賃貸退去のフローリングはどこまで請求されるか|退去立会い1,000件超の店長が耐用年数や請求ラインを完全解説

この記事は、20年以上の現場経験に基づいた筆者の本音のみで構成しています。ぜひ賃貸物件の退去立会のほか、賃貸物件での生活にお役立てください。


賃貸物件に住んでいると、気になるのは退去のときの費用請求。とりわけ、床を傷つけていると退去費用が高額になるのでは、と気が気ではありません。

まず理解しておくべきこととして、フローリングの傷や汚れは、そのすべてが請求対象になるわけではありません。日焼けや家具の設置跡は原則として借主負担にならず、請求されるのは「清掃を怠った汚れ」と「故意・過失による損傷」に限られます。

ただしフローリングには、他の箇所と違う厄介な特性があります。それは、小さな傷が部屋全体に積み重なると、一室単位の張替え請求につながる場合がある、ということです。そしてその判断は、担当者の目に委ねられている、という実務面も外せないポイントです。

そこで、この記事は、退去立会いを1,000件超経験してきた現役店長として、現場の本音だけで書きます。「どの傷が請求されるか」「修繕費用をどう抑えるか」——知っているだけで、退去の結果は変わります。


目次

退去時のフローリングの請求は「傷の種類」と「修繕範囲」で決まる

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年劣化や通常使用による損耗は借主負担にならないと明記されています。日焼けによる変色や、家具を長期間置いたことによる軽い凹みは請求対象にはなりません。

フローリングなど床の補修で特に押さえておきたいのが「修繕の単位」です。フローリングは原則として1㎡単位で修繕されます。数センチの傷でも、費用は1㎡分が請求単位になります。さらに、小傷が1か所だけなら問題にならなくても、部屋全体に点在していると一室単位での張替えが請求根拠になり得ます。

つまり、ちょっとした傷でも広範囲にわたることにより、費用請求が跳ね上がってしまう。これがフローリングトラブルの最大の落とし穴です。

この2点を頭に入れておくだけで、退去立会いの場で焦らずに対応できます。


フローリングの耐用年数

国土交通省が定めた「原状回復のガイドライン」によれば、フローリングの耐用年数は6年と定められています。つまり、フローリングは施工されてから6年経過することで、その残存する価値は無価値になる(実際は1円)という考え方です。

しかし、6年以上経過したフローリングだからと言って、傷だらけで退去しておとがめなし、とはいきません。他サイトでは耐用年数を経過していれば払わなくてよい、という言説が飛び交っていますが、それは明確な誤りです。

なぜなら、価値が1円になるのはあくまでも「フローリング」であり、その貼替に要する人件費などは耐用年数に含まれていないからです。また、そもそも賃貸物件を借りている人は「善管注意義務」を負っています。

善管注意義務とは、簡単に言えば「自分のモノではなく他人のモノを扱うように綺麗に維持管理する義務」のことです。いくら残存価値がないものであっても、綺麗に使うことが求められます。

まとめると、フローリングは経過年数によりフローリング自体の価値は下がります。価値が下がるため、故意・過失に伴う退去者への請求額も下がりますが、それはあくまでも「フローリング本体」の話。張替に要する人件費や間接経費などは負担しなければならない、という点を忘れないようにしておいてください。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

退去立会いで担当者が真っ先に確認する4箇所

フローリングの部屋に入った瞬間、担当者の目が向かう箇所は決まっています。

① 引っ越し搬出による傷

搬出作業中についた傷は、退去立会いで発覚するケースが多い箇所です。ただし、引っ越し作業中の傷であることが明確な場合は引っ越し会社が対応してくれることがほとんどで、大事になりにくいのが実情です。

注意が必要なのは、引っ越し会社が管理会社と直接金銭のやり取りをしてくれるかどうかは会社によって異なる点です。「修繕費用は入居者を通してください」というスタンスの会社もあります。搬出後に傷を発見した場合は、その場で引っ越し会社の担当者にすぐ確認することが重要です。

② 日焼け・変色

カーペットや家具の設置跡による変色は経年劣化として扱われるため、請求対象にはなりません。ただし、家具を動かした後にその下から傷や膨れが発覚するケースがあります。担当者は変色部分の周辺も注意深く見ています。退去前に家具を少し動かして、下の状態を確認しておくことをお勧めします。

③ 水まわり近辺の膨れ・変色

キッチンや洗面所との境界付近のフローリングは、水がかかりやすい場所です。水こぼしを放置した結果として生じた膨れや変色は、過失として請求対象になります。冷蔵庫周辺や洗面所の出入り口付近は見落とされやすく、立会いで指摘されるケースが多い箇所です。

