成年被後見人とは何か|宅建試験の頻出論点と不動産売却の現場で起きる問題を現役宅建士が解説

成年後見制度の総論記事では、後見・保佐・補助の3類型の概要をお伝えしました。今回はその中で最も手厚い保護を受ける「後見(成年被後見人)」に絞って解説します。

判断能力がまったくない状態の人を保護するために設けられた後見制度は、宅建試験では民法9条を中心に毎年出題される重要論点です。そして不動産実務では、後見人(弁護士・司法書士)との取引において現場が知らないと困る落とし穴が存在します。試験と実務の両方から整理します。


目次

成年被後見人とは何か——定義と試験で問われる論点

後見は3類型の中で最も判断能力が低下した状態に適用されます。試験では「何ができて何ができないか」という権限の境界線が繰り返し問われます。まずここを正確に把握することが、関連する問題を確実に得点するためのスタートラインです。

その前に、後見・保佐・補助のすべてに登場する「代理権・同意権・取消権」という3つの権限の意味を先に整理しておきます。この3つを混同したまま先に進むと、どの論点でも引っかかります。

【3つの権限の違い】

権限タイミング意味
代理権事前・本人の代わり保護者が本人に代わって契約する
同意権事前・本人が行う本人が行う前に保護者がOKを出す
取消権事後本人がやってしまった後に取り消す

そしてこの3つの権限が、後見・保佐・補助の3類型でどう異なるかを示したのが以下の表です。今は全体像として把握するだけで十分です。各類型の詳細は個別記事で解説します。

【後見・保佐・補助の権限比較】

類型対象者の状態代理権同意権取消権
後見判断能力なし○全般✕なし○日常行為以外
保佐著しく不十分△審判で特定行為のみ○民法13条の行為○同意なき重要行為
補助不十分△審判で特定行為のみ△審判で特定行為のみ△同意なき特定行為

試験で特に問われやすいのは①後見人に同意権がないこと、②日常生活の行為は取り消せないこと、③保佐人には原則代理権がないことの3点です。表の中でこの3箇所を意識しながら読み直してください。

成年被後見人とは?判断能力がまったくない状態

成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者として、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人のことです(民法7条)。重度の認知症・重篤な精神障害・高度の知的障害などが該当します。

3類型の中で最も判断能力が低下した状態であり、それに対応して保護者である成年後見人に与えられる権限も最も広くなっています。

成年後見人の権限|代理権・取消権はあるが同意権はない

成年後見人に与えられる権限は代理権と取消権の2つです。同意権は与えられていません。

代理権により、成年後見人は成年被後見人に代わって法律行為を行うことができます。取消権により、成年被後見人が単独で行った法律行為を後から取り消すことができます。

なぜ同意権がないのか?事前同意が機能しないから

保佐・補助の保護者には同意権がありますが、後見人には同意権が与えられていません。「後見人が事前にOKを出せばいいのでは?」と思うかもしれませんが、それには理由があります。

成年被後見人は判断能力がまったくない状態にあります。後見人が「この取引はOK」と事前に同意しても、成年被後見人本人がその内容を正しく理解して行動できる保証がありません。たとえば後見人が「絵画Aを適正価格で買っていい」と同意しても、本人がとんでもない高値で別の絵画を買ってきてしまうかもしれません。事前同意が本人保護として機能しないため、同意権ではなく代理権・取消権によって全面的に保護する設計になっています。

日常生活に関する行為は取り消せない

成年被後見人の法律行為は原則として取り消せますが(民法9条本文)、日用品の購入その他日常生活に関する行為は例外として取り消せません(民法9条ただし書)。

日常の買い物まで取り消せるとすると、本人の自立した生活が過剰に制限されます。また取引の相手方にとっても、毎回相手が成年被後見人かどうかを確認しなければならなくなり、著しく不便になります。この例外は本人の自己決定の尊重と、取引の安全性の両方を守るために設けられています。

