心裡留保とは何か|原則有効・例外無効の判断基準と善意の第三者を現役宅建士がわかりやすく解説

「心裡留保(しんりりゅうほ)」読み方からしてなんだか難しそうに見えますが、意味は非常にシンプルです。要するに「嘘をついた・冗談を言った」という状況における法律的な扱いです。

意思表示シリーズの最初のテーマとして心裡留保を選んだのには理由があります。「原則有効・例外無効」という判断の枠組みと「善意の第三者には対抗できない」という保護の仕組みは、この後に続く虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫にも共通して登場するからです。

心裡留保でこの枠組みを正確に理解しておくと、意思表示シリーズ全体の理解が一段深まります。


目次

【サルバナナ劇場】心裡留保をイメージで掴む

定義の前にまずイメージを掴んでください。「心裡留保とはどういう状況か」を動物たちで再現します。

冗談でバナナを売ると言ったサルはどうなるか

森でサルがゴリラに向かって「この山、タダでやるよ!」と冗談で言いました。サル自身は本気ではありません。本心(真意)は「あげるつもりはない」です。しかしゴリラはサルが本気だと思って「わかった、もらう!」と承諾しました。

このとき契約はどうなるでしょうか。

原則として契約は有効です。「冗談だったから無効」という主張は通りません。なぜなら、サルが自分から嘘をついたのですから、それによってゴリラが信じてしまっても、サルが悪いからです。「言った言葉には責任を持て」というのが民法の基本的な立場です。

ただし例外があります。ゴリラが「サルが冗談を言っているとわかっていた(悪意)」または「少し注意すればわかったはずだった(有過失)」という場合は、契約は無効になります。嘘だとわかっていたゴリラを保護する必要はないからです。

そんなことを知らないリスが登場したら

では話を複雑にします。サルとゴリラの間の契約が「無効」になった後、ゴリラがリスに「この山を売る」という契約を結んでいた場合はどうなるでしょうか。

リスが「サルとゴリラの間に心裡留保があった」ことを知らなかった(善意)場合、サルはリスに対して「無効だ」と主張できません。善意のリスは保護されます。

ここで重要なのは、リスに過失があっても保護されるという点です。「善意であれば足りる」、これが後述する錯誤・詐欺の「善意無過失」との違いです。

この心裡留保のポイントを図にまとめると以下のようになります。ぜひスマホでスクショをとっておき、試験勉強にお役立てください。


心裡留保とは何か——定義と試験で問われる論点

サルバナナ劇場でイメージが掴めたところで、法律上の定義と試験の論点を整理します。

心裡留保とは——読み方と定義(民法93条)

心裡留保は「しんりりゅうほ」と読みます。「心裡」は心の中・胸の内という意味です。表意者が真意でないことを自ら知りながら行う意思表示のことです(民法93条)。

「表意者」とは意思表示をする人のことです。つまり「嘘をついている本人」です。相手と示し合わせた嘘(虚偽表示)とは異なり、心裡留保は「自分だけが嘘だと知っている」という一人芝居の状況です。

原則有効——なぜ「冗談だった」では済まないのか

心裡留保による意思表示は原則として有効です(民法93条1項本文)。「冗談で言ったから無効にしてほしい」という主張は原則通りません。

理由は取引の安全を守るためです。相手方が本気で信じて行動した場合、後から「あれは冗談でした」と言われると、相手方は突然契約がなくなるという不利益を被ります。自分から嘘をついた表意者より、信じて行動した相手方を保護するのが妥当という判断です。

例外無効——相手方が悪意または有過失のとき

ただし相手方が以下のいずれかに当てはまる場合は例外的に無効になります(民法93条1項ただし書)。

悪意:相手方が表意者の真意でないことを知っていた場合です。「あれは冗談だとわかっていた」というケースです。

有過失:相手方が注意すれば真意でないことを知ることができたのに、不注意で知らなかった場合です。「ちょっと考えればわかったはずなのに」というケースです。

この場合、相手方を保護する必要がないため、意思表示は無効になります。なお立証責任は表意者(嘘をついた側)が負います。

善意の第三者には無効を対抗できない——フローチャートで整理

ここが心裡留保で最も混乱しやすい論点です。上記のフローチャートを参照しながら整理してください。

心裡留保による意思表示が無効になった場合でも、その無効を善意の第三者に対抗することはできません(民法93条2項)。

重要なポイントが2つあります。

ひとつは「善意であれば足りる」という点です。第三者に過失があっても保護されます。これは錯誤・詐欺の「善意無過失」が必要という扱いと異なります。試験で頻出のひっかけポイントです。

もうひとつは「登記は不要」という点です。善意の第三者は登記を備えていなくても保護されます。

意思表示シリーズの比較表

意思表示シリーズ全体を通じて、以下の比較表を頭に置いておくと論点の整理がスムーズになります。

種類効果第三者保護の要件
心裡留保原則有効・例外無効善意(過失は問わない)
虚偽表示無効善意(過失は問わない)
錯誤取り消せる善意無過失
詐欺取り消せる善意無過失
強迫取り消せる第三者保護なし