④ 小傷の積み重なり

1か所の傷では問題にならなくても、部屋全体に点在すると一室単位の請求根拠になります。現場で最も多いのがキャスター付き家具(オフィスチェアなど)による傷です。毎日の使用で気づかないうちに広範囲に広がります。

見落とされがちなのが子ども部屋の学習椅子です。キャスター付きの学習椅子は毎日繰り返し動かすため、気づかないうちに子ども部屋のフローリング全面に傷が広がります。「子ども部屋だけ一室単位の請求」になるケースは現場では珍しくありません。

もうひとつの盲点がハイヒールの室内履きです。ヒール部分が細く尖っているため、歩くたびにフローリングへ点状の凹みが生じます。ちょっと忘れ物をしたのでハイヒールを脱がずに忘れ物を取りに室内に上がった、など、本人がまったく気づいていないまま退去立会いで初めて発覚する。このパターンは意外と多いので気を付けたいポイントです。


店長の独り言

「賃貸物件にとって床は補修・貼替費用がかなり高額になるポイントであるため、退去立会でも担当者はかなり神経質にチェックしています。いつもお話していますが、普通に使ってついた傷だから補修する義務はない、という論理は通用しません。綺麗に使う義務が賃借人にはある、ということを改めて認識しておいてください。」

請求される傷・されない傷 判断基準を公開

傷・不具合の種類請求理由
家具設置による軽い凹み(重量)されない通常損耗
キャスター付き家具による傷されるほぼ例外なく過失認定
子ども部屋の学習椅子による傷されるほぼ例外なく過失認定
引っ越し搬出による傷される(引っ越し会社対応が多い)過失
日焼けによる変色されない経年劣化
カーペット跡の変色されない通常損耗
水こぼし放置による膨れ・変色される過失・清掃怠慢
タバコの焦げされる過失
ペット(猫)の引っかき傷される過失
ハイヒール室内履きによる点在凹みされる過失
ワックスの自然な劣化・剥がれされない経年劣化
入居者施工ワックスの剥離グレー〜される本来不要な剥離作業が発生する場合あり
入居者によるカラーワックス施工される再施工が必要になるケースがほぼ100%
落下物によるえぐれグレー深さ・範囲による
家具の色移り・染みグレー素材・程度による
配線モールの両面テープ接着痕・モール痕される過失による損耗

【補足①:キャスター付き家具・学習椅子は保護マットが唯一の予防策】

オフィスチェアも子ども部屋の学習椅子も、保護マットを敷かずに使い続けるとほぼ例外なく過失認定されます。「知らなかった」は通用しません。在住中から保護マットを敷いておくことが、このトラブルを防ぐ唯一の方法です。すでに傷がついてしまっている場合は、退去前に自分で状況を確認しておくことが得策です。

【補足②:ハイヒールの室内履きは無数の点状凹みを作る】

ヒール部分は非常に細く、体重が一点に集中するためフローリングに深い点状の凹みが生じます。室内でヒールのある靴を履く習慣がある方は、退去前に部屋全体を見渡して点状の凹みが広がっていないか確認しておいてください。

【補足③:ワックス・カラーワックスは管理会社に確認してから】

善意でワックスがけをしてくれる入居者は管理会社としてもありがたい存在です。ただし施工が甘いと剥離が起き、本来不要だった剥離作業の費用が別途発生します。善意でやったことが請求につながる、という理不尽なケースです。

軽微な色褪せや部分的な日焼けはカラーワックスで安価に対応できることもありますが、床材と床色によって適否が変わります。入居者が自己判断で施工するとほぼ100%再施工が必要になります。また最近のフローリングやフロアタイルにはノンワックス仕様のものも多く、ワックスをかけると逆に素材を傷めることがあります。ワックス・カラーワックスを使う前には、必ず管理会社に確認してください。

【補足④:配線モールの接着痕は「やった本人が気づいていない」過失の典型】

インターネットや電話の配線をフロアモールで床に固定しているケースがあります。入居中は見た目がすっきりして都合が良いのですが、退去時に剥がすと両面テープの接着痕やモール跡がフローリングに残ります。過失として請求対象になりますが、やった本人がそれを認識していないことがほとんどです。

退去前に部屋を見渡して、接着痕が残っていないか必ず確認してください。配線を床に固定する際は、剥がせる粘着タイプを使うか、そもそも床への固定を避けたほうが後々のトラブルを防止することができます。


