
「もうすぐ退去立会だけど、退去費用がどのくらいかかるんだろう」と不安に思っていませんか。
本来は、退去立会で室内を確認し、国土交通省が定める原状回復のガイドラインに則って退去費用は確定します。しかし、賃貸管理の実務において、退去費用はあなたの部屋の状態だけで決まるわけではありません。担当者がどんな人か、管理会社がどういう方針か、オーナーがどんな状況にあるか。そういった要素が、実は見えないところで影響しているのです。
私はこれまで1,000件以上の退去立会を経験してきた、不動産会社の現役店長です。退去費用をめぐって入居者とオーナーの間に立ち続けてきた立場から、担当者が現場で何を考え、どう動いているかを包み隠さずお伝えします。知っているかどうかで、退去当日のあなたの選択肢は大きく変わります。
ぜひ最後までお読みいただき、退去立会にお役立てください。
退去立会の基本的な流れ
退去立会とは、入居者が部屋を明け渡すときに、管理会社またはオーナーの担当者が室内を確認し、原状回復に関する費用負担を確認する場のことです。
一般的な流れは以下の通りです。
退去通知(通常1〜2ヶ月前)→ 管理会社との日程調整 → 立会い当日(所要時間は30分〜1時間程度) → 後日、原状回復費用の請求書が届く → 敷金との精算もしくは費用の支払い
参加者は入居者と管理会社の担当者が基本です。オーナーや工事業者が同席するケースもありますが、管理会社に管理を委託している場合は担当者のみが来ることがほとんどです。
退去立会は、原状回復に関する費用負担を双方が納得いく形で取り決める場であるため、誰がどれだけの費用を負担するかの基準が必要です。その基準となるものが、国土交通省が定める「原状回復に関するガイドライン」です。
原状回復に関するガイドラインによれば、主に以下のようなことが定められています。
- 故意(わざと)または過失(うっかり)により、汚損(汚した)、破損(壊した)、紛失(なくした)ものは、退去者の負担とすること
- 箇所により減価償却があるため、原状回復を負担する箇所全額の負担をする必要はないこと
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」
このような公的なガイドラインがあれば、そもそもトラブルなど起こらないのでは?と考えそうなところですが、退去立会の現場では、さまざまなトラブルが起こっているのが現実です。
実際に、退去立会の現場では、どのようなことによりトラブルが発生しているのでしょうか。次の章では、退去立会や原状回復における、賃貸管理会社や家主の考え方から、この問題を解き明かしていきます。
退去立会い前に何が起きているか
多くの入居者が見落としているのが、退去立会は「当日始まる」のではないという点です。
できる担当者は、退去通知を受けた時点から動いています。まず行うのがオーナーとの事前打ち合わせです。退去後の募集条件(家賃・フリーレントの有無など)の確認は必須ですが、それと同じくらい重要なのが、原状回復にかかる費用感の事前共有です。
この費用感の把握には、入居期間が深く関わります。短期入居であれば、故意・過失による損傷の負担割合は大きくなります。一方、長期入居の場合は経年劣化が相当程度進んでいるため、退去者に高額な負担を求めることがそもそも困難です。むしろ長期入居の退去後は、原状回復にとどまらずリノベーションを施してリフレッシュするというのが、経験のある担当者なら当然視野に入れる選択肢です。
こうした見通しをオーナーと事前に共有しておくことが、担当者の本来の仕事です。「この入居期間と室内状況であれば、おそらくこの程度の費用感になります。」という原状回復に要する費用感を、退去立会前に目線を合わせておく。これがあるかどうかで、退去立会の現場は大きく変わります。
では、この事前協議がない状態で立会いに臨むと、どのようなことが起こるのでしょうか。
担当者は当日初めて室内の状況を把握し、想定以上の工事が必要だと気づきます。立会い中にオーナーへ連絡を入れ、その場で費用負担の確認を取ろうとする。しかしオーナーから「そんなに払えない」と跳ね返される。担当者は退去者に対して、本来グレーゾーンであった箇所の負担を求めてくる。
さらに生々しい現実を言えば、このとき次の入居者はすでに決まっていることも少なくありません。原状回復工事は待ったなしで進めなければならない。オーナーは首を縦に振らない。退去者には追加負担を求めている。担当者はその板挟みの中で、どこかに無理を押しつけるしかなくなる。このような悪循環は何も珍しいことではないのです。
このように、担当者の良し悪しによって、退去立会前に退去費用を請求されるリスクはすでに発生しているのです。
