
「定期借家は避けるたほうがよい」という思い込みで、あなたは優良物件をみすみす逃しているかもしれません。なぜなら、確かに借主に不利な制度ですが、物件の希少性と住む期間さえマッチすれば、デメリットがメリットを打ち消してしまうようなことにはならないからです。
仲介担当者が「定借はやめましょう」と言うのは、制度が悪いからではなく、単に「説明と手続きが面倒なだけ」という裏事情もあります。
この記事では、現役店長の視点から、良質な定借を見極めるための「具体的な判断軸」を本音で解説します。
ぜひ最後までお読みください。
まず結論|借りていい定借・やめた方がいい定借
定期借家契約の説明よりも先に、定借物件を借りていいかどうかの判断軸から話を進めます。「で、結局どうすべきか」を最初に知ったうえで読み進める方が、理解が深まるでしょう。
定期借家でも借りていい物件
戸建てや分譲マンションなど、希少性のある物件は定期借家でも積極的に検討していいと考えています。この種の物件は、転勤オーナーが自分の持ち家を期間限定で貸し出しているケースが多く、設備や管理の質が高いことが多いです。同じ条件の普通借家物件はまずお目にかかれないため、定期借家であることを承知のうえで借りる価値があります。
家賃が明確に安い場合も検討の余地があります。ただし後述しますが、定借だから必ず安いとは限りません。周辺相場と比べて明確に割安であると確認できた場合に限ります。
やめた方がいい物件・状況
長期居住を希望している方には向いていません。定期借家は期限が来れば退去が原則であり、再契約も保証されていません。子どもの学区を固定したい・転居の予定がない・長く住み続けたいという方には、普通借家一択です。
法人契約・社宅代行が絡む場合は、そもそも定期借家がNGとなっているケースがあります。会社の規定や社宅代行会社のルールで「定期借家不可」と定められていることがあるため、法人契約を検討している方は申込前に必ず確認してください。
判断の軸は「住む期間」と「用途」の2点だけです。 この2点が合えば、定期借家を避ける理由はありません。
普通借家と定期借家——何がどう違うのか
判断軸を持ったうえで、制度の違いを整理しておきます。普通借家と定期借家の違いは複数ありますが、実務上重要なポイントに絞って解説します。
| 項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 契約の更新 | あり(借主が希望すれば原則更新) | なし(期間満了で終了) |
| 契約期間 | 1年以上 | 自由に設定可(1年未満も可) |
| 中途解約 | 原則可 | 居住用は特約で可が一般的 |
| 家賃の増減額 | 協議次第 | 原則なし・ただし特約で変更可が一般的 |
| 契約方式 | 書面が一般的(口頭でも法律上は成立) | 書面必須+別紙での説明義務あり |
最大の違いは「更新の有無」です。普通借家は借主が望む限り基本的に住み続けられますが、定期借家は期間が来れば契約終了が原則です。
家賃の増減額は「原則なし」だが特約で変わることが多い
定期借家のメリットとして「契約期間中は家賃が変わらない」と説明されることがあります。これは制度の原則としては正しいです。ただし実務では、「特約で家賃の増減額ができる」旨を契約書に盛り込むことが一般的です。
つまり「定期借家なら家賃が安定する」というメリット説明は、半分正しく半分不正確です。契約書に増減額条項が入っていれば、期間中でも家賃が変わる可能性があります。
賃貸の重要事項説明で見落としやすい8つのポイント——宅建士が現場目線で解説でも触れていますが、契約書の特約欄は必ず確認してください。
なぜ定期借家という制度が生まれたのか
定期借家は2000年(平成12年)の借地借家法改正によって導入された比較的新しい制度です。なぜこの制度が必要だったのかを理解すると、「なぜ借主に不利なのか」の納得感が爆上がりします。
普通借家は借主が強すぎて、貸主が貸し渋っていた
普通借家契約は、借主の権利が非常に強く保護されています。貸主からの一方的な解約には「正当事由」が必要であり、「自分が使いたいから返してほしい」という理由だけでは退去を求めることができません。
この制度の下では、転勤などで一時的に家を空ける人が「貸したいけれど戻れなくなるかもしれない」と不安を感じ、空き家のまま放置するケースが社会問題になっていました。