居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要——民法859条の3

成年後見人が成年被後見人に代わって居住用不動産を売却・賃貸・担保設定する場合は、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。

居住用不動産は本人の生活の基盤となる最も重要な財産です。後見人の判断だけで処分できてしまうと、本人の住む場所が失われるリスクがあります。このため家庭裁判所という第三者のチェックが求められています。この許可なしに行った処分行為は無効となります。

身分行為の例外|婚姻・遺言は意思能力回復時に単独でできる

財産に関する行為は後見人が代理しますが、婚姻・協議離婚・認知・遺言などの身分行為は性質上、本人の意思に基づかなければなりません。これらは成年被後見人が意思能力を回復している状態であれば、後見人が関与することなく単独で行うことができます。身分行為は財産管理とは性質が異なり、後見制度の対象外として本人の意思が最優先されるからです。

特に遺言については、医師2人以上の立会いがあれば成年被後見人も作成できます(民法973条)。「成年被後見人は遺言ができない」という理解は誤りですので注意してください。

試験で問われる例題

例題1:「成年後見人は、成年被後見人が日用品を購入する契約をした場合、当該契約を取り消すことができる」

→ ×。日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消せません(民法9条ただし書)。

例題2:「成年後見人が成年被後見人の居住用建物を売却するには、家庭裁判所の許可は不要である」

→ ×。居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。許可なしの処分行為は無効となります。

例題3:「成年後見人は、成年被後見人が行おうとする法律行為について、事前に同意することで当該行為を有効に確定させることができる」

→ ×。成年後見人には同意権がありません。事前同意の制度は後見には存在しません。

例題4:「成年被後見人は、医師2人以上の立会いがあれば遺言をすることができる」

→ ○。身分行為は意思能力回復時に単独でできます(民法973条)。


【サルバナナ劇場】成年被後見人をわかりやすく解説

ここからはサルバナナ劇場です。成年被後見人を動物たちで再現します。

重度の認知症になったゴリラの財産はどうなるか

森で長年暮らしてきたゴリラが、重度の認知症になりました。自分の名前も、どこに住んでいるかも、自分がどんな財産を持っているかも理解できない状態です。このままでは悪質なサル業者に「この山を1バナナで売れ」と騙されても、ゴリラは断れません。

そこで森の裁判所(家庭裁判所)が介入し、チンパンジー後見人を選任しました。チンパンジーはゴリラに代わって山の管理契約を結んだり(代理権)、ゴリラが不利な契約をしてしまった場合に後から取り消したり(取消権)する権限を持ちます。

ただしゴリラが毎日バナナを買いに行く行為は、後見人であっても取り消せません。日常の買い物まで取り消せるとすると、ゴリラが自分で食事を調達することすらできなくなってしまうからです。

なぜチンパンジー後見人は事前にOKを出せないのか

「ゴリラが山を売ろうとしているとき、先にチンパンジーがOKを出せばいいのでは?」と思うかもしれません。しかしゴリラの認知症は重度です。チンパンジーが「この山を1,000バナナで売っていいよ」と事前に同意しても、ゴリラが実際の交渉の場で「じゃあ1バナナで売ります」と言ってしまうかもしれません。

事前同意がまったく意味をなさないため、後見人には同意権ではなく「代わりに全部やる(代理権)」と「後からやり直せる(取消権)」という2つの権限が与えられています。

居住用の山を売るには森の裁判所の許可が必要

チンパンジー後見人がゴリラの代わりに、ゴリラが今住んでいる山を売ろうとしました。しかしこの場合、チンパンジーの判断だけでは売れません。森の裁判所(家庭裁判所)に「この山を売ることは本当にゴリラのためになるか」を判断してもらい、許可をもらう必要があります。