店長の独り言
「良い担当者かどうかは退去前の一本の電話でわかります。退去通知を出した後、担当者から『室内に故意・過失による破損などはありますか』という確認連絡が来るかどうか。これが準備できている担当者かどうかの最初の見極めポイントです。
逆に言えば、退去通知を出してから立会い当日まで一切連絡がない担当者には、注意が必要です。そのため、日時の確認の意味も含めて、担当者と退去立会前にコミュニケーションをとっておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。もしも、室内に大きな傷や破損個所があるときは、そのときに伝えておくと良いでしょう。」
退去立会での請求範囲は状況によって変わる可能性がある
退去費用の話になると、多くの入居者は「自分と管理会社の二者間の問題」として捉えます。しかし実際は、オーナー・管理会社・入居者の三者関係の中で費用が決まっています。
最終的な判断基準はガイドラインや契約書に依拠します。これは大前提です。ただしガイドラインの解釈・運用には幅があります。問題は、その幅がどちらに向かって働くか、が重要なのです。
原状回復工事を負担したくないオーナー、保身的な管理会社、工事売上を優先する担当者という条件が重なったとき、その幅は入居者に不利な方向で使われるリスクがあります。
そしてもう一つ、あまり知られていない力学があります。工事の総額によって、担当者のグレーゾーンへの対応が変わるという点です。
比較的きれいな部屋で総額20万円程度の原状回復工事になりそうな場合、契約書で確定している負担箇所(例:ハウスクリーニング5万円)以外に、判断が微妙な2〜3万円の箇所(グレーゾーン)があったとします。このとき担当者は「まあこれくらいなら免除でいいか」と動くことがあります。
一方、総額が50万円を超える大きな工事になりそうな場合はどうでしょうか。担当者の頭の中では「オーナーにこれだけの負担をかけられないかもしれない」という計算が働きます。つまり、幅の範囲であるグレーゾーンについて、退去者に負担を求める方向で交渉されることがあるのです。
なお、退去費用を安く済ませる具体的な方法を知りたい人はこちらの記事が参考になります。
【関連記事】賃貸物件の退去費用はなぜ高い?安くする方法と退去前の準備を不動産会社の店長が徹底解説!
店長の独り言
「あなたの退去費用は、あなたの部屋の状態だけで決まっていないことがあります。それはつまり、オーナーの財布の状況があなたの負担額に影響している場合がある、ということです。これは不正ではなく、三者の利害が絡み合う不動産実務の現実です。」
退去立会当日に担当者が見ていること
担当者が立会い当日に行うのは、大きく分けて二つの確認です。部屋の状態の確認と、退去者という人間の確認です。
部屋については、事前の見積もり感と実際の室内状況を照合します。契約書で確定している負担箇所(ハウスクリーニング特約など)は揺るぎませんが、それ以外のグレーゾーンについては、当日の室内状況を見ながら判断の方針を固めていきます。
特に争点になりやすいのは、床やクロスの軽微な傷、油汚れ、換気扇やエアコンの汚れといった箇所です。担当者から見れば「これは汚い」と感じる状態でも、退去者からすれば「これくらい普通では」と感じることが多い箇所と言えるでしょう。そのため、この認識のズレが、グレーゾーンの主な発生源となるのです。
なぜこのズレが起きるかというと、入居者側に二つの誤解が重なっているからです。
一つ目は、入居者が善管注意義務の存在を知らないことです。賃貸物件を借りている人には、善良な管理者としての注意義務が法律上課されています。「自分のものと同じように扱えばいい」ではなく、「借りているものとして適切に管理する義務」です。あなたにとっての「普通の使い方」は、法律上の「普通」とイコールではありません。
なお、善管注意義務は民法第400条にも明記されている「借主が負うべき法的な義務」です。
民法第400条
「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。」
二つ目は、善管注意義務を何となく知っていたとしても、ガイドラインの文言として存在している「通常使用の範囲内」という表現が、「普通に使っていてついた傷だから自分に責任はない」という解釈にすり替わってしまうケースです。
一見もっともらしく聞こえますが、善管注意義務には「気づく義務」も含まれています。 定期的に点検・清掃し、異常があれば速やかに管理会社へ報告する。それが借主の義務です。「気づかなかった」「普通に生活していたら傷がついた」は、免責の理由にはなりません。