良質な住宅が市場に出回らないという問題を解決するために、期間を区切って貸せる定期借家制度が導入された、というのが社会的な背景に存在しています。
戸建て・分譲マンションに定借が多い理由
この背景を知ると、なぜ戸建てや分譲マンションに定期借家が多いのかがわかってきます。転勤で自宅を離れるオーナーは、帰ってきたときに確実に家に住む必要があります。だから定期借家(≒期間が決まっている契約)を選ぶのです。
言い換えれば、定期借家の物件の多くは「オーナーが大切にしてきた自分の家」です。しかも、将来自分が戻って住む前提で貸しているため、変なリフォームをせず良い設備をそのまま残しているケースが多いのも特徴です。管理の行き届いた良質な物件が定期借家で出てくる理由はここにあります。
賃貸の戸建ては本当にいいのか?現役店長が「3種類の違い」から定期借家・退去費用・内見のツボまで本音で解説でも詳しく解説しています。
「定借は家賃が安い」は本当か——現場の本音
定期借家のメリットとして「家賃が相場より安い」と書かれている記事が多くあります。これは完全な誤りではありませんが、実態は少し違います。ちょっと現場での経験則から、深掘りをしていきましょう。
転勤オーナーは安くできない現実がある
転勤でやむを得ず家を貸し出すオーナーのほとんどは、個人です。投資目的の不動産オーナーとは違い、住宅ローンの返済があり、固定資産税もあり、管理費や修繕積立金もある。収益物件として計算された家賃設定ではなく、「少なくとも返済額は上回らないと困る」という家計における死活問題の観点から逆算した家賃を設定せざるを得ません。
つまり、定期借家だからといって相場より大幅に安くなるわけではありません。むしろ、転勤オーナーの個人的な事情から、相場と同水準かそれ以上になることも当然にあるのです。
安くなるのは「空室リスクの補填」のためだけ
定期借家の家賃が相場より安くなるのは、「定期借家というだけで入居を敬遠する人がいる」という空室リスクを補填するためです。それ以外の理由で安くなる構造はありません。
「定期借家だから家賃が安いはず」という前提で物件を探すと、期待外れになることがあります。周辺相場と比較した目で判断するのが正確です。
店長の独り言
「例えば、転勤に伴い家や部屋を貸し出したい、というオファーはよくいただきます。
そのときに、当然のことながら『いくらくらいで貸すことができるか』という話にはなります。そのとき、相場として見るのは普通借家契約をも含めた地域の家賃相場です。
相場に加えて、ご自身の家計の状況を鑑みる必要性もあるため、『じゃあ安くても補填になるなら貸し出そう』という人もいらっしゃれば、『成約したときのことを考えて高めに出してください』と言われることもあります。
このような状況が存在するため、『人』の要素を含むという観点からも、定借だからと言って安くなる、という安易な発想はちょっと危険かな、と感じます。」
中途解約は本当にできないのか|よくある誤解を正す
定期借家のデメリットとして「中途解約が原則できない」と書いている記事が多くあります。これは制度の原則としては正しいですが、実務ではちょっと異なります。
居住用の定期借家契約では、中途解約ができる旨の特約事項が契約書に入っているのが一般的です。 「原則不可」という記述は制度論としては正確ですが、現場の実態とは乖離しています。要は誤解が生じやすいポイントだということです。
法律上の権利として中途解約できるケースがある
特約事項がない場合でも、借地借家法第38条第7項によって、一定条件を満たせば法律上、中途解約が認められています。
条件は2つです。まず床面積が200㎡未満の居住用住宅であること。次に転勤・療養・親族の介護など「やむを得ない事情」があること。この2つを満たせば、特約がなくても借主から中途解約の申し入れができます。この場合、申し入れから1ヶ月後に契約が終了します。
「追い出される」ことへの不安から定期借家を避ける方も多いですが、逆に「出たいときに出られない」という状況も、法律上は限定されています。一般的な賃貸アパート・マンションであれば、200㎡を超えることはまずありませんから、やむを得ない事情があれば法律上の権利として解約できると覚えておいてください。
