
「退去のとき、ハウスクリーニング費用って必ず払わないといけないの?」
結論から言います。ほぼすべての物件の契約書に「退去時のクリーニング費用は借主負担」という特約が入っており、どれだけきれいに使っていても支払い義務が発生します。
ただし本当の問題は特約の存在ではありません。金額設定と施工品質——この両方が壊れているのが、ハウスクリーニングが業界の闇と呼ばれる理由です。
退去立会いを1,000件超経験してきた現役店長として、この業界の闇を解説します。ぜひ、最後までお読みください。
ハウスクリーニングの原則と特約——「本来は貸主負担」がなぜ覆されるのか
国土交通省のガイドラインでは、専門業者によるハウスクリーニングは「次の入居者を確保するためのもの」として貸主負担が原則とされています。
通常の清掃——ゴミの撤去・掃き掃除・拭き掃除・水回り・換気扇・レンジの油汚れの除去——を実施していれば、借主がハウスクリーニング費用を負担する必要はありません。「汚れているから請求」ではなく「通常を超える汚れがあるから請求」が正しい考え方です。
しかし現実には、ほぼすべての物件でこの原則が特約によって覆されています。「退去時のクリーニング費用は借主負担」という特約が、現在ほぼすべての賃貸物件の契約書に記載されているからです。
特約が有効になるには①客観的に見て特約を設ける必要性があること、②貸主の過剰な利益目的でないこと、③借主が内容を理解して合意していること、という3条件を満たす必要がありますが、契約書にサインした以上は形式上この条件を満たしているとみなされます。
特約それ自体の理屈は成立しています。ハウスクリーニング費用を借主負担とすることで、敷金ゼロ・礼金の減額が可能になり、入居時の初期費用を抑える代替財源として、入居する人にとってプラスに機能している事実があるからです。
問題はその先にあります。
店長の独り言
「特約そのものが悪いとは思っていません。適正な費用で、適切な施工がされていれば、という前提が成立していれば、ハウスクリーニング特約は合理的な仕組みです。管理会社が中間マージンを取ること自体も正当な業務です。問題は、そのマージン率が適正範囲を大きく超えていること、そして安く発注した結果として施工品質が担保されていないこと、この2点です。特約が悪いのではなく、運用が腐っている。これがハウスクリーニングを『業界の闇』と呼ぶ理由です。」
本当の闇は金額設定にある——相場と法外な請求の見分け方
ハウスクリーニングの適正相場は以下のとおりです。なお、居室の広さなどによっても清掃に要する費用は異なりますので、あくまでも目安としてご確認ください。
| 間取り | 適正相場 | 要注意ライン |
|---|---|---|
| ワンルーム・1K | 20,000〜30,000円 | 4万円超 |
| 1DK・1LDK | 30,000〜45,000円 | 6万円超 |
| 2DK・2LDK | 40,000〜60,000円 | 8万円超 |
| 3DK・3LDK | 60,000〜80,000円 | 10万円超 |
| 4LDK以上 | 80,000〜100,000円 | 13万円超 |
なお戸建て物件は面積が広く作業範囲も増えるため、同じ間取りでもマンション・アパートより高くなる傾向があります。また特殊清掃(孤独死・事故物件・大量のゴミ屋敷状態など)や追加清掃箇所(エアコン複数台・浴室の頑固な水垢・床のワックスがけなど)がある場合は、上記の相場から大幅に上乗せされることがあります。
重要なのは、清掃業者からの仕入れ価格です。業者への実際の発注金額は、上記の適正相場の中心値の半額以下であることがほとんどです。ワンルームであれば借主が2万5千円払う→業者への発注は1万円前後、という構造が現場では珍しくありません。その差額が管理会社のマージンになっています。
ファミリー3LDKで10万円という設定をしている管理会社も実在します。さらに論外なのが「家賃1ヶ月分」という設定です。考えてみてください。同じ広さ・同じ面積の部屋であっても、家賃が高ければ清掃費用も上がる。この設定に合理的な理由は100%存在しません。清掃費用は面積と汚れの程度で決まるものであり、家賃とは無関係だからです。
「ハウスクリーニング費用は家賃1ヶ月分」という設定をしている管理会社は、入居者の利益より自社の利益を優先している会社と判断して差し支えありません。物件を選ぶときにこの設定を見つけた場合は、その管理会社自体を選ばない方が賢明です。退去費用だけでなく、入居中のあらゆる場面で同じ姿勢が出てくることは明らかでしょう。
店長の独り言
「ハウスクリーニングは参入障壁が低い業種です。資格不要で誰でも始められる。その結果、管理会社から仕事をもらって食べている業者が大量に存在しています。この『管理会社の紹介で飯を食っている業者』と『清掃業者を安く買い叩いている管理会社』が問題の根源です。
発注元である管理会社に単価を叩かれた結果、数をこなすことでしか採算が取れない。クレーム上等で適当な工事をしているケースが多いのはこういう業者です。
誤解してほしくないのですが、ダスキンのような大手業者は施工品質は確かです。ただし費用も相応に高い。管理会社がダスキンに発注することはほぼありません。それは、コストが合わないからです。管理会社が中間マージンを取ること自体は正当なビジネスですが、問題はマージン率が高すぎること、そして安く叩いた結果として施工品質が犠牲になっていることです。
その実態を管理会社も知っているにも関わらず、いざクレームが入ると『現状有姿』と言って排除しようとする。これが業界の腐った一面です。相場を知っておくことは、少なくとも法外な請求に対して『おかしい』と言える最低限の武器になります。」