残念ながら、この善管注意義務について入居時にきちんと説明する仲介会社は多くありません。知らないまま数年間過ごし、退去時に初めてその概念と向き合うことになる入居者が後を絶たないというのが、現場の実態です。
なお、タバコのヤニ汚れやペットによる傷・臭い、壁の大きな穴などは、ガイドラインでも明確に退去者負担と定められており、グレーゾーンではありません。これらがある場合は、負担を前提に話を進めることになります。
💬 店長の本音 担当者は部屋に入った瞬間から退去者を観察しています。部屋の状態と同じくらい、退去者がどういう人かを見ています。この「人を見る」という行為が、その後のグレーゾーンの処理に影響することは、現場では当然のこととして起きています。
退去者のキャラクターと力関係
担当者が立会い開始直後から無意識のうちに行っているのが、退去者の「交渉慣れ度」の読み取りです。
法律的な知識を持っているかどうか、過去に退去トラブルを経験しているかどうか、それが言葉の端々や態度に出ます。「ガイドラインでは入居者負担にならないはずですよね」という一言を自然に言える人と、ただ黙って頷いている人では、担当者の動き方が変わることがあります。
もう一つ、入居者がほとんど意識していない要素があります。保証会社に加入しているかどうかです。
保証会社に加入している場合、仮に退去費用の支払いがスムーズでなくても、管理会社側の回収リスクは相対的に低くなります。一方、連帯保証人のみの契約の場合、回収の確実性が下がるため、担当者のリスク計算に影響することがあります。金額についてはさておき、項目だけでも承諾がとれれば、回収は保証会社に任せることができるからです。
なお、交渉や協議の場で重要なポイントは、感情的にならないことです。立会い現場で怒鳴る、過度に強硬な態度を取るという退去者は、むしろ損をするケースが多い傾向にあります。なぜなら、担当者も人間だからです。話し合いができない相手だと判断すれば、逆に杓子定規な対応に切り替えることがあります。
店長の独り言
「知識があることを自然に示せる人は、交渉結果が変わることがあります。ただし『知っていますよ』と威圧的に示すのは逆効果です。『確認なんですが』という柔らかい言い方で、ガイドラインや契約書の内容に触れるくらいの温度感が、損をしない立ち回りと言えるでしょう。」
信頼できる管理会社・担当者の見極め方
ここまで読んでいただければ、退去トラブルの多くは「どんな管理会社・担当者に当たるか」に起因していることがわかると思います。では、入居前・更新時にどう見極めればよいのでしょうか?
まずは、管理会社の口コミを必ず確認してください。 Googleマップのレビューや各種口コミサイトで、その管理会社の退去対応に関するコメントを探すことです。もっとも気を付けるべきは、「家主からの評価は高いのに、入居者からの評価が低い」管理会社です。
つまり、退去者から多く費用を請求し、家主にお金を送金し、そのお金を源泉として工事を行っている、という構図をもって、賃貸経営のサポートをしている管理会社だということがわかります。もっとも、このような管理会社であれば、退去時に過大な費用を請求された、という内容の口コミが多数存在するはずですので、そもそも入居時にこのような管理会社の物件に入居すべきではない、という論理が働きます。
次に、退去前に室内状況を確認してくる担当者かどうかです。前述の通り、「故意・過失による破損はありますか」という一本の確認連絡が来るかどうかが、担当者の質を測るバロメーターになります。
また、退去立会時に費用感を事前開示してくれるかどうかもポイントです。通常の管理会社社員であれば、多少の前後は発生しますが、おおむねの金額感は把握しているはずです。それが回答できないということは、事前にオーナーとの協議ができていない、あるいは担当者としての経験が浅い証拠です。
店長の独り言
「良い管理会社は退去時にこそ本性が出ます。なぜなら、入居中はずっとお付き合いしなければいけないため下手なことはできませんが、退去してしまえばもう会うこともないからです。契約更新のタイミングで担当者の対応を再評価する習慣をつけておくと、いざ退去するときに慌てずに済みます。
また、管理会社の担当者は変わることも珍しくありません。そのため、定期的に担当者とコミュニケーションをとっておくことも、不当な退去請求を免れる良い防御策の一つです。」
退去立会い前後に入居者がすべきこと
ここまでは、不動産業界の業界構造や担当者の行動心理から、退去立会における力学を解説してきました。ここからは、退去立会前後に入居者としてしておきたいこと、すべきことを解説します。
