
「高齢の親の住まいを探しているが、なかなか審査に通らない」「自分自身が70歳を超えてから部屋を借りようとしたら断られてしまった」──こうした相談は、不動産業界で20年近く働いてきた中でも年々増えています。
高齢者が賃貸を借りにくいという現実は確かに存在します。ただ、その理由を正しく理解すれば対策を立てられます。オーナーが抱く不安の本質と、その不安を解消するための具体的な方法を整理してお伝えします。
ぜひ最後までお読みください。
「高齢者は賃貸を借りられない」は本当か
高齢者が賃貸を借りにくいという問題は、統計的にも裏付けられています。賃貸住宅を希望する高齢者の約4人に1人が入居を拒否された経験があり、関東では約3人に1人という数字もあります。「断られた」で終わらず何度も挑戦した方の中には、5回以上断られた経験を持つ方もいます。
審査が厳しくなり始める年齢について、現場の肌感覚として70歳が一つの目安になります。保証会社によっては審査の対象年齢を75歳までと設定しているケースもあり、それを超えると審査に申し込む前の段階でハードルが生じます。
ただし「高齢者は借りられない」という表現は正確ではありません。「借りにくくなる」というのが正しい表現です。この記事で解説する対策を揃えれば、道は開けます。まずオーナーが慎重になる理由を正しく理解するところから始めましょう。
オーナーが断る「表向きの理由」と「データが示す実態のズレ」
高齢者の入居審査に拒否感があると回答するオーナーは7割を超えるという調査結果があります。その理由として挙げられるのは主に3つです。孤独死リスク・家賃滞納リスク・認知症によるトラブルリスクです。
この中で特に大きな誤解があるのが、孤独死リスクです。「高齢者は孤独死のリスクが高い」という前提で入居を断るオーナーは多いですが、統計データはまったく異なる実態を示しています。
一般社団法人日本少額短期保険協会が発表した「第6回孤独死現状レポート」によると、孤独死者の平均年齢は61.6歳です。65歳未満、つまり高齢者に到達していない年齢で亡くなっている方の割合は52%を超えており、40代以下でも全体の20.7%を占めています。60代が最も多く全体の30.6%です。
出典:一般社団法人日本少額短期保険協会 「第6回孤独死現状レポート」
つまり孤独死は高齢者だけの問題ではなく、全ての単身世帯で起こり得ます。高齢者だけを特別視することは、統計的にはまったく正しくないのです。
では、オーナーの不安の本質は何でしょうか。それは「発見が遅れること」と「経済的損失が出ること」の2点に集約されます。
同レポートによると、孤独死発生から発見までの平均日数は17日で、15日以上経過して発見されるケースが3割以上あります。発見が遅れるほど原状回復費用が増加し、平均損害額は約39万円(原状回復)・約24万円(残置物処理)に上ります。
この「発見の遅れ」と「経済的損失」という本質的な不安に対して、具体的な対策を提示することが、審査に向けた交渉をスムーズに進めることができる、ということになります。
詳しくは事故物件・告知事項ありの解説記事も参考にしてください。
オーナーの不安を解消する「4つの交渉材料」
前のセクションで明らかにした「オーナーの不安の本質」に対応する形で、交渉材料を整理します。「孤独死が怖いから断る」ではなく「発見が遅れること・経済的損失が出ることが怖い」という本質に向き合えば、それぞれに対応する手段があります。
① 代理契約(子ども名義での契約)
最も有効な手段です。収入・信用力がある子どもが契約者になることで、保証会社の審査問題と収入証明の問題を同時に突破できます。実務でも最も多く活用される手法で、オーナー・管理会社にとっても「請求できる相手が明確になる」という安心感があります。子どもが遠方に住んでいる場合でも代理契約は可能ですが、緊急連絡先として連絡が取れる状態であることが前提になります。
② 見守り・駆けつけサービスの契約
孤独死の発見遅延リスクを制度として解消する手段です。定期的な安否確認と異常時の駆けつけサービスがセットになったサービスを契約することで、オーナーに「発見が遅れない仕組みがある」という安心感を提供できます。セコム・アルソックなど大手から、不動産会社と提携した専門サービスまで選択肢があります。月額費用は数千円程度が多く、その費用で審査が通るなら費用対効果は高いです。
③ 孤独死保険の加入
万が一の際の経済的損失をカバーする手段です。孤独死が発生した場合の原状回復費用・残置物処理費用・家賃損失を保険で担保することで、オーナーの経済的リスクを大幅に軽減できます。家財保険に孤独死特約として付帯するタイプが一般的で、保険料は月額数百円程度のものもあります。
④ 近隣の緊急連絡先・連帯保証人の設定
「何かあったときにすぐに動ける人がいる」という実質的な安心感を提供する手段です。近隣に親族や知人がいれば、そのことをオーナーに伝えてください。単に連絡先を提出するだけでなく、「〇〇に住む息子が月に一度様子を見に来ている」という具体的な情報があるほど効果的です。
