
離婚を決めたとき、家をどうするかは避けて通れない問題です。「売却したほうがいいのか」「どちらかが住み続けるべきか」「ローンが残っていたらどうなるのか」、頭の中でぐるぐると考えながら、なかなか動き出せない方が多いです。
不動産の問題は、離婚における二次的な問題です。まず離婚そのものの話し合いを進めることが先で、不動産をどうするかはその過程で見えてきます。
不動産会社に先に相談に来ても、両者の合意がない状態ではできることが限られます。それでも、事前に選択肢や自分の家がいくらで売れるのかなどを知っておくことで、いざというときに焦らずに動けます。少なくとも、どんな出口があるのかを把握しておくだけで、話し合いの中で具体的な方向性を描きやすくなるからです。
この記事では、筑後市・柳川市・みやま市・広川町・八女市エリアで離婚による不動産の相談を受けてきた現役宅建士が、現場の本音をお伝えします。
このエリアで離婚×不動産の相談として特によくあるケース
離婚による不動産相談として特によくあるのが、オーバーローン×注文住宅という組み合わせです。
ペアローンで50年組んで注文住宅を建てた。そこに離婚という事態が重なる。このエリアでは、なぜか注文住宅が多い、というのが現場の実感です。
ここで知っておいてほしいことがあります。引越しを検討している人が物件を選ぶときの優先順位(価格帯のランキング)は、おおむね「新築注文住宅→新築建売→中古住宅→賃貸」という順序です。どんなにこだわって建てた注文住宅でも、中古市場では3番目の選択肢に位置づけられます。売主にとっての思い入れと、買い手にとっての価値は別物なのです。
建売住宅であれば、売却が難しくても賃貸としてしのぐことがまだできます。ただ注文住宅は個性が強く、賃貸需要も売却需要も建売より限られがちです。
さらに、このエリア特有の事情があります。
筑後・柳川・みやま・八女エリアは人口減少が進んでいて、買い手が都市部と比べて限られています。注文住宅の建物本体の建築コストは都市部もこのエリアも大差ありませんが、土地の評価額が大きく違います。
都市部では土地が高いぶん資産価値も上がりやすいですが、このエリアでは土地の評価が低いため、同じ建物を建てても売却価格が伸びにくいのです。建物に多額のローンを組んでいるのに売却価格が追いつかない、ローン残債が売却価格を上回るオーバーローンになりやすいのはそういう理由からです。
都市部であれば価格上昇で自然と解消されることもありますが、このエリアではその期待が難しいのが現実です。
【店長の独り言】
「正直に言うと、離婚案件ですんなりと媒介契約に至った経験はあまりありません。状況を聞いて、整理して、アドバイスして、それで終わることが多いです。でもそれでいいと思っています。不動産の問題は、離婚という人生の大きな、そして感情が最大に対立してしまう局面からみれば、おまけのような問題だからです。
焦って動いて後悔するより、きちんと整理してから動いてほしいのです。」
財産分与と不動産「査定だけしてほしい」では動けない理由
離婚における不動産の財産分与では、よくこんな相談が来ます。「まだ離婚の話し合いはしていないけど、いくらになるか査定してほしい」。名義人でもないパートナーが単独で来るケースも少なくないです。
査定自体は可能です。「この物件がおおよそいくらで売れそうか」を把握することは、財産分与の話し合いを進めるうえで重要な情報になります。まず査定から始めること自体は、むしろ正しい順序です。
ただし、査定の先、売却活動となると話が変わります。不動産会社が売却活動を始めるには、所有者(名義人)との媒介契約が必要です。名義人でない方からいくら「売りたい」と言われても、正式な売却活動には進めません。査定はできるけれど、そこから先は名義人の意向と両者の合意が揃わないと動けない、ということです。
旦那さんと奥様が別々の不動産会社に相談しているというケースもあるあるです。それぞれが「自分に有利な情報を集めている」状態では、話し合いが進まないのは当然です。
まず両者で話し合いを進めること。売却活動はその後です。
もし弁護士などを介して離婚の手続きを進めているようであれば、弁護士から不動産会社の担当者を紹介してもらう形で話が進むこともあります。むしろその方がスムーズに動けることが多いです。
自分を起点として話を進めようとすると感情が入ってしまい、うまく進まないケースがあります。弁護士や不動産会社を起点にして、ワンストップで整理していく方が結果的に早く、お互いにとっても楽になることが多いです。
「売却」だけが選択肢ではない「3つの出口」
離婚したら家を売る、というイメージが強いですが、必ずしもそうではありません。筑後・柳川・みやま・八女エリアの実情を踏まえた3つの選択肢をお伝えします。
選択肢① 売却する