ただし、特約の内容は物件によって異なります。「いつでも解約可能」なのか「一定期間経過後から解約可能」なのか、「違約金が発生するか」など、条件が物件ごとに違います。
出典:借地借家法
こういった契約期間中の解約トラブルに巻き込まれないためには、契約書の中途解約条項を必ず確認してください。
賃貸の短期解約違約金とは?いくらかかる・払わなくていいケースを現役店長が本音で解説も合わせてご確認ください。
店長の独り言
「短期解約違約金のリンクを貼っておいてなんですが、定期借家契約において、再契約後の契約で短期解約違約金が設定されることはかなりのレアケースです。
そもそもそれまでに数年は居住しており、短期解約違約金を設定する必要性に欠けるからです。
万が一、再契約後の契約に短期解約違約金が設定されていたら、さすがにこれは外してくれ!と強く言っていいレベルです。」
「再契約前提」は保証ではない
定期借家の物件を紹介する際に「再契約前提です」と説明されることがあります。これは「再契約できる可能性が高い」という意味であって、「必ず再契約できる」という約束ではありません。ここを誤解したまま入居すると、期限到来時に困ることになります。
素行が悪ければ満了で実際に解除する
現場の実態として、入居中の素行が悪い・家賃の支払いが滞る・近隣トラブルを起こすといった問題があれば、契約満了をもってそのまま解除します。実際にそのような対応をしたことも何度もあります。
入居者に伝えている言葉として、「家主さんも大切な資産を貸し出されています。人となりや家賃の支払い状況が、再契約の条件になります」と、はっきり伝えます。再契約は権利ではなく、信頼関係の積み重ねの結果です。
再契約のたびに仲介手数料が発生する事情
再契約前提の定期借家が増えている背景には、管理会社や仲介会社の収益構造も関係しています。再契約は法律上「新規契約」として扱われるため、そのたびに仲介手数料が発生します。
入居者からすれば「住み続けるだけなのになぜ手数料を払うのか」という疑問は正当です。その違和感はめっちゃ正しい。ただ、これは管理会社にとって定期的な収益機会になるため、再契約前提の定期借家を積極的に設定する動機があることも事実です。
「再契約前提です」という説明を受けたときは、こうした背景があることを頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
店長の独り言
「定期借家契約はおおむね3年とか5年とかのスパンで契約が締結されます。定期借家契約という期間が定まっており、更新がないのですから、更新料という概念が存在していません。
ただ、再契約には仲介手数料がかかる、と言うことを考えると、更新料を払っても普通借家契約が良いのか、契約期間を考えると仲介手数料が良いのか、ここは悩みどころです。
もしも、定期借家契約と普通借家契約の物件で悩んでいるときは、こういった継続コストの観点も持っておくと、判断基準の一つになるかもしれません。」
管理会社が満了通知を忘れるトラブルもある
定期借家では、貸主は契約満了の6ヶ月〜1年前に入居者へ終了通知を行う法律上の義務があります。この通知が行われなかった場合、契約の終了を入居者に主張できなくなる可能性があります。
実際に、管理会社がこの通知を忘れてトラブルになるケースがごくまれにあります。入居者にとっては有利な話ではありますが、どちらにとっても余計なトラブルの種です。自分の契約終了日は自分でも把握・管理しておくことをお勧めします。
期限が来る前にできること——満了退去を回避する交渉の現実
定期借家に住んでいて、もうすぐ契約満了が迫っている方へ向けて書きます。「どうにかして住み続けられないか」という問いへの答えは、「交渉の余地はゼロではありません。ただし早さと準備が全てです」です。
交渉の余地はゼロではない
定期借家は法律上、貸主に有利な制度です。契約満了で退去を求められれば、借主はそれを拒否する法的な手段はほとんどありません。これは悲しくも厳しい現実です。
ただし、法律とは別の次元で「オーナー心理」が動くことがあります。良い入居者を手放したくない、という感情は、オーナーが人間である以上必ず存在します。
特に実需転用型の定期借家、例えば転勤オーナーが自分の家を貸しているケースでは、「大切な家をきれいに使ってくれた人」への感謝や信頼感が再契約の判断に影響することがあります。また、オーナー側も転勤が長引きそうとか、事情が変わっていることも当然にあり得るでしょう。