フローリング修繕の「範囲と方法」問題——ここが最大の争点

フローリングトラブルで最も揉めるのは「どこまで直すのか」「どんな方法で直すのか」です。修繕の範囲と方法によって費用が大きく変わるため、選択肢を知っているかどうかが交渉の分かれ目になります。

修繕方法は損傷の程度によって段階が変わります。

損傷の程度修繕方法費用感
軽微な色褪せ・カスレカラーワックス(床材・床色による)安価
軽微な傷・小傷タッチアップ(専用塗料で色合わせ補修)比較的安価
中程度の傷1㎡単位の部分補修中程度
広範囲・全面上貼り施工(重ね貼りで費用軽減可)全面張替より安価
全面張替剥離→下地処理→施工最高額

軽微な傷であれば、専用塗料で色を合わせて補修する「タッチアップ」で対応できます。費用も大きく抑えられるため、小傷に対して「全部交換します」という話になった場合は、タッチアップでの対応が可能かどうかをまず確認してみてください。

広範囲の損傷に対する本来の施工は「既存フローリングの剥離→下地処理→新規施工」という流れです。ただし、既存のフローリングの上から新しいフローリングやフロアタイルを重ねて貼る「上貼り施工」という方法もあります。全面張替より費用を抑えられるため、交渉の選択肢として知っておく価値があります。

【戸建て2階は特に要注意】

戸建て住宅の2階でフローリングを全面張替する場合、床をはぐ工事は建築確認申請が必要になることがあります。これを知らないオーナーや管理会社は少なくありません。戸建て2階で全面張替の話が出た場合は上貼り施工が現実的な落とし所になりやすく、この知識があるだけで交渉の展開が変わります。

また、入居年数が長いほどフローリングの残存価値は下がります。新品同様の費用を全額請求された場合は、入居年数と残存価値を根拠に交渉することができます。


店長の独り言

「これは管理会社やその社員の業務水準や知識レベルによるところですが、さまざまな施工方法があることを理解してくれていれば、補修費用が安価に済むことがあります。また、フローリングという言葉が一般的ですが、現在はフローリングよりも安価で丈夫、かつ耐水性もあるフロアタイルという材質が使われることが多くなっています。

施工方法はもちろん所有者に最終決定をする権利があるため絶対とは言えませんが、可能な限り安価な方法を担当者に依頼してみることで、退去費用を減額させることができるかもしれません。」

退去前日にやるべき最低限チェックリスト

完璧な状態にする必要はありません。「確認した跡がある」「気づいていた損傷は申告した」という姿勢が、立会い時の担当者の心証を大きく左右します。

  • [ ] 部屋全面を実際に歩いて凹み・傷・膨れを確認する
  • [ ] 水まわり周辺(キッチン・洗面所境界)を重点的に確認する
  • [ ] 家具・家電の搬出直後に新たな傷がないか確認する(搬出当日が勝負)
  • [ ] キャスター跡・色移りの有無を確認する
  • [ ] 子ども部屋の学習椅子跡を確認する
  • [ ] 配線モールの剥がし跡・両面テープ接着痕がないか確認する
  • [ ] 焦げ・えぐれがある場合は火災保険の対象になるか確認する

特に搬出当日は要注意です。家具や家電を動かした後はその場でフローリングの状態を確認する習慣をつけてください。搬出時に新たな傷をつけてしまった場合は、その場で引っ越し会社の担当者に確認することが最善の対応です。


まとめ|フローリングの退去で損しないための3原則

① 小傷の積み重なりが最も怖い——在住中の小さな意識が唯一の予防策

キャスター付き家具・子ども部屋の学習椅子・ハイヒールの室内履きによる傷は、気づいたときには手遅れになっていることが多い損傷です。保護マットを敷く、室内履きを見直す——退去後に後悔しないためには、在住中からのほんの少しの意識が大きな差を生みます。

② 「全面張替」と言われたとき、タッチアップと上貼り施工を知っているかどうかで結果が変わる

修繕方法には段階があります。軽微な傷はタッチアップ、広範囲の損傷は上貼り施工という選択肢を知っているだけで、「全部交換します」と言われたときに落ち着いて対応できます。費用交渉の幅は、知識の量に比例します。

③ 戸建て2階は床をはぐと建築確認申請が必要——これを知らない管理会社も多い

戸建て2階のフローリングで全面張替の話が出たとき、「上貼り施工での対応は可能でしょうか」と一言確認できるかどうかで、費用が大きく変わるケースがあります。知っているだけで使える、現場レベルの知識です。


フローリングの退去トラブルは、知識があれば防げるものと交渉できるものが確実にあります。この記事が、退去立会いに臨む前の一助になれば幸いです。


この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

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