終了する形式の契約です。
通常の賃貸借契約(普通借家契約)と異なり、更新という概念がありません。
法人がこの契約形式を嫌う理由は明確です。
期間満了のたびに引越しが発生し、敷金・礼金・仲介手数料といった初期費用が再度かかるからです。
多くの企業の社宅規程では定期借家契約を社内規定で排除しています。
物件情報に「定期借家」と記載がある場合は、ほぼ確実に法人契約の候補から外したほうが良いでしょう。
なお、定期借家契約の物件は、分譲マンションの一室や、一戸建てに多い傾向があります。
チェック② 保証会社必須+資本金要件の確認
「資本金〇〇円未満の法人は保証会社加入必須」という条件を設けている物件があります。
中小企業であれば保証会社に加入すれば済む話ですが、大手企業や上場企業の中にはさまざまな理由から、保証会社への加入を禁じているケースがあります。
この場合、家主や管理会社の条件と企業の方針が真正面からぶつかり、交渉も何もあったものではありません。
自社の方針を事前に確認した上で、条件が合わない物件は最初から除外するのが時間を節約する最善策です。
チェック③ 入居者変更に対応しているか
単身用物件では特に頻繁に起きる問題です。
オーナーによっては「入居者の変更は認めない」という方針を持っている場合があります。
法人契約において、入居者の変更は人事異動・転勤・退職のたびに発生します。
変更のたびに解約・新規契約を繰り返すと、そのたびに礼金・仲介手数料が発生し、会社側のコスト負担が膨らみます。
申込前に「入居者変更は可能か、その際の手続きはどうなるか」を必ず確認しておいてください。
変更届の提出だけで済む物件と、再契約が必要な物件では、長期的なコストが大きく変わります。
チェック④ 法人名義不可の物件になっていないか
「個人契約のみ受け付ける」という方針の家主が一定数存在します。
手続きの煩雑さを嫌うケースや、過去の法人契約でトラブルがあったケースなど、理由はさまざまですが、一定数存在することは事実です。
注意が必要なのは、「管理会社はOKでもオーナーがNG」というパターンです。
管理会社の担当者が「大丈夫だと思います」と言っていても、最終的にオーナーの意向で断られるケースが現場では起きています。
物件情報に「法人不可」の記載がない場合でも、仲介担当者を通じてオーナーの意向を事前に確認しておくことを強くお勧めします。
番外編 特殊物件は付帯サービスのコストを事前確認する
ペット共生物件や共用施設が充実している賃貸物件など、付帯サービスが充実した物件では、その費用が家賃に含まれているケースがあります。
たとえばペット共生物件では、トリミングルームの維持費やペット保険が賃料に組み込まれていることがあります。また、共用施設が充実している賃貸物件では、ジムなどの利用料が家賃に含まれていることもあります。
社員がペットを飼っていない場合、使わないサービスのコストまで会社が負担することになりかねませんし、何より社員間の不公平感を生むことにもなりかねません。
社宅規程の家賃上限に収まっていても、社内稟議で断られてしまう可能性がありますので「家賃に何が含まれているか」を申込前に必ず確認してください。
家賃上限を超えたとき「正攻法」で解決する3つの方法
会社の社宅規程には、役職や職責のほか、地域性を鑑みた家賃の上限額が定められています。
「この物件に住みたいが、規程の上限を少し超える」
という状況は、転勤社員が直面する最もよくある壁のひとつです。
ここでは、この壁を正攻法で突破するための3つの方法をご紹介します。
なお、家賃や共益費を意図的に「偽装」して上限を超えた物件を契約しようとする行為は、社員・会社・仲介会社のすべてに深刻なリスクをもたらします。
このセクションの末尾で改めて解説しますが、そのような方法は一切お勧めしません。
方法① 超過分を社員の自己負担とする
最もシンプルかつ正攻法の方法です。
規程の上限を超えた分を社員が自己負担することで、会社の規程を守りながら希望の物件に住めます。
たとえば規程の上限が月8万円で、希望物件が月10万円の場合、差額の2万円を社員が自己負担する形です。
この場合、会社は8万円を経費計上し、社員は2万円を給与から支払います。
手続きとしては、超過分の自己負担額を給与から天引きする形が一般的です。総務担当者に「超過分の自己負担は可能か」を確認してみてください。
規程上に明記されていなくても、個別対応として認められるケースがあります。
方法② 駐車場・インターネット費用を別契約に切り出す
物件によっては、駐車場代やインターネット料金が家賃に含まれた形で提示されることがあります。
この場合、それらを家賃から切り離して別途契約にしてもらうことで、家賃の数字を規程の上限内に収められる場合があります。
