
「リノベーション済み」の物件を見ると、おしゃれで新築みたいで、しかも家賃が安い。お得な選択肢に見えますよね。確かに本物のリノベーション物件は魅力的です。ただ、不動産業界で20年近く現場を見てきた立場から申し上げれば、「リノベーション」という言葉には、品質のばらつきと退去費用の罠が潜んでいます。
この記事では、リノベーション物件のメリットはきちんとお伝えしながら、表面だけきれいにした「なんちゃってリノベ」の見抜き方・見えない箇所の確認方法・退去費用の落とし穴まで、現場の実態をもとに全部解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、お部屋探しの参考にされてください。
まず「リノベーション」と「リフォーム」を整理する
物件を探していると「リノベーション」「リフォーム」という言葉が混在していますが、本来の意味は異なります。
リフォームは、劣化した箇所を元の状態に戻す修繕・補修工事のことです。クロスの張り替え・フローリングの補修・設備の交換などが中心で、比較的小規模な工事を指します。
リノベーションは、既存の建物に新たな付加価値を加える大規模な改修工事です。間取りの変更・スケルトンからの全面改装・配管の刷新・断熱改修などを含む、より本格的な工事を指します。
ただし現実のポータルサイトでは、クロスと床を張り替えただけの小規模工事も「リノベーション」と表記されていることが少なくありません。「リノベーション済み」という言葉を見ても、実際の工事範囲は物件によって全く異なります。この前提を持ったうえで、次のセクションを読んでください。
店長の独り言
「今の賃貸市場は、「ちょっと厚化粧しただけのばんそうこう(リフォーム)」なのに、背伸びして「私は整形手術(リノベーション)しました!」と名乗っている物件がウジャウジャいます。
「お、美人(リノベ)物件だな」と思って内見に行ったら、実はメイクを落とすと(壁の裏側は)シワシワのボロボロだった…なんて悲劇が、今のポータルサイトでは日常茶飯事です。」
リノベーション物件のメリット
本格的なリノベーションが施された物件には、単に「内装が綺麗」というだけではない、賃貸生活を豊かにする具体的なメリットが揃っています。ここでは、その代表的な3つのポイントを整理します。
1. 新築同等のクオリティを「賢い賃料」で享受できる
最大の魅力は、最新の設備やデザイン性の高い空間を、新築物件よりも抑えた家賃で手に入れられるケースが多い点です。 近年の建築コスト高騰により、新築物件は家賃が高い割に内装が画一的になりがちです。一方で、本格的なリノベーション物件は「建物自体の取得コスト」の低さを活かし、その分、ハイグレードなキッチンやこだわりの床材など、内装や設備に予算を集中させています。
2. 現代のライフスタイルに最適化された間取り
築年数が経過した物件に多い「細切れの部屋」を一度解体し、広々としたLDKや対面式キッチンへと作り変えられるのがリノベーションの強みです。 単なる修繕ではなく、現代の暮らしに合わせてコンセントの位置や収納の配置、生活動線が再設計されています。そのため、新築物件以上に「今の暮らし」にフィットした使い勝手の良さを実感できる物件が少なくありません。
3. 「変えられない価値(立地)」と住み心地の両立
駅徒歩5分以内などの好立地は、すでに多くの建物が建っているため、新築物件が出ることは稀です。 しかし、リノベーション物件であれば、利便性の高いエリアにある築古マンションを選択肢に入れることができます。立地という「後から変えられない条件」を確保しながら、室内だけを最新の状態にアップデートできる。これは、都市部で賢く暮らしたい方にとって非常に合理的な選択肢となります。
ただし、これらのメリットはあくまで「本格的な工事」が行われていることが前提です。 次のセクションでは、後悔しない物件選びのために欠かせない「見極め方」の具体的なポイントを解説します。
「なんちゃってリノベ」の実態──品質は「誰がやったか」で全く変わる
リノベーション物件の品質は、工事を誰がどこまで行ったかによって大きく変わります。大きく3種類に分類できます。
買取再販業者・設計事務所が入った本格リノベは、物件を買い取ったうえで設計事務所や専門の工務店が間取り設計から施工まで行うものです。CAD図面が作成され、電気・配管・断熱まで含めた工事が行われることが多く、品質が安定しています。
賃貸管理会社が独自に施工するリノベは、品質にばらつきがあり、工事の範囲や内容が不透明なことがあります。
最も注意が必要なのが、管理会社が家主に費用を貸し付けて施工するケースです。賃貸オーナーは資金力に限界があるため、管理会社がリノベーション費用をオーナーに貸し付け(分割払い)する形で工事を行うことがあります。この場合、管理会社の利益・手数料・分割手数料が工事費に上乗せされます。