ゴリラが今住んでいる場所を失う可能性のある重大な決定は、後見人一人の判断に委ねるのではなく、第三者である裁判所がチェックする仕組みになっているのです。

店長の独り言

「居住用不動産の売却に家庭裁判所の許可が必要というルールは、試験で問われる論点ですが実務でも本当に重要です。後見人がついていても、居住用不動産はすぐに売れるわけではありません。裁判所への申立て・審判まで時間がかかります。

『認知症の親の自宅を売って施設費用に充てたい』というご家族からの相談で、このハードルの高さを説明するのは正直つらい場面でもあります。だからこそ元気なうちからの準備が大切なんです。」


実務ではこうなる|成年後見制度の現役宅建士が使いどころを解説

成年被後見人に関連する不動産取引は、現場では想定外の問題が起きやすい場面です。法律の知識と現場の実態を紐づけることで、宅建士として適切に対応できるようになります。

法律上はこうなる

成年被後見人との不動産取引では、後見人が代理人として契約を締結します。ただし居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要であり、この許可なしに締結した売買契約は無効です。取引の相手方として「後見人が来ているから大丈夫」と思い込むと、後から許可が得られていなかったことが判明して契約が無効になるリスクがあります。

弁護士・裁判所は不動産実務を知らない

成年後見人に就任した弁護士・司法書士が不動産を売却しようとするとき、現場では想定外の進め方をされるケースがあります。たとえば一堂に複数の不動産会社を集めて「内見してください・媒介契約は売却時に結びましょう」という形で売却活動を始めようとするケースがあります。

これは実務上まったく機能しません。媒介契約なし・価格提示なしで動く不動産会社はいませんし、専任と一般媒介でも動き方はまったく違います。後見人が法律の専門家であっても、不動産売却の実務は別の専門性が必要です。

不動産売却を目的とした後見申立なら不動産会社も最初から関与すべき

認知症のオーナーの不動産売却を目的として後見申立を進める場合は、弁護士への依頼と同時に不動産会社も最初から関与させることが重要です。過去の物件の状況・近隣相場・適切な媒介の形式など、不動産会社が持っている情報は後見人の意思決定に直接影響します。

裁判所が選任した第三者の後見人では、物件の経緯や地域の事情がわかりません。旧知の不動産会社が最初から関与できれば、売却活動がスムーズに進む可能性が大きく上がります。

店長の独り言

「認知症でどうしようもない状況の売却で、弁護士に依頼して後見申立まで進むケースがあります。

そのとき感じたのは、弁護士や裁判所は法律は知っているが不動産実務は知らない、という現実です。不動産を売るためには誰に依頼するか・どういう媒介で進めるか・価格をどう設定するかという判断が必要で、それは法律とは別の専門知識です。

こういうケースでは、不動産会社も最初から入れてもらえれば、余計な時間とコストが省けます。」


後見は「全部守る」制度——試験の3ポイントと実務の落とし穴を押さえておこう

成年被後見人は判断能力がまったくない状態の人であり、その法律行為は日常生活に関する行為を除き取り消せます。成年後見人には代理権・取消権が与えられますが同意権はなく、これは事前同意が機能しないという立法趣旨によるものです。

居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要という点は、試験でも実務でも最重要論点です。身分行為(婚姻・遺言など)は意思能力回復時に単独でできるという例外も合わせて押さえてください。

次回は「被保佐人」について解説します。民法13条の重要行為リストという宅建試験頻出の論点を中心に整理します。成年後見制度の総論記事もあわせてお読みください。

この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

「ネットの情報だけでは不安…」「自分の初期費用や退去費用の見積もりが妥当か見てほしい」という個人のお客様から、大手メディア様・不動産業者様からの記事監修や執筆、お仕事のご依頼まで、幅広くお受けしております。

相談のジャンル(個人・法人)に合わせて、下記よりお気軽にご相談ください。

現役店長への個別相談・お仕事の依頼はこちら(無料窓口)

  • URLをコピーしました!
目次