特約が無効になるケース——払わなくていい場合はあるか
金額が著しく高額で合理性がない場合、特約が無効と判断される可能性があります。「家賃1ヶ月分」という設定が争われた事例では、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項は無効)に基づいて無効と判断されたケースもあります。また口頭説明がなく契約書にサインさせられただけの場合も、特約の有効性が争える余地があります。
現実的な対抗手段としては、明細の内訳を書面で要求し、相場から著しく乖離した項目について交渉することが有効です。
店長の独り言
「新しく入居したのに室内の清掃が行き届いていない、というクレームは頻繁にあります。現地に赴くと、入居者から『これでもハウスクリーニング費用を払わなければいけないのか』と叱咤の嵐を受けることになります。
これは管理会社が工事を発注している手前、オーナーに責任を押し付けるわけにもいかない。かといって管理会社も自社で費用を負担できない。担当者が板挟みになる、という現場を山のように見てきました。
私自身がこの問題に対して出した解決策は、清掃会社へ通常の倍の費用をお支払いして、徹底的に清掃してもらう、というものです。費用は上がりますが、クレームと担当者の疲弊を考えれば安いものです。適正な費用を払えば適正な施工が返ってくる。当たり前のことが当たり前に機能していないのが、この業界の現実です。」
エアコン内部洗浄・消毒は別請求——上乗せ請求に注意
ハウスクリーニングとは別に、エアコン洗浄・台所の消毒・トイレの消毒を別途請求してくる管理会社があります。
ガイドラインでは消毒について「日常の清掃の範囲を超えており、賃貸人負担とすることが妥当」と明示されています。エアコン内部洗浄も、特約に明記がない限り借主負担にはなりません。
退去精算の明細を必ず確認し、契約書の特約に記載のない項目については「特約のどこに記載されていますか」と確認することが有効です。特約に書かれていない費用は交渉できます。
ただし、これらの消毒費用や追加清掃費用も「故意過失がないこと」が条件です。部屋を適切に管理していないのに、費用請求は免れない、これはさすがにまかり通る話ではありません。
退去前にできること——特約があっても損しない方法
特約がある以上、ハウスクリーニング費用そのものを免れることは現実的には難しいです。ただし「いくら払うか」「そもそもその特約は有効か」は確認できます。
国土交通省のガイドラインでは、クリーニング特約の有効・無効は以下の3点で判断されると明示されています。①借主が負担すべき内容・範囲が明示されているか、②通常損耗についても借主が負担することが契約書または口頭で明確に説明されているか、③費用として妥当な金額かどうか、です。
特に重要なのは金額の記載があるかどうかです。東京地方裁判所の判例では、「2万5千円(税別)を負担する」と金額が明確に合意されていた特約は有効と判断されています。一方で「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」という文言だけの特約は、通常の原状回復義務を定めたものにすぎず、通常損耗まで借主に負担させる特約とは言えないとして無効と判断された事例もあります。
つまり契約書に金額の記載がなく「クリーニング費用は借主負担」という文言だけの場合は、特約の有効性を争える余地があります。退去精算書が届いたら、まず契約書の特約欄を確認してください。金額の記載があるか、通常損耗まで負担させようとしていないか——この2点がチェックポイントです。
退去前に部屋を徹底的に清掃しておくことは費用軽減には直結しませんが、「清掃済みの状態」を写真で記録しておくことは証拠として有効です。また退去精算書が来たら「ハウスクリーニング一式◯◯円」という一行だけの請求書は内訳の開示を求める権利があります。相場と著しく乖離している項目については交渉の余地があります。
敷金がある場合はハウスクリーニング費用との相殺になるため、実際の負担額も合わせて確認してください。
退去前日にやるべきハウスクリーニング対策チェックリスト
- [ ] 契約書の特約欄でハウスクリーニング費用の記載を確認する
- [ ] 退去前に室内を徹底清掃し、写真で記録する
- [ ] エアコン・消毒など追加項目が特約に明記されているか確認する
- [ ] 退去精算書が届いたら必ず明細の内訳を書面で要求する
- [ ] 相場と著しく乖離した金額には交渉する
- [ ] 敷金との相殺後の実質負担額を確認する
まとめ|ハウスクリーニングで損しないための3原則
① 特約がある以上、支払い義務は原則発生する——問題は金額設定
特約そのものの理屈は成立しています。ただし相場から大幅に乖離した金額は交渉できます。まず相場を知ることが最初の一歩です。
② 明細を必ず確認——特約に書かれていない項目は払わなくていい
エアコン洗浄・消毒など、特約に明記のない追加項目は請求根拠がありません。明細の開示を求め、一行ずつ確認してください。
③ 適正な費用・適切な施工——両方が成立して初めてハウスクリーニング特約は合理的
金額が法外で施工が手抜きであれば、それは特約の趣旨を逸脱した運用です。相場を知り、明細を確認し、おかしいと思ったら交渉する。それが唯一の自衛手段です。
ハウスクリーニングは退去費用の中でもっとも不透明な項目です。この記事が「言われるがまま払う」状況を変えるための一助になれば幸いです。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中