最もシンプルな出口です。売却してローンを完済し、残った資金を分ける。ただしオーバーローンの場合、売っても残債が残ります。この場合は任意売却、金融機関の同意を得て市場で売却する方法という選択肢があります。通常の売却に近い条件で進められることが多いですが、金融機関との交渉が必要です。
選択肢② どちらかが住み続ける
一方が住み続ける場合、大きく2つの整理が必要になります。
ひとつは権利関係の整理です。共有名義やペアローンの場合、住み続ける側が相手の持分を買い取るか、名義を変更する必要があります。登記上の名義を確認しておくと、相談がスムーズに進みます。
もうひとつはローンの整理です。住み続ける側がローンを引き継ぐ場合、金融機関の承認が必要になります。現在のペアローンを住み続ける側の単独ローンに借り換えるには、その方の収入・与信(金融機関が評価する返済能力)が条件を満たしていることが前提です。収入が一本になることで審査が通らないケースもあるため、金融機関への事前相談が必要です。
なお、オーバーローンの状態で売却する場合、売却後に残った残債を新たな住宅ローンに上乗せして借り換えるという方法もあると聞きます。ただしこの方法は金融機関との綿密な確認が必要で、すべてのケースで使えるわけではありません。選択肢のひとつとして知っておきつつ、詳細は専門家にご確認ください。
選択肢③ 賃貸として活用する(売らない)
私がよく提案するのがこの選択肢です。無理に売る必要はない、というのが本音です。
特にオーバーローンで売却が難しい場合、どちらかが安価な賃貸に移り住んで、元の家を賃貸として貸し出す方法があります。家賃収入でローン返済の一部を賄いながら、時間をかけて残債を減らしていく。感情的に落ち着いてから、売るかどうかを改めて判断する余裕も生まれます。
実際、「賃貸活用の相談」としてふたを開けてみると離婚案件だった、というケースがこのエリアでも結構あります。売却ではなく賃貸として活用するという選択肢を知っておくだけで、焦って動かずに済むことがあります。
ただし、住宅ローンで購入した居住用の建物を賃貸として貸し出す場合は、必ず事前に借入先の金融機関にご相談ください。住宅ローンは「居住用」であることを条件に低金利が適用されているため、無断で賃貸転用すると契約違反となり、一括返済を求められるリスクがあります。この点はお客様ご自身で金融機関に確認していただく必要があります。
相談するタイミングと、伝えてほしいこと
離婚と不動産の問題は、タイミングが大切です。相談するなら、ある程度話し合いが進んだ段階が理想です。「不動産はおおよそこういう方向で」という合意が両者にあると、不動産会社も具体的な提案ができます。
ただ、完全に決まってから来る必要もありません。「どんな選択肢があるのか知りたい」という段階での相談は歓迎します。状況を聞いて、選択肢を整理するところから一緒に考えます。
相談の際に伝えていただくと話がスムーズに進む情報が3点あります。
①登記上の名義人は誰か。登記を確認しておくだけで、権利関係の整理がぐっとスムーズになります。
②住宅ローンの残債と現在の相場感。残債は金融機関からの残高証明書で確認できます。オーバーローンかどうかの判断に必要な情報です。
③両者の意向のおおよその方向性。売りたいのか・どちらかが住み続けたいのか・賃貸活用を考えているのか。「まだ決まっていない」という状態でも構いません。
【店長の独り言】
「少々生々しい話ですが、『浮気がばれた瞬間に査定してほしい』という連絡が来ることもあります。
気持ちはわかります。ただ、そのタイミングで動いても両者の合意がなければ何も進みません。まず弁護士や調停委員を交えた話し合いを進めてください。不動産の問題はその後で十分です。
必要であれば、パートナーとの折衝を合法的な範囲でサポートすることもできますので、一人で抱え込まずに声をかけてください。」
まとめ「焦って動かなくていい」
離婚において不動産をどうするかは大切な問題ですが、二次的な問題です。まず離婚そのものの話し合いを進めることが先です。
売却・住み続ける・賃貸活用、どの選択肢が合うかは、ローンの残債・物件の状態・両者の意向によって変わります。筑後・柳川・みやま・八女エリアではオーバーローンの注文住宅という難しい条件のケースも多いですが、それでも出口は必ずあります。
焦って動いて後悔するより、状況を整理してから動く方が結果的にいい選択ができます。まず現状を話してみてください。
離婚の問題が起きてから相談に来られる方が多いですが、家を建てるとき・購入するときにも一度ご相談いただくことをお勧めします。「万が一のとき、この物件はどう動くか」という出口の視点を最初から持っておくだけで、後の選択肢が大きく変わります。不動産のプロだからこそ、購入前に伝えられることがあります。
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