予算の大半がそこに消えるため、実際の工事はコストを抑えた表面的なものになりがちなのです。
品質が本格的かどうかを確かめる方法として、「この物件の設計図面(CAD図面)はありますか」と担当者に聞いてみることをお勧めします。「あります」という回答なら、設計・工務がきちんと入っているリノベーションの可能性が高いです。
逆に「ありません」という回答も、それ自体が情報です。図面がないということは、現場の職人の経験だけで収めた工事である可能性を示唆しています。物件の素性を確認するための質問として活用してください。
店長の独り言
「多くの管理会社は工事を家主から受注することに全力を注いでいます。なぜなら、それが彼らの大きな収入源だからです。もちろん、工事で稼ぐこと自体は悪いことではありませんし、それがリノベーションであることにも何の違和感もありません。
問題があるのは「何の目的もなく築年数が古いという理由で無理やり工事を提案し、受注している管理会社」だと考えます。
空室対策と称して、古い物件の中身をなんとなく新しく見せて家賃を上乗せして募集する、これ自体は間違ったことではありません。しかし、本当にそれは建物の利用価値を底上げし、建物の耐用年数を伸ばすためのものになっているのか、がベースにあるべきだと考えます。
そうでない、要はなんとなく提案してなんとなく受注したリノベーション工事の部屋にあたってしまうと、見た目はきれいだけど、配管は昔のまま、なんてことはザラにあります。
結果、入居後のトラブルやクレームが増加してしまうので、やっぱりこういう『なんちゃってリノベ』はやめるべきだと思ったりするのです」
内見で品質を見抜く5つのチェックポイント
1. クロスの継ぎ目・床材の施工精度を確認する
クロスの継ぎ目がきちんと処理されているか、浮き・剥がれ・継ぎ目のズレがないかを確認します。床材は歩きながら不陸(床の歪み・沈み)がないか、きしまないかを確認してください。
古い建物の歪みを無視して新しいフローリングを貼った場合、歩くたびにミシミシと音がしたり、床が沈む箇所が生じることがあります。内見時は部屋の端から端まで実際に歩き、足の裏で床の状態を感じてみてください。
2. 全ての扉・建具の開閉を確認する
クローゼット・室内ドア・収納扉を全て実際に開閉してください。スムーズに動くか、引っかかりや歪みがないかを確認します。古い建物の経年変形を隠すように内装を仕上げた場合、建具の建付けに支障が出ていることがあります。
3. キッチン・洗面台周りのコーキングを確認する
水回り設備の周囲のコーキング(防水シーリング)が適切に施工されているかを確認します。コーキングの打ち忘れ・隙間・雑な仕上がりは、水漏れやカビの原因になります。コーキングが丁寧かどうかは施工品質を判断する分かりやすい指標です。
4. コンセントの位置と数を確認する
なんちゃってリノベは壁を開口するコストを惜しむため、コンセントの位置が古いまま・数が不足していることが多いです。本格的なリノベーションでは生活動線に合わせてコンセントの位置と数を更新します。キッチン・デスク周り・ベッドサイドにコンセントが適切に配置されているかを確認してください。
不便な位置にしかない場合は、電気配線が更新されていないサインと言えるでしょう。
5. 床下点検口とブレーカーを確認する
洗面台や押し入れの床に床下点検口がある場合は、蓋を開けて配管の状態を目視確認できます。ブレーカーの盤を見ると、電気設備が更新されているかどうかの目安になります。古いブレーカーがそのまま使われている場合は、電気工事が工事範囲に含まれていない可能性があります。
詳しくは築年数・旧耐震の見極め方も参考にしてください。
見えない箇所に潜む「3つのリスク」
①排水管が古いまま──夏場の異臭問題
内装がどれだけ新品でも、給排水管の年数はリノベーションでリセットされないことがほとんどです。特に排水管が古いまま残されている場合、封水(排水トラップに溜まる水)が蒸発しやすい夏場に、排水管から下水の異臭が室内に上がってくるリスクがあります。
見た目は新築同様でも、排水系統が古いまま残っている物件では、これが入居後の大きなストレスになり得ます。
②サッシ未交換による断熱・結露の問題
内装をいくら新しくしても、窓のサッシが交換されていない場合、冬場の断熱性能は古いままです。特に築古の単板ガラス・アルミサッシが残されているリノベーション物件では、冬場に壁際・窓周辺で結露が発生し、壁紙の裏がカビだらけになることがあります。
内見時にサッシの素材・ガラスの枚数を確認してください。
詳しくはペアガラスの解説記事も参考にしてください。
