詐欺による取消しとは何か|騙されて結んだ契約を取り消せる条件を現役宅建士店長がわかりやすく解説

「騙されて契約してしまった、取り消せないのか」不動産取引では、こういった相談が少なからずあります。売主が物件の欠陥を隠していた、重要なことを告げられなかった、第三者に嘘の情報を吹き込まれて契約した、といったケースです。

民法は、故意に相手を騙して契約させた場合、一定の条件のもとで取消しを認めています。これが詐欺による取消し(民法96条)です。

ただし「騙された気がする」という感覚だけでは取消しは認められません。法律上の詐欺には、きちんとした要件があります。この記事では、試験に出る論点と、現場で実際に起きた事例をあわせてわかりやすく解説します。

目次

詐欺とは何か?定義と取消しの条件

詐欺とは、故意に相手を騙して錯誤に陥らせ、その錯誤によって意思表示をさせる行為のことです(民法96条1項)。ポイントは「故意」という点で、うっかり嘘をついてしまったケースは詐欺には該当しません。騙す意図があったこと、そしてその嘘によって相手が勘違いし、その勘違いによって契約したという因果関係が必要です。

詐欺による意思表示は取り消すことができます。取消しができると、契約はさかのぼって無効になります。取消しを主張できるのは騙された本人(表意者)とその代理人・承継人のみで、相手方から「あなたは騙されているからこの契約はなしだ」とは言えません。取消権は錯誤に気づいたときから5年(または行為のときから20年)で消滅します。

第三者が騙したケース|第三者詐欺

詐欺をするのは取引の相手方とは限りません。取引と関係のない第三者が騙した場合はどうなるか、というのが「第三者詐欺」の問題です(民法96条2項)。ちょっとわかりやすく言えば、全然取引と関係のない誰か(第三者)にそそのかされたら、というイメージを持ってください。

この場合、取消しができるかどうかは相手方(取引の相手)が詐欺の事実を知っていたか、知ることができたかによって決まります。

  • 相手方が詐欺の事実を知っていた(悪意)または知ることができた(有過失) → 取消しできる
  • 相手方が詐欺の事実を知らず、知らないことに過失もなかった(善意無過失) → 取消しできない

第三者に騙されたのは気の毒ですが、詐欺に関与していない相手方を無条件に不利にするのは不公平です。そこで相手方の「知っていたかどうか」で線引きをしているわけです。

善意無過失の第三者には対抗できない(※強迫との決定的な違い)

取消しが認められた場合でも、善意かつ無過失の第三者にはその取消しを対抗できません(民法96条3項)。

AがBに騙されて土地を売り、BがさらにCに転売した後でAが取消しを主張しようとしたとき、Cが「AとBの間に詐欺があったことを知らず、知らないことに過失もなかった」場合、AはCに「土地を返せ」とは言えません。

事情を何も知らないCまで巻き込んで取引を覆すのは、取引の安全を著しく害するためです。

宅建試験で絶対に落とせないポイント

詐欺の取消しで試験に出やすい論点を整理します。

取消しができるのは騙された本人等のみです。取消し後は契約はさかのぼって無効になります。第三者詐欺では相手方の悪意または有過失が条件です(善意無過失なら取消し不可)。善意無過失の第三者には対抗不可、この3点は毎年のように問われる論点です。

【サルバナナ劇場】詐欺をわかりやすく解説

ここからはサルバナナ劇場です。詐欺の論点を動物たちで確認します。

基本パターン「タヌキに騙されたウキキ」

サルキチは自分の土地を売ろうとしていました。買主のタヌキ商人が「この土地は地盤が悪くて価値が低い、相場の半額が限界だ」と嘘をつきました。サルキチはすっかり信じ込み、相場の半額で売却契約を結んでしまいました。しかし後から、地盤には何の問題もなかったことが判明しました。

タヌキ商人は「故意に嘘をついて」「サルキチを錯誤に陥らせ」「その錯誤によって安値で売らせた」わけです。詐欺の要件をすべて満たしているので、サルキチは売買契約を取り消すことができます。

第三者詐欺パターン「タヌキ商人に嘘をつかれたウキキ」

サルキチはゴリラ社長から土地を買おうとしていました。ゴリラ社長の知人であるタヌキ商人が、サルキチに近づいて「この土地の地盤は最高だ、今が絶対の買い時だ」と吹き込みました。しかしタヌキ商人は地盤に大きな問題があることを知ったうえで、故意に嘘をついていたのです。サルキチは信じ込んで購入しましたが、後から地盤の問題が発覚しました。

ここが錯誤(勘違い)との決定的な違いです。錯誤は「自分で勘違いした」ケースですが、詐欺は「第三者が故意に嘘をついて騙した」ケースです。タヌキ商人には騙す意図があり、サルキチはその嘘によって契約させられました。

詐欺をしたのはタヌキ商人(第三者)です。このとき取消しができるかどうかは、ゴリラ社長(相手方)がタヌキ商人(第三者)の嘘を知っていたか、知ることができたかによって決まります。

  • ゴリラ社長がタヌキ商人と示し合わせていた → 取消しできる
  • ゴリラ社長が何も知らず、知らないことに落ち度もなかった → 取消しできない

ゴリラ社長が詐欺に関与していないのに一方的に不利になるのは気の毒ですから、ゴリラ社長が事情を知り得なかった場合はサルキチの取消しは認められない、というのが民法の考え方です。