退去立会という慣れない場に望むにあたって、不当な退去費用の請求を防止するためにも、ぜひよくお読みいただき、ご自身の退去に役立ててください。
立会い前にやっておくべきこと
故意・過失による大きな破損がある場合は、必ず事前に管理会社へ告知してください。 写真を撮って送っておくことをお勧めします。なぜかというと、破損内容によっては火災保険が適用できるケースがあり、管理会社から保険対応を申し出てもらえる可能性があるからです。ただし保険申請は退去前でないと対応できないケースが多いため、タイミングが非常に重要です。退去後に「実は壁に穴が」と言っても、保険申請できないことがあります。
そして、掃除は必ずしておいてください。 これは法律の話ではありません。礼儀の問題です。
1,000件以上の立会いをしてきて、掃除もせずに部屋を返す人に何度も出会ってきました。率直に言います。借りたものを掃除もせずに返す人を、あなたは許せますか、担当者も家主も同じ気持ちです。
逆に言えば、きれいに掃除された部屋で迎える立会いと、ゴミが残り汚れたままの部屋での立会いでは、担当者の印象が大きく変わります。グレーゾーンの処理に影響しないとは言い切れません。
立会い当日にやっておくべきこと
事前に室内を写真撮影しておくことが最も重要です。退去前の状態を記録しておくことで、後日の請求に根拠なく上乗せされるリスクを防げます。全部屋を広角で撮影した上で、傷・汚れがある箇所はアップでも撮影しておきましょう。
担当者の準備度合いを見抜くサインを確認してください。当日に頻繁に家主へ連絡していたり、金額感を伝えてくれない担当者は、準備不足の可能性があります。より慎重な対応を心がける必要があるでしょう。
確定負担箇所と曖昧な箇所を、自分でも事前に把握しておくことが重要です。契約書の特約条項を立会い前に読み直し、何が確定で何がグレーゾーンかを整理しておきましょう。
その場でサインを求められても、すぐにサインする必要はありません。「内容を持ち帰って確認します」と伝えることは入居者の権利です。納得できない箇所があれば、サイン前に確認・交渉する時間を確保してください。
退去立会に関するよくある質問
Q. 退去立会は拒否できますか?
法的に立会いを強制する規定はありません。ただし立会いを拒否した場合、管理会社側が単独で確認・見積もりを行うことになり、入居者が内容を確認できないまま請求が来るリスクがあります。拒否するメリットはほぼないため、可能な限り参加しましょう。
また、管理会社から「鍵はポストにでも入れておいてください、後日見に行きます。」と指示されることがありますが、そのときは、必ず室内の写真を撮影しておきましょう。立ち会いをすることなく、過失請求をされてしまう可能性があるからです。あとから箇所の特定や、当時の状況について説明をするにしても証拠もないため、トラブルの温床になることは目に見えています。
Q. 立会い当日に録音してもいいですか?
自分が参加している会話の録音は、原則として違法ではありません。ただし録音機器を見せながら行うことで、担当者が慎重な対応を取るという副次的な効果もあります。トラブルの予防策として有効です。また、録音まではちょっと…と気が引ける人は、細かくメモをとるだけでも効果があります。
なお、メモを取るときは、「理由」の部分に重きを置くと良いでしょう。なぜこの部分を退去者が負担しなければならないのかという理由の説明は、グレーゾーンの請求において管理会社の社員がもっとも困る部分だからです。
Q. 立会い後の追加請求は有効ですか?
立会い後に「追加で請求が発生した」という連絡が来ることがあります。ただし立会い時に確認していない箇所の請求には、根拠となる写真などの提示があってしかるべきです。写真や見積書の開示を求めた上で、内容を精査してください。
まとめ
退去立会で損をしないために、この記事でお伝えしたことを整理します。
退去費用はあなたの部屋の状態だけで決まるのではなく、オーナー・管理会社・入居者の三者関係の中で決まります。ガイドラインの解釈には幅があり、どんな担当者・管理会社に当たるかによって、その幅があなたに有利にも不利にも動く。
信頼できる担当者は立会い前に動いています。口コミを確認し、事前連絡がある担当者かどうかを見極めてください。そして当日は、感情的にならず、知識を自然に示しながら、サインを急がないことが最も有効な対応です。
知識があるかどうかが、退去費用の結果を変えることがあります。ぜひ、この記事を参考にして、退去立会を乗り切ってください。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中