物件の属性も重要な要素です。 既に高齢者が多く入居している物件では、オーナーや管理会社が高齢者への対応に慣れているため、審査が通りやすい傾向があります。
ポータルサイトで「シニア歓迎」「高齢者可」の条件で絞り込むのと合わせて、物件の入居者層を内見時に確認することをお勧めします。
保証会社全般については、保証人不要・保証会社の解説記事も参考にしてください。
高齢者・シニアが物件を選ぶときのポイント
審査を通すための準備と並行して、物件選び自体にも高齢者特有の視点が必要です。
バリアフリーの確認は最優先事項です。玄関・廊下・浴室・トイレの段差の有無、手すりの設置状況、廊下幅(車椅子・歩行器が通れるか)を内見時に必ず確認してください。今は必要なくても、数年後の状態変化を見越した物件選びが後悔を防ぎます。
立地については、医療機関・薬局・スーパーへの徒歩圏内かどうかを優先してください。車を手放した後の生活を想定したアクセスの確認が重要です。
階数については、高層階より低層階を選ぶことをお勧めします。平時はエレベーターで問題ありませんが、地震・停電時にエレベーターが停止した場合、高層階への階段での上下は高齢者にとって現実的に困難です。緊急避難も同様です。将来のリスクを考えると、1〜3階の低層階が安心でしょう。
親を一般賃貸に住まわせる「現実のリスク」と想定しておくべきこと
「高齢の親の賃貸を探している」という方に、特に読んでほしい、押さえておきたいポイントです。元気なうちに入居できたとしても、その後の状態変化に伴うリスクを事前に家族で共有しておくことが大切です。
リスク①:認知症が進んだときの共同生活の難しさ
管理会社として実際に経験したことがあります。認知症が進行した入居者による深夜の徘徊・誤って別の部屋に侵入するといった出来事は、複数回経験しています。こうした状況が生じると、共同生活を維持することが困難になります。管理会社として取れる対応は「連帯保証人・家族への退室要請」が基本です。
つまり「元気なうちに審査を通って入居できても、認知症が進行した段階で退室を求められることがある」という現実を、家族で事前に理解しておく必要があります。
リスク②:契約行為の問題
認知症が進行すると、本人が契約行為を行えなくなる場合があります。更新や解約の手続きに支障が生じることを想定して、任意後見制度の活用や子どもへの委任状の整備を早めに検討しておくことをお勧めします。
リスク③:万が一の際の家族への影響
孤独死が発生した場合、残置物の処理・原状回復費用の負担が家族に及ぶ可能性があります。③の孤独死保険があれば軽減できますが、それでも手続きの手間は残ります。「その時にどう動くか」を事前に家族で話し合っておくことが、後の混乱を防ぎます。
一般賃貸以外の選択肢──元気な段階から知っておく
一般賃貸の審査が難しい場合、または将来の状態変化に備えた選択肢として、以下を把握しておくことをお勧めします。
UR賃貸住宅は、保証人不要・礼金なし・更新料なしという条件で、高齢者に対して比較的受け入れやすい体制が整っています。収入基準はありますが、年金収入でも一定の基準を満たせば入居できます。
終身建物賃貸借制度は、60歳以上を対象として生涯入居が保障される制度です。一般の賃貸と異なり、加齢を理由とした退去を求められる心配がありません。対象物件は限られますが、選択肢として検討する価値があります。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、見守りサービスが付帯した賃貸住宅です。状態が変化しても継続して住み続けられる環境が整っており、一般賃貸から移行する際の選択肢になります。
現場の実感として、本人が元気な段階では一般賃貸・URが現実的な選択肢です。子どもが主導権を持つ段階に移行してからサ高住・有料老人ホームという流れが多いです。今の選択肢と将来の選択肢を区別して、段階的に考えることが重要です。
立場別ワンポイント
高齢者本人の方へ:70歳になる前に動くことが最大の対策です。元気で収入が安定している段階の審査は、70歳を超えてからとは全く異なります。4つの交渉材料を揃えて、高齢者が多く入居している物件を優先して探してください。
家族・子どもの方へ:代理契約が最も有効な手段です。親が元気なうちに一緒に物件を探しておくことが、将来の混乱を防ぎます。認知症が進行した後の退室リスクを家族で共有し、見守りサービス・孤独死保険・任意後見制度の準備を早めに整えることをお勧めします。
オーナー・管理会社の方へ:孤独死リスクは高齢者だけの問題ではないというデータを正しく理解することが出発点です。見守りサービス込みでの受け入れを条件として提示することで、リスクを軽減しながら長期入居者を確保できます。高齢者は生活スタイルが安定していることが多く、長期入居による安定した家賃収入・入居者入れ替えコストの削減というメリットもあります。
総じて、高齢者やシニアの受け入れは、管理体制などで一定程度のリスクを回避することが可能です。さらに言えば、少子高齢化のこの時代に、高齢者やシニアの層を度外視して賃貸経営を進める、ということ自体がそもそも現実的ではありません。