
クッションフロア(CF)の退去トラブルで最も多い相談がこれです。
「こんな小さな破れなのに、部屋全体の張替費用を請求された」。
驚くのも無理はありません。ただ、これは不当な請求でも交渉の余地がある話でもありません。CFという素材は、そもそも部分的な貼替も補修もできない商品なのです。国土交通省のガイドラインも修繕単位を「1部屋単位」と明記しており、素材の特性とガイドラインが一致している珍しいケースです。
退去立会いを1,000件超経験してきた現役店長として言うと、CFのトラブルは「知らなかった」から生まれるものがほとんどです。この記事を読んでおくだけで、退去当日に慌てずに済みます。
ぜひ最後までお読みいただき、退去立会の参考にしてみてください。
なお、退去費用のうち、フローリングのことでお悩みの方は、こちらの記事が参考になります。
【関連記事】賃貸退去のフローリングはどこまで請求されるか|退去立会い1,000件超の店長が耐用年数や請求ラインを完全解説
CFの請求は「どこに使われているか」で話が変わる
クッションフロアは耐水性が強い特徴があるため、トイレや洗面室などの水まわりの床に使われるのが主流です。以前は安価なワンルームの居室にも広く使われていましたが、現在その用途は限られています。
このため、CFの退去トラブルも大きく2つに分かれます。水まわりに使われているCFのトラブルと、居室に使われているCFのトラブルです。どちらに該当するかによって、想定されるトラブルの種類が変わります。
修繕の単位について先に押さえておいてください。CFの修繕はフローリングのような「1㎡単位」ではなく、1部屋単位です。これはガイドラインの定めであると同時に、CFという素材が部分補修を受け付けない商品であることに起因しています。
耐用年数はフローリングと同じく6年で残存価値1円です。入居年数が長いほど請求額は下がりますが、張替に要する人件費や間接経費は別途負担が求められる点はフローリングやクロスと同様です。
なお、CFは費用が安価なため、退去者がトラブルなく、すんなり納得するケースが多い箇所でもあります。
退去立会いで担当者が確認する箇所
【水まわりCF(トイレ・洗面室)編】
① お風呂マットのゴムによる色移り・変色・カビ
水まわりCFのトラブルで最も多いのがこれです。洗面室の脱衣スペースに置いたお風呂マットを長期間そのままにしておくと、マット裏面のゴム素材がCFに色移りして変色します。厄介なのは、マットを敷いたままなので本人がまったく気づいていないケースが大半である点です。退去立会いでマットを片付けた後に初めて発覚する、という流れが典型的なパターンです。
② 破れ・めくれ・えぐれ
CFは素材が柔らかいため、家具の移動や重いものの落下で破れやめくれが生じやすい素材です。小さな破れであっても、前述の通り部屋全体の張替費用が請求されます。
③ 家具痕・凹み
CFは柔らかいため家具の脚の跡が残りやすい素材です。軽い凹みは通常損耗として扱われますが、深い凹みや変色を伴う場合はグレーゾーンに入ります。
【居室CF(古いワンルーム等)編】
① タバコの焦げ跡
居室CFのトラブルで圧倒的に多いのがタバコの焦げ跡です。CFが居室の床に使われている物件は、築年数が古かったり安価な物件が多い傾向があります。そのような物件では喫煙者の入居率が相対的に高く、タバコの焦げ跡が残るケースが多くなります。
② 家具の引きずり傷・落下物による損傷
家具を引きずった際の傷や、重いものを落とした際のえぐれは過失として請求対象になります。CFは柔らかい素材のため、こうした損傷が特に残りやすい素材です。
請求される損傷・されない損傷 判断基準を公開
| 損傷・不具合の種類 | 請求 | 理由 |
|---|---|---|
| 家具による軽い凹み | グレー | 素材が柔らかく通常損耗との境界が曖昧 |
| 家具の引きずりによる傷・破れ | される | 過失 |
| 落下物による破れ・えぐれ | される | 過失 |
| お風呂マットのゴムによる色移り | グレー〜される | 長期放置は清掃怠慢と判断される場合あり |
| タバコの焦げ跡 | される | 過失 |
| 日焼けによる変色 | されない | 経年劣化 |
| 通常使用による表面の劣化 | されない | 経年劣化 |
| 破れ・めくれ(いかなる範囲でも) | される(1部屋単位) | 過失・素材特性上部分補修不可 |
| 重歩行用CFへの通常損耗 | されない | 通常損耗の範囲 |
【補足①:CFはほぼ毎回張替になる現実】
CFは素材が柔らかいため家具痕がつきやすく、実務上はほぼ退去がある度に張替を行います。裏を返せば、CFの家具痕が残ったまま張替されていない物件を内見したら、修繕にコストをかけない家主だと判断できる目安にもなります。
【補足②:お風呂マットの色移りは「定期的にめくる」だけで防げる】
お風呂マットの色移りは、長期間マットを動かさずに放置することで起きます。月に一度マットをめくってCFの状態を確認するだけで、変色に早期に気づくことができます。変色が進行する前に管理会社へ相談することで、退去時の請求を回避できる場合があります。
【補足③:重歩行用CFは耐久性が高い】
廊下やキッチンに重歩行用CFが使われているケースがあります。外靴での使用を想定した素材で、美容院や保育園・病院の廊下などで使われているものと同じです。通常のCFより耐久性が高いため、多少の傷や汚れは通常損耗として扱われます。
CFが「1部屋単位」で請求される理由——ここを理解しておくことが大切
CFの退去トラブルで最も多い驚きの声が「こんな小さな破れなのに、なぜ部屋全体の費用なのか」というものです。これには明確な理由が2つあります。
理由①:CFは素材の特性として部分補修ができない
フローリングには、小さな傷に専用塗料を塗り込む「タッチアップ」や「1㎡単位の部分補修」という選択肢があります。ところがCFにはそれがありません。CFはシート状の素材であるため、破れや大きな損傷が生じた時点で一面張替以外に選択肢がないのです。部分的に同じ柄・色のCFを貼り合わせることは技術的に難しく、継ぎ目が目立つため仕上がりとして成立しません。
理由②:国土交通省のガイドラインが「1部屋単位」と明記している
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、CF・カーペットの修繕単位を「洗浄等で落ちない汚れ・キズの場合は1部屋単位」と明記しています。素材の特性とガイドラインの両方が「1部屋単位の施工」を認めている格好です。
この2点を知らずに退去立会いに臨むと、小さな破れ1か所に対して部屋全体の張替費用を請求されたときに、不当な請求だと感じて無用なトラブルになります。CFにおける退去費用の請求根拠は明確です。サインする前に入居年数と残存価値の確認をしたうえで、落ち着いて対応してください。
なお、費用はフローリングの全面張替と比べると安価なケースがほとんどです。耐用年数の6年を経過していれば残存価値は1円となり、CF本体への請求は大幅に減額されます。
店長の独り言
「CFは安価で施工しやすい素材なので、昔は居室にも広く使われていました。ただ、CFを居室に使っている物件は今ではかなり数が少ないように思います。素材自体の話ではなく、修繕や管理に費用をかけているかどうかの目安として、内見のときに床材を確認する習慣は、物件選びの観点からも意外と大切だと思っています。
なお、実はCFはさまざまな柄や硬さのものがあるため、廊下や玄関土間に施工することで安価にお部屋の雰囲気を変えることができる、便利な素材です。フローリングやフロアタイルのようなおしゃれさはあまりないかもしれませんが、過失が発生しても費用がそこまで高額にならない、言わば賃貸物件向きの素材、と言えるかもしれませんね。」
退去前日にやるべき最低限チェックリスト
【水まわり(トイレ・洗面室)】
- [ ] お風呂マットをめくって色移り・変色がないか確認する
- [ ] 破れ・めくれ・えぐれがないか全面を確認する
- [ ] 洗面台下収納など家具の下を確認する
- [ ] 変色や損傷がある場合は管理会社へ事前に相談する
【居室CF(該当する場合)】
- [ ] タバコの焦げ跡がないか確認する
- [ ] 家具の引きずり傷・破れがないか確認する
- [ ] 落下物による損傷がないか確認する
- [ ] 損傷がある場合は火災保険の対象になるか確認する
まとめ|CFの退去で損しないための3原則
① 小さな破れ1か所でも部屋全体の費用になる——これはCFの素材特性とガイドラインの両方が根拠
「こんな小さな傷なのに」と驚く方が非常に多い箇所です。ただしこれは不当な請求ではありません。CFは部分補修ができない素材であり、ガイドラインも1部屋単位と定めています。この2点を事前に知っているだけで、退去当日の余計なトラブルを防ぐことができます。
② お風呂マットの色移りは「気づかない損傷」の筆頭——月に一度めくる習慣を
在住中から定期的にマットをめくって確認することが唯一の予防策です。変色が進んでいる場合は退去前に管理会社へ相談しておくことで、立会い当日の展開が変わります。
③ 耐用年数6年経過後は残存価値1円——入居年数を確認してからサインする
CF本体の価値は6年で1円になります。入居年数が長いほど請求額は下がるため、退去精算書にサインする前に入居年数とCFの残存価値を確認することを忘れないでください。
CFは費用が安価なこともあり、退去トラブルとしては比較的穏やかに解決するケースが多い箇所です。ただし「1部屋単位」という修繕の原則だけは、事前に知っておく価値があります。この記事が退去立会いに臨む前の一助になれば幸いです。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中