たとえば「家賃9万円(駐車場・ネット込み)」の物件を、「家賃7.5万円+駐車場1万円+ネット0.5万円」として、契約書上で分けてしまうイメージです。
駐車場については、社員が個人名義で契約する形にすることで会社の家賃負担の対象外とする方法も取れます。
ただしこの場合、駐車場代は社員の自己負担となります。
家主や管理会社が契約の分離に応じるかどうかは物件によって異なりますので、仲介担当者を通じて事前に打診してください。
方法③ ストレートに家賃交渉をする
月額の家賃が規程上限をわずかに超える場合、家賃そのものを交渉で下げることも選択肢のひとつです。
特に空室期間が長い物件や、築年数が経過している物件や閑散期では、家主が交渉に応じやすい傾向があります。
交渉のタイミングは「申込時」が原則です。契約書を締結した後では、条件変更をすることは許されません。
【警告】規程の「偽装」は全員が不幸になる
賃貸仲介の現場では稀に、以下のような「抜け道」が提案されることがあります。
- 礼金を上乗せして家賃を減額して、規程内に合うように調整する
- 駐車場代を家賃に組み込んで会社に負担させる
- インターネット料金を家賃名目で計上する
これらは規程を意図的に操作する行為であり、発覚した場合のリスクは関係者全員に及びます。
社員は、会社資産の不正利用として懲戒処分の対象になり得ます。悪質と判断された場合は、横領として刑事責任を問われる可能性もあるでしょう。
仲介会社は、損害賠償請求の対象になるほか、社宅代行会社からの取引停止処分を受けるケースがあります。業界内での信用失墜は、その後の営業活動に長期的な影響を与えますし、家主や管理会社からの信用も失い、今後の取引はほぼ不可能となるでしょう。
店長の独り言
「このようなあくどい方法を提案してくる仲介会社は信頼できない、と言って過言ではありません。目先の契約は誰でも飛びつくほど欲しいもの。それでも、越えてはいけない一線を越えてしまうと、想像するよりも大きなモノを失うことになります。正攻法で解決できる壁は、必ず正攻法で越えてください。」
社宅代行会社とは?内部構造と失敗しない選び方
社員数が増え、転勤・異動が頻繁になってくると、総務担当者が社宅管理に費やす時間は無視できないレベルになります。そのタイミングで検討すべきなのが「社宅代行会社」の活用です。
ただし、社宅代行会社を選ぶ際に「実績が豊富そうだから」「大手だから」という理由だけで決めてしまうと、現場で想定外の摩擦が生じることがあります。
ここでは社宅代行会社の仕組みと、失敗しない選び方を現場目線でお伝えします。
社宅代行会社の役割とビジネスモデル
社宅代行会社とは、企業の社宅管理業務をまるごと代行するサービス会社です。
主な業務範囲は以下の通りです。
- 社員が住む賃貸物件の選定・紹介
- 入居申込手続きの代行
- 契約、更新、解約手続き
- 家賃の一括管理・支払い
- 入退去の管理・原状回復の確認
- 社宅規程の整備サポート
これらをすべて自社でこなそうとすると、物件数が増えるほど担当者の工数は膨らみます。
社宅代行会社に委託することで、総務担当者はコア業務に集中できるようになります。
社宅代行会社の契約形態
社宅代行会社の契約形態には大きく2種類あります。
① 業務委託
企業と物件オーナーの間に入り、さまざまな手続きのみを代行する形式です。
契約の当事者はあくまで企業とオーナーです。
業務委託型では、社員が社宅を選んだ時点で、賃貸仲介会社へ申し込むときに「委任状」を添付することで代理権があることを表明し、手続きを代行します。
なお、社宅代行会社によって、委託できる業務の範囲も当然異なります。そのため、自社の事情に合わせて委託する業務をカスタマイズができ、かつ、サブリースよりもコストが安いという点が特徴と言えるでしょう。
② サブリース(転貸借)
代行会社がいったん物件を借り受け、それを企業に転貸する形式です。
契約の当事者は「代行会社とオーナー」および「代行会社と企業」の2段構造になります。
サブリース型では代行会社が借主になるため、企業側の審査手続きが簡略化されるメリットがあります。加えて、すべての業務を社宅代行会社が担うため、手間は業務委託型と比較しても激減します。コストはかかりますが、フルに外注できるという点で、コア業務への注力に重きを置く会社はサブリース型が適していると言えます。
一方で、サブリースは事前に契約当事者に対して重要事項説明が必須です。社宅代行会社が法人のために賃貸物件を借り上げ、法人に転貸し、社員が居住するケースでも例外ではありません。そのため、コンプライアンスの観点から、社宅に関する重要事項説明が家主側へ適切に行われているかどうかは、契約時に必ず確認しておいたほうが良いでしょう。
失敗しない社宅代行会社の選び方
「どの社宅代行会社を選ぶか」は、 運用の質とコスト、さらには転勤者のパフォーマンスに直結する極めて重大な経営判断です。 以下の観点で比較検討してください。
① 部屋探しへの介入度合いと社員の自由度
代行会社によって、賃貸物件をどのようにして探すことができるか、が大きく異なります。
「提携・指定した不動産会社のみで探す」スタイルは、手続きの一元化という点では効率的ですが、注意すべき側面もあります。まず、社員が自分で不動産会社を選んで 物件を探したいという自主性・自由を重んじる企業文化とは相容れないことがあります。特に若い世代の社員ほど、「住む場所くらい自分で決めたい」という意識が強い傾向があります。
また、特定の不動産会社に物件探しが固定化されると、価格・条件面での競争原理が働きにくくなり、不正の温床になるリスクも否定できません。一方、複数の不動産会社に競わせるスタイルは条件面での競争が生まれるメリットがありますが、社員のもとに複数の不動産会社から 営業電話が鳴り続けるという別のストレスを生みかねません。
自社の社風・文化・社員の年齢層を踏まえた上で、「どこまで管理し、どこまで自由にするか」を代行会社と擦り合わせることが重要です。
② 専用システムのセキュリティと情報管理
社宅管理では、社員の氏名・住所・ 給与情報に準じるコスト負担額など、個人情報レベルの高いデータを大量に扱います。これらをExcelや紙で管理している会社は、 情報漏洩リスクと情報の属人化という 2つのリスクを同時に抱えています。また、担当者が退職した途端に管理状況が把握できなくなる、という属人化のケースは現場では珍しくありません。
セキュリティレベルの高い専用システムを提供している代行会社であれば、これらのリスクから離脱できますので、システムの利用や提供についても押さえておきたいポイントです。
③ 提携不動産会社の数とエリア
提携している不動産会社の数とカバーしているエリアの広さは、代行会社の質を測る基本的な指標です。
提携先が少ない代行会社では、地方への転勤案件や特定エリアの物件探しで選択肢が極端に狭まることがあります。
全国に拠点を持つ企業ほど、この点を重視してください。
④ 専用フォーマットの柔軟性
代行会社の専用書式や申込フォーマットがいかに「賃貸の実務に即しているか」は、手続きのスピードと精度に直結する重要なポイントです。
「この書式でなければ受け付けない」という硬直した運用をしている代行会社は、現場の仲介担当者からの評判が良くない傾向があります。契約前に「特約条件の変更に対応できるか」を確認しておくと、代行会社の柔軟性をチェックすることが可能です。
⑤ 料金体系の透明性
社宅代行会社への手数料は、 成功報酬型・月額固定型・物件数に応じた従量型など 会社によって異なります。
注意すべきは、基本料金以外に発生する「付帯費用」の有無です。更新手数料・解約手数料・入居者変更手数料などが 別途請求されるケースがありますので、 契約前に「どの作業にいくらかかるか」を一覧で確認しておいてください。
⑥ 付帯サービスの充実度
社宅代行会社のサービス範囲は、物件探しと契約手続きの代行にとどまりません。以下のような付帯サービスを提供している会社も存在します。
- 引越しサービスの手配と費用交渉
- 短期入居・仮住まいの手配 (急な転勤や工事期間中の一時的な住居など)
- 家具・家電のレンタルサービス (赴任直後の生活立ち上げコストを抑えられる)
- 転勤者の自宅を賃貸転用するサポート (空き家リスクを減らしながら収入を得られる)
転勤・単身赴任が多い企業ほど、これらの付帯サービスが社員の負担軽減と福利厚生に大きく貢献します。
「物件を借りるだけ」ではなく、転勤に関わる生活全般をサポートできるかどうかを選定基準のひとつに加えることで、社員の会社に対する求心力も高まることでしょう。
法人契約の仕組みを理解して、会社も社員も賢く動こう
法人契約は、仕組みを知っているかどうかで結果が大きく変わる手続きです。
審査が通らない理由も、手続きが止まる理由も、物件探しで時間を無駄にする理由も、そのほとんどは「事前に知っていれば防げたこと」でした。動く前に社内ルールを確認し、NG物件を事前に排除し、書類と担当者を丁寧に選ぶ。そして予算の壁は、正攻法で越える。
これだけで、法人契約の手続きは 驚くほどスムーズになります。
法人契約は、転勤という「会社都合の出来事」に 社員が前向きに向き合える環境を作るための仕組みです。手続きの煩雑さに振り回されることなく、肝心の「新しい生活の準備」に総務担当者も転勤者もエネルギーを使えるようにと思い、この記事を執筆しました。
この記事が、その一助になれば幸いです。 ご不明な点はお気軽にご相談ください。