③和室→フローリング変更で音が響きやすくなるケース
リノベーションで和室を洋室(フローリング)に変更した場合、音の問題が悪化することがあります。畳は衝撃音を吸収する素材ですが、フローリングは音を反射・伝達しやすい素材です。上階の歩行音・落下音が下の階に響きやすくなるという、リノベーションによる「改悪」のケースが実際にあります。間取り変更の内容と元の仕様を確認しておくことも有益です。
構造と防音の解説記事も参考にしてください。
退去費用の落とし穴──新品内装は耐用年数がリセットされている
これがリノベーション物件で最も見落とされがちな落とし穴です。築30年の物件でも、リノベーション直後に入居した場合、内装(クロス・フローリング)の耐用年数は入居時点からリセットされます。考え方は新築と同じです。入居から2〜3年で退去した場合、クロスの耐用年数(6年)はほとんど残っており、傷や汚損があれば費用負担が大きくなります。
「築30年だから少々汚しても大丈夫だろう」という感覚は、リノベーション物件では通用しません。新品のクロス・フローリングに傷をつけた場合、耐用年数の残存価値が高いぶん、通常の築古物件より費用負担が大きくなる可能性があります。
入居時に全室の写真を撮って記録しておくことを強くお勧めします。特に新品に見えるクロスや床材に既存の傷・汚れがある場合は、入居前に管理会社に報告して記録を残してください。
退去費用の耐用年数については減価償却と耐用年数の解説記事、フローリングの退去費用についてはフローリング退去費用の解説記事も参考にしてください。
契約前に確認すべき3つのポイント
内見とあわせて、契約前に以下の3点を確認してください。内見チェックリストも合わせて参考にしてみてください。
1. CAD図面の有無を確認する ある場合は本格リノベの可能性が高く、ない場合も判断材料になります。詳しくは重要事項説明書の確認ポイントも参考にしてください。
2. 工事の範囲を具体的に確認する 給排水管・電気配線・断熱材・サッシの更新有無を確認します。工事範囲が曖昧な物件は、表面的な仕上げにとどまっている可能性があります。
3. 入居時の写真記録を徹底する リノベーション直後の物件は退去費用の基準が厳しくなりやすいため、入居時の記録が特に重要です。
店長の独り言
「リノベーション工事を行うときは、営業担当者・設計・インテリアコーディネーター・現場監督の4者で行うことが一般的です。
もしも、営業担当者がざっくりと決めて、工事業者に丸投げしているときは、設計・インテリアコーディネーター・現場監督が不在、という非常に恐ろしい状態でリノベーション工事がなされるということになります。
管理会社の担当者は一人当たり500戸程度の担当戸数を割り当てられています。そのなかで、一室のリノベーション工事にどれだけの時間を費やすことができるでしょうか?ましてや、設計やインテリアコーディネーターがいないとなれば、営業担当者が真摯にリノベーション工事に向き合えるとは到底考えられません。
ひどいときは、相見積もりやコンペをせずに受発注しているケースもあります。」
リノベーション済み物件に向いている人・向いていない人
向いている人は、デザイン性の高い内装・好立地・新築より安い家賃を求めており、内見時に品質確認を丁寧に行える方です。長めの入居を予定している方(2年以上)は、退去費用の耐用年数リスクが相対的に小さくなります。
分譲賃貸物件や新築物件と比較検討したうえで判断することをお勧めします。
向いていない人は、短期入居を予定している方です。退去費用リスクが高まるため慎重に検討してください。アレルギー体質や室内環境にシビアな方は、サッシ未交換による結露・カビのリスクを特に気にしてください。
リノベーション物件は「見た目の新しさ」と「建物としての年数」を切り分けて判断することが全てです。内装の美しさに引きずられず、見えない部分の素性を確認することが、後悔のない選択につながります。
この記事を書いた人:不動産会社店長
業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計50本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。
不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。
- 東急リバブル(LIVABLE タイムズ):法人・投資家向けのCRE戦略や空き家対策記事を20本以上寄稿
- ハウスコム(暮らしエイト):宅建士の視点から賃貸トラブル解決法を30本以上執筆
- CHINTAI(CHINTAI情報局):現場を知る店長としてお悩み解決記事を連載中