交渉のテーブルに乗れるかどうかは、家賃の支払い状況・生活態度・近隣との関係の3点で決まります。この3点がきれいであれば、「住み続けたい」という意思を伝える価値があります。逆に一つでも問題があれば、交渉以前の問題です。
交渉のタイミングと伝え方
満了通知が届いてから動き始めるのでは遅いです。 満了6ヶ月前に通知が来る、ということは、その時点ですでにオーナーは「退去してもらう方向」で考えているということです。
理想的なタイミングは、契約満了の6ヶ月以上前です。管理会社経由で「できれば住み続けたいと思っているので、再契約の可能性があれば相談したい」という意思を早めに伝えてください。オーナーがまだ方針を固めていない段階であれば、交渉の入り口に立てる可能性があります。
伝え方としては、「住み続けたい」という一方的な要求ではなく、「オーナーのご都合に合わせて条件を相談させてもらえないか」というスタンスが有効です。場合によっては家賃の増額を自ら提案することが、再契約の後押しになることもあります。
それでもダメだったときのために
交渉が実らなかった場合でも、満了通知から実際の退去まで最低6ヶ月の猶予があります。この期間を有効に使うことが大切です。
次の物件探しは通知が来た時点ですぐに始めてください。6ヶ月あれば、希望条件の物件を見つける時間は十分に確保できます。また、退去費用と引越し費用の準備も並行して進めておきましょう。
退去費用の基本的な考え方は賃貸の退去費用|何を請求されて何を払わなくていいか、現役店長が全部解説で、引越し業者の選び方は引越し業者の選び方|不動産店長が教える一括見積もりの正しい使い方で解説しています。
定期借家の満了は「突然の出来事」ではなく、最初から分かっていた予定です。その予定に対して早めに動き始めることが、住み替えを有利に進める唯一の方法です。
申込前・重説で必ず確認する3点
① 契約終了日(別紙書類で必ず確認する)
定期借家契約では、契約書とは別に「定期建物賃貸借契約の説明書」という書面を用意して、貸主が借主に説明する法律上の義務があります。この別紙に契約終了日が明記されています。重要事項説明の場でこの書類が出てきたら、終了日を必ず自分の目で確認してください。
「2年後に期限が来る」のか「5年後」なのかで、生活設計がまるで変わります。担当者の口頭説明だけで終わらせず、書面で確認することが鉄則です。
② 中途解約特約の有無
前述の通り、居住用では中途解約特約が入っているケースが多いですが、すべての物件に入っているわけではありません。「中途解約はできますか?」と直接確認し、契約書の該当箇所を確認してください。
重要事項説明全般のチェックポイントについては賃貸の重要事項説明でサインする前に知っておくべきこと——現役店長宅建士が本音で解説もあわせてご覧ください。
まとめ
定期借家は「借主に不利な制度」ですが、制度が生まれた背景には合理的な理由があります。転勤オーナーが安心して貸せるようにするための仕組みであり、その結果として戸建て・分譲マンションなどの良質な物件が市場に出回るようになっています。
「全部避ける」のではなく、「住む期間と用途が合うかどうか」で判断する視点を持つことが大切です。希少性の高い物件・家賃が明確に安い物件は、定期借家であっても検討する価値があります。
一方で、長期居住希望の方・法人の社宅代行が絡む方は、定期借家を避けるのが無難です。申込前に契約終了日・再契約の条件・中途解約特約の3点を書面で確認すれば、定期借家に関するほとんどのトラブルは防げます。
初期費用の考え方については賃貸の初期費用はいくら?内訳・相場・誰に払うかを現役店長が本音で解説、短期解約の違約金については賃貸の短期解約違約金とは?いくらかかる・払わなくていいケースを現役店長が本音で解説もあわせてご参照ください。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
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- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中