善意無過失の第三者パターン「何も知らないピュアなシマウマが買ったとき」

タヌキ商人に騙されてサルキチが土地を安く売ってしまった後、タヌキ商人はその土地を何も事情を知らないピュアなシマウマに転売してしまいました。後からサルキチが「詐欺だから取り消す」と言っても、何も悪くないシマウマは困ります。

このケースでは、サルキチはシマウマに取消しを対抗できません。シマウマが善意無過失の第三者にあたるからです。

取消しの主張は「タヌキ商人との関係」では認められますが、すでに権利を取得した善意無過失の第三者(シマウマ)には通用しない、ここが詐欺の第三者保護のポイントです。

詐欺と強迫|宅建試験で最も狙われるひっかけポイント

サルバナナ劇場で詐欺の論点を確認しましたが、宅建試験で最も失点しやすいのが「詐欺」と「強迫(脅されて契約させられたケース)」の扱いの違いです。

民法は騙された人と脅された人を明確に区別しています。騙された側には「ちょっとうっかりしていた(落ち度)」があるとみなされますが、刃物を突きつけられて脅された場合は「本人に落ち度が1ミリもない」と判断するからです。

論点詐欺による取消し強迫による取消し
騙された・脅された本人取消しできる取消しできる
第三者詐欺・第三者強迫相手方が悪意・有過失なら取消せる相手方の状態に関わらずいつでも取消せる
善意無過失の第三者への対抗対抗できない(シマウマが勝つ)対抗できる(サルキチが勝つ)

「詐欺は善意無過失の第三者に負けるが、強迫ならば勝てる」、この違いは選択肢の裏をかく形で毎年のように出題されます。確実に覚えておきましょう。

実務ではこうなる|現役宅建士が使いどころを解説

詐欺の規定が実務で問題になる場面は、法律の教科書が想定するような「あからさまな騙し」より、グレーゾーンに近い形で現れることがほとんどです。

なお、これらの事例を一律で意図的に悪意をもってなされた「詐欺行為」だと断定しているわけではありません。実務では詐欺に巻き込まれるようなことは本当にまれであり、ほとんどの人が信義誠実を旨として取引に対応していただいています。

今回事例として紹介するのは、あくまでも「これは見方を変えれば詐欺に該当してもおかしくないのかな」という部分についてです。法的な解釈、真偽、意図、行為の妥当性について見解を示すものでは決してありません。その点は当事者の名誉のためにもご理解のうえ、読み進められてください。

野良猫の苦情隠し|物件の瑕疵告知と詐欺の境界線

私が経験した案件で、こういうことがありました。

買主から「この物件の周辺に野良猫が異常に多い」というクレームが入り、やがて裁判に発展しました。よくよく調べていくと、売主が以前から野良猫の多さについて行政に苦情を申し出て、対策を求めた記録が残っていたのです。

売主がその事実を意図的に隠していたのか、「大したことではない」と思っていたのか、真意はわかりません。ただ、行政への申し出という「記録として残った行為」があった以上、知っていたことは明白です。

私たち(仲介業者)は、その申し出履歴を把握していませんでした。売主から開示されなかったからです。裁判の過程でその履歴が発覚したことで、私たちは被告の地位から逃れることができました。責任は売主に帰着したわけです。

これは法律上の「詐欺」とまで言えるかどうか微妙なラインですが、売主が知っていた事実を告げなかったことで買主が損害を被った、という意味では不法行為や契約不適合責任の問題として処理されます。「詐欺」の要件(故意に錯誤に陥らせた)を厳密に満たすかどうかより、「知っていて言わなかった」事実が争点になるわけです。

管理費の詐取|第三者詐欺に近い不動産トラブル

私自身の経験ではありませんが、管理会社として関わっていた物件でこんなことがありました。

管理物件の売主が、私たちに知らせないまま物件を売却していました。新しい売主に所有権が移っていたにもかかわらず、旧売主が管理者の立場として居座り続け、私たちは旧売主への送金を続けていたのです。

本来であれば、売却後は新売主が管理会社に対して所有権の移転を申し出たうえで、サブリースなのか二次管理なのか、契約内容を書面で示しながら管理スキームを構築し直す必要があります。今回はそれが一切なされていませんでした。

推察するに、旧売主はお金の事情で物件を売却しながらも、管理会社を通じた送金という形で売却後もいくばくかのお金が入り続けるスキームを意図的に作っていたのでしょう。旧売主が「管理者として引き続き機能している」という外形を管理会社に信じ込ませた、という意味では第三者詐欺に近い構造です。

幸い新売主から異議申し立てはなかったようですが、新売主が「自分に支払われるべき金が旧売主に流れていた」と主張すれば大きなトラブルに発展しえました。正直に申し出てもらえていれば、管理会社としても適切なスキームを組めたはずです。こういったケースでは、発覚した時点で管理契約を解除するのが当然の対応になります。

【店長の独り言】

「法律上の「詐欺」が成立するには、故意・錯誤・因果関係という3つの要件が必要で、これを証明するのは実務上かなり難しいです。現場で問題になるのは、詐欺の手前にある「知っていて言わなかった」という告知義務違反や契約不適合責任のケースがほとんどです。

そのためにも、仲介業者は調査をとことんやりきる。それが最大のリスクヘッジです。」

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この記事を書いた人:不動産会社店長

業界歴20年以上の現役店長。現場の第一線で培った知見を活かし、大手不動産メディアにて累計100本以上の専門記事を執筆中。 業界の表も裏も知り尽くした「不動産のプロ」として、不動産会社の不都合な真実を伝えます。

不動産・建築の専門家として、以下の大手メディアにて2026年現在も継続的に執筆・監修を行っています。

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