心裡留保と虚偽表示は「善意であれば足りる」という点で共通しています。錯誤・詐欺は「善意無過失」が必要であり、強迫に至っては第三者保護の規定がありません。この違いを整理しておくと、意思表示シリーズ全体の問題で確実に得点できます。

試験で問われる例題

心裡留保の試験問題は「原則・例外・第三者」という3段階の判断を問うものがほとんどです。問題文に出てくるキーワードを拾うことが先決です。

例題1:「AがBに対して、売る意思がないのに土地を売ると申し込み、Bがこれを承諾した場合、Bが善意無過失であれば、この売買契約は有効である」

→ ○。相手方が悪意または有過失のときに無効となります。Bが善意無過失であれば悪意でも有過失でもないため、契約は有効です。

実務では…:実務では、売る意思があるときは個人間の直接売買を除き、必ず事前に「媒介契約」を締結します。なので、まずこのような例題にあるようなケースに巻き込まれることはないでしょう。

「善意無過失なら有効」という記述は正しいですが、「善意無過失でなければ有効にならない」という誤解に引っかからないよう注意してください。無効になる条件は「悪意または有過失」であり、「善意有過失」も無効になります。この条件の方向を正確に押さえることが重要です。

例題2:「心裡留保による意思表示が無効となった場合、善意有過失の第三者に対してその無効を対抗することができる」

→ ×。善意の第三者には無効を対抗できません。「有過失」という言葉でひっかけています。第三者保護は「善意であれば足りる」ため、有過失でも保護されます。

問題文に「善意有過失の第三者」が出てきたら、「心裡留保・虚偽表示なら保護される、錯誤・詐欺なら保護されない」という振り分けを即座に行ってください。この振り分けができれば、意思表示シリーズの第三者問題は確実に得点できます。

例題3:「Aが冗談でBに土地を売ると言い、BがAの真意を知らずに承諾した場合、AはBに対して心裡留保を理由として無効を主張できる」

→ ×。相手方Bが善意(真意を知らない)であれば、AはBに対して無効を主張できません。「冗談だったから無効」という主張は、相手方が善意の場合には通らないのです。


実務ではこうなる——現役宅建士が使いどころを解説

法律上はこうなる

不動産取引において心裡留保が問題になる場面は、実務上ほとんどありません。売買契約や賃貸借契約は書面で行われるのが原則であり、「冗談で署名した」という主張はほぼ通らないからです。

また宅建士が関与する取引では重要事項説明を経て契約を締結するため、表意者が「本気ではなかった」という状況が生じにくい構造になっています。

なぜ宅建試験で実務にあまり関係のない心裡留保が出題されるのか?

実務で使わないのに、なぜ民法の最初にこれを学ぶのか。それは、心裡留保が民法全体の「基本思想(基本ルール)」を学ぶための最高の教科書だからです。

民法には、常に以下の2つのグランドルールが存在します。

「言った本人が責任を負う(取引の安全:原則有効)」

「事情を知らない関係者をどう守るか(第三者保護:善意の第三者)」

心裡留保は、この「ルールの基本形」を教えてくれています。実務では使いませんが、この後に続く「虚偽表示」「錯誤」「詐欺」のひっかけパターンを解くための「民法の脳みそ」を作られているかを試すために、試験官はあえて受験生の基礎体力を試してくるのです。

【おまけの裏話】お酒の席での「口約束」には要注意?

不動産の「契約」にはなりませんが、実務に近い笑い話として、ある飲み屋さんでの事例を紹介します。

楽しくお酒を飲んでいたある社長さんが、隣の女性に向かって「俺が半分出してやるから、あの部屋を借りなよ!」と口走ったそうです。後日、その女性が本当に不動産会社にやってきて「社長が半分払ってくれると言ったので、契約を進めてください」と手続きを求めにきました。

結局はうまく断れたようですが、法律の理屈(民法93条)を当てはめると、女性が「社長の言葉を本気で信じていた(善意無過失)」場合、社長の「冗談だった(心裡留保)」という言い訳は通らず、本当に半分払う義務が生じる可能性すらあります。

不動産会社のオフィスでは心裡留保は起きませんが、夜のお酒の席での発言には、宅建士としても本当に気をつけましょう(笑)。


心裡留保は「嘘をついた自分が悪い」|意思表示シリーズの土台をここで固めておこう

心裡留保とは、表意者が真意でないことを自ら知りながら行う意思表示です。原則として有効ですが、相手方が悪意または有過失の場合は例外的に無効になります。無効になった場合でも、善意の第三者には無効を対抗できません。

試験で押さえるべき最重要ポイントは「第三者保護は善意であれば足りる(過失は問わない)」という点です。錯誤・詐欺の「善意無過失」との違いを比較表で整理しておいてください。

次回は虚偽表示を解説します。心裡留保と虚偽表示は「善意の第三者保護」という点で共通していますが、成立の仕組みがまったく異なります。被保佐人の記事もあわせてお読